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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー圧倒的な差ー
125/689

ーけじめー

答えはもう決まっている。


「行くわ。行くに決まってるわ」


迷う余地もない。


行くか、戻るか問われたとき、マリナは嬉しかった。

やっと認めてもらえたのだ。やっと、皆と肩を並べられる。

今は力が衰えてしまっているが、一緒にいられる。すぐには無理かもしれないが、あの時の恩返しができる。


満足そうに微笑むレイラと、覚悟を受け取ったかのような顔を見せるリゼル。


「今は体調を戻すのに専念しろ。出発日は考慮する」

「……ありがとう」

「気にするな。ゆっくり休め」

「来てくれて嬉しいです。では、また!」


レイラは立ち上がるが、リゼルは座ったままだ。

同時に退室するつもりだったが、彼は動かない。不思議そうに彼女が首を傾げていると、彼は口を開いた。


「……レイラ、お前は先に戻ってろ」

「えっと……?構いませんが……」


レイラを先に帰すリゼル。

部屋に二人きりにされ、マリナは少し緊張する。


(二人きり……)


きっと、レイラに聞かれたくない話だろう。

何を言われるのだろうか。マリナはリゼルの様子を窺っている。


「…………」


彼は数十秒の沈黙の後、口を開いた。


「僕を……」

「…………」


そこから言葉が続かないリゼル。

しかし、顔は背けない。まっすぐにマリナを見つめている。

唇がかすかに動いてはいるが、声は出てこない。


「僕を……その……」


どうしても言葉が出てこない。

クソ、と悪態をつきながら、頭をかく。こんなにしおらしいリゼルは見たことがない。


言いにくいことなら、また今度の機会でも自分は構わない、と思い、声をかける。


「……またにする?」

「いや、良いんだ。今……言わせてくれ」


が、リゼルはその提案を切った。今の方が良いらしい。

リゼルは空を仰ぎ、ふー、と長く息を吹く。

前髪がそれに吹かれ、靡いている。


「マリナ」

「はい!」


まっすぐマリナを見つめ直す。

リゼルは顔立ちが良い。それに加え、そんな目で見られたら、何か特別な感情でも湧いてきてしまいそうだ。


「僕を、恨んでいるか?」

「……え?」


意味が分からない。

なぜ、自分がリゼルのことを恨まなければならないのか。


質問の意味が分からず、固まっていると、重ねて彼は言った。


「僕はあの時、お前を期待させるようなことを言った。連れていく気もないくせに」


彼から提案された自分への課題。

到底クリアできる難易度ではなかったように思う。

レイラからの心証を悪くならないように提案する一方で、その中身は無理難題。

彼が自分の動向を許すつもりがなかったのだと後になって分かる。


「…………」

「言い訳になる……だから、あれこれ言わない……が……酷な条件を出したと思っている」


すまない、と頭を下げるリゼル。


どうやら、彼は心にそれがずっと引っかかっていたようだ。

提案があったこと自体は非常に喜ばしかった。たとえ、それが無理難題だったとしても。

彼の立場から、譲れることが多くないのも想像できる。

その中での(騎士団やレイラ寄りの)折衷案だったのだ。


そう。あの時の自分は、不要な人材だった。

だが、今はそんなこと気にしていない。


「わたしこそ……」


マリナは涙を我慢しながら訴える。

感情が高ぶり、声が大きくなる。


「わたしこそ、無茶なお願いだったってことくらい分かってる!!」

「!」

「分かってた。歓迎されてなかったことくらい」

「…………」


『歓迎されていない』と言う言葉に、リゼルは言葉に詰まる。

実際のところ、龍力も使えないエラー龍力者を育てるのは、リゼルたちの仕事ではない。

歓迎できる状況ではなかったのは事実だ。が、それを口に出して「そうだ」と言うのは気が引けた。

前線ではなく、教育グループならば歓迎なのだったが、彼女のニーズにそぐわない。

だから、こうなった。


「でも、あなたの言い分もすっごい理解できるの!!」

「それは……」

「だから、わたしはあなたを恨んでない!今こうやって何かやってくれてるだけでも十分なの!」

「そう……か……」

「正直、最初は、あなたが怖かった。けど、今ので変わったわ。あなたは優しい。とっても不器用だけど」


レイラとは違う、マリナの笑み。

優しい、と言われ、心がざわつくリゼル。目を反らし、前髪で目を隠す。


「……買いかぶりだ。僕は優しくない」

「勝手に言ってなさい。わたしはそう思ってるから」


マリナに微笑まれ、彼はため息をつく。


「……勝手にしろ」


これ以上言い合っても無駄だ。

彼女の中で優しい認定をされてしまった。

全く、困ったものである。




「……ふふ」


病室の外で、とある明るい金髪の女性は、中の様子をコッソリ聞いていた。

二人の会話に、思わず笑みと声が漏れる。


「リゼル……良かったですね」


そう呟くと、軽い足取りで、その女性は去っていくのだった。

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