ー面談ー
検査が終わり、一息ついたところで、リゼル、レイラとの面談が行われた。
用意された休憩室のような部屋に、三人。
全員総出でないのは、大勢で話しても疲れるだけだからだ。
レイズ、バーバル、ミーネの三人は待機している。
面談前、マリナは彼らと軽く話したが、全員変わりなさそうだった。
新たな仲間であるミーネはもごもごしていたが、マリナの方も人見知りが一人加わったことは聞いていたため、気にならなかった。
そして、面談が始まる。
「……で、今後のことが」
「うん」
マリナは唇を固く結ぶ。
自分は騎士団員ではない。
戦闘で見聞きしたことを忘れ、一般人に戻れと言われる覚悟はできている。
あの時より強くはなったが、それでも自分は足手まといだと思う。
荷物を抱えて先に進むことはないだろう。今の彼らに、そんな余裕はない。
「僕たちは、シャンバーレに向かう」
彼の口から出てきた言葉は、『帰れ』ではなく、町の名前だった。
「シャン……バーレ?」
聞いたことのない町だ。無意識に反復していた。
マリナ自身、ダルトから出たことがなく、地理が頭に入っていない。そういう意味では、知らなくても仕方のないことである。
「シャンバーレは南にある、武道の町だ」
「……へぇ」
「そこなら、龍魂について、何か分かるかもしれない」
「んっと……?」
「騎士団とは溝が深い。だから、僕たちが知らないことがあるかもしれない」
「うん……」
リゼルはスラスラと話しているが、こちらとしては、話が見えてこない。
確かに、龍魂のことはよく分かっていない部分も多い。が、なぜそれを自分に話すのかが分からない。
今の話で、武道の町に騎士団が可能性を感じていること。それだけは分かった。
「リゼル、もう少し分かりやすく言わないと……」
思考が停止しているのを見抜かれたか、レイラがリゼルに囁く。
「あぁ……ち……」
そこで初めて、マリナの困惑している姿が目に入る。
否、見えてはいたのだが、落ち着いて話せない(個人的な)事情があり、こちらの用事を優先してしまっていた。
少々分かりにくかったかもしれない。
今までは、それなりに話の通じる者同士の会話だったり、指示と言うか、従わせることの多い会話だったりした。
マリナは一般人で、来るかどうかは本人次第。
分かりやすく、かつ個人で判断ができるように言わなければならない。
それに加え、リゼルの説明が荒いのには理由があった。
「……ゆっくり説明する」
シャンバーレのこと。
騎士団基地が存在せず、協力関係にないこと。
それでも、シャンバーレ内や周囲の地域でのトラブルも自分たちで解決していること。
すなわち、解決できるだけの『力』があること。
「え?それって……」
「あぁ。シャンバーレには、騎士団の知らない力があるかも知れない」
ただ、その町と協力関係がないため、大っぴらに『騎士団』として調査はできない。
が、シャンバーレの実態を知るために、調査が必要になっていること。
そして、自分たちはこれからシャンバーレへ『旅人として』行くこと。
「旅人?」
「あぁ。騎士団の名前が使えない以上、そうするしかないだろう。一般人として、強さを探る」
「……レイラは?」
「行きますよ。身分を隠しますし、指摘されてもよく似ていると言われる、でごまかします」
彼女の謎のドヤ顔。
レイラ自身ニュースに乗ることは多くないが、ゼロではない。
バレる可能性はあるのだが。
「え~……?」
本当に、本当にそれで行けるのだろうか。
いくら騎士団と協力関係にないとは言え、一国の王の顔くらいは知られているはずだ。
そして、騎士団に籍を置いていることも。
まぁ、本人が行くならそれでいいのだろう。
「ここまでは僕たちの置かれている状況だ」
「…………」
なるほど。
救った礼(?)を兼ねて説明してくれたのか。
ここからは、口外禁止の念書でも書かされて、ダルトに戻されるのだろう。
「本題は、ここからだ」
「……うん」
「レイラたちと一緒に行きたいか?それとも、帰りたいか」
突然の選択肢。思考が止まる。
「え……?」
いきなり何を言うのだろう。
質問の意図が分からない。が、徐々に意味が分かってくる。
「それって、つまり」
「一緒に行くか、止めておくか、だ」
「!」
思わずレイラを見る。彼女はニコニコ微笑んでいる。どうやら、本気らしい。
「……今、わたしこんなだけど」
検査結果の用紙を差し出す。体力、龍力レベルは低下し、同年代の一般女性よりも力はない。
リゼルはそれを受け取りはしたが、一切見ようともしない。
「見て……こんなに落ちてる」
マリナは視線を落とす。
しかし。
「関係ない」
リゼルは力強く言う。
「(力が)……戻るかも、分かんないけど」
「関係ない」
そこで、マリナの顔が上がる。リゼルはまっすぐ自分を見つめ、「能力なんか関係ない」と繰り返す。
個人で努力し、龍力を使えるようになった。そして、その力で自分たちの命が救われた。それだけで十分だと。
「……!!」
マリナは目が熱くなるのを感じた。
返事は、もちろん決まっている。