ー反動ー
目を開けると、穏やかな光に包まれた自分がいた。
優しく、温かい光だ。窓から降り注ぐ太陽光とも相まって、非常に穏やかな気分になる。
光の大元。その人物を認識し、マリナは目を細める。
「……やっぱり、レイラ様だ……」
彼女は目を閉じ、自分の胸元辺りに手をかざし、龍力を使っていた。
傷を塞ぐような治癒術ではなく、ただ、温かな光で包んでくれていた。
ごそ、と布が動く感覚を手で感じ取ったのか、レイラはゆっくりと目を開ける。
「あ……」
「え……?」
自分と目が合う。こういう時、何て言えばいいのだろう。
でも、ここは一言。
「……おはよう、ございます……?」
「マ……リナ……?」
目をまん丸に開き、口もポカンと空いている。
信じられないものを見た顔だ。レイラのこんな表情は滅多に見られないだろう。
これはこれで面白い。
「良かった……!!」
身体が勝手に動いていた。
レイラは、マリナを抱きしめていた。強く、とても強く。
か細い身体を直に感じる。体力が落ちたからでもあるが、こんな身体で戦ってくれたのだ。
抱きしめて分かったが、思ったより『大きい』何がとは、言わないが。
「良かった!!目が覚めて……!!」
「……へへ」
痛いよ、とマリナは照れ隠しに呟く。
「あぁ、ごめんなさい。身体は大丈夫ですか!?」
レイラは慌てて身体を離す。
マリナは、本当に長く眠っていた。肉体的な衰え意外に、変なところはないと良いが。
「……どうだろ。けっこう寝てたみたいだし、だいぶ体力が落ちてるかも」
手を握ったり話したり、足を動かしてみたりする。
以前より動きが硬く、力が入りにくい気がする。
「傷は痛みますか!?」
傷、と言われ、マリナは無意識に患部を触る。
戦闘の記憶はあまりないのに、自然と手が伸びた。
つつ、と指先を走らせる。大丈夫。痛みはない。
「ううん、それは大丈夫」
「良かった!!人を呼んできますね!!」
「ん、ありがとう」
ドタバタとレイラは走って出ていく。
女王らしからぬその慌てように、マリナは苦笑いする。
ここは病院だ。他の人の迷惑にならなければいいが。
マリナの目覚めを聞いたナースは、すぐにドクターに伝える。その後、即座に検査が行われた。
体調面は問題なし。ただ、体力、龍力ともに落ちていることが分かった。
検査しなくても分かっていることだが、実際の数値で見ると、体力は60%くらいまで落ち、龍力は80%と大きく落ちていた。
検査結果の用紙を握りしめ、マリナは絶望する。
「半分じゃん……龍に関しては、ほとんどない……」
その現実は重い。
苦労して龍魂を扱えるようになり、暴走に頼りつつ限界を責めた。そこで皆に追いついたと思ったのに、また差ができてしまった。
これでは、完全なお荷物状態だ。これでは、同行できない。
(甘かった……!これが、世界……そんで、代償……)
これが、半暴走状態の反動。
ただ、それで倒せたならまだ良い。自分の体力と龍力を犠牲にして得た力なのに、敵を倒しきれなかった。
そこがマリナを余計に苦しめた。
世界は広く、とんでもない強さの敵がいる。
これ以上の強さを求めるなら、半暴走では足りない。
自分の身体を差し出す覚悟で、龍魂とシンクロさせなければ。
(もっと……力を……)
自分でも知らず知らずのうちに、危ない考えに走っている。
このまま一人であれば、更にドツボにハマっていただろう。しかし、この後面談が控えている。
(と、その前に、面談があるわ……)
考える時間は多くなく、意識が面談に向き始める。
(何話すんだろ……?)
マリナは不安を抱えながらも、自分の病室に足を向けるのだった。