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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー魔物の凶暴化ー
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ー雷龍使いの思いー

ここは、暗闇の中。


「…………」


長い間眠っている気がする。

これが『死』かとも思うことがあったが、時折熱い気持ちを感じる。そして、パートナーである雷龍の力も。

どうやら、自分はまだ生きているらしい。

そんな中、マリナ=ライフォードはレイラたちを別れた後のことを思い出していた。




レイラたちを追いかけるに至るまで、本当に苦しい訓練を繰り返した。


街中では迷惑になると考え、ダルト遺跡で精神を集中させてみたり、無我夢中でその辺の魔物と戦ってみたり。龍力は扱える段階ではなかったため、当然生身だ。


挫け、何度も剣を置きかけた。それでも、手は剣から離れなかった。

ここで手を離してしまえば、楽になる。しかし、同時にここだけは超えてはならない一線のような気がしてならなかった。

彼女は何度も立ち上がった。

そうして、時間はかかったが、自身に宿る雷龍の力を自力で引き出すことができた。


「よし……よし……!!」


マリナはとても喜んだ。

長いこと生きてはいないが、人生で最高の瞬間であるに違いないとさえ思えた。


これで、彼らに追いつける。

これで、皆と一緒に居られる。

これで、苦しんでいる人を救える。

と。


しかし、リミットは当に過ぎていた。

夢中になり過ぎて、日付の感覚が狂っていた。

ただ、どちらにせよ、期日までには間に合わなかったのだから、同じことではあるが。


彼女はすぐに両親に話し、ダルトを飛び出した。

王都に行くために。レイラの力になるために。


しかし、それは叶わなかった。

少ない貯金を切り崩し、王都に滞在していたマリナだが、レイラたちを見つけることはできなかった。

騎士団や城周辺を観光がてら散策していたが、まったく会える気配がなかった。

正式に入団手続きをしてしまえば、騎士団には入れるかもしれないが、レイラとは離れてしまう。そのため、偶然を装おう感じのが限界だった。


「……この気配……」


そればかりか、うまく言い表せない『嫌な気配』が強くなっていったのだ。


初めは無視しようとしたが、気になって仕方がなかった。夜も何度も目覚めてしまう。

大本を叩こうにも、どこに行こうとも均一に感じてしまい、濃淡が分からない。探そうにも探せなかった。


しばらくすると、その嫌な気配がパタリと消えた。

安堵していた矢先、ある日の早朝、王都の外で龍の乱れを僅かだが感じた。おそらく、戦闘があったのだ。

王都からそう遠くない距離。ただ、自分の足で行くにはちと遠い。


悶々とした気持ちを抱えながら、最初マリナはそれを無視しようとした。

自分は今、一般人である。騎士団に協力するには十分な力が必要だ。未熟者が手を貸す出番はない。

それに、王都全体を包むような気配だ。騎士団レベルの龍力者であれば何かしら察知し、動いているとも考えた。


(頑張って……)


マリナは願う。

どうか、勝って。と。


しかし、嫌な気配はどんどん大きくなり、肌がピリピリするレベルになっていた。戦闘が起こっているのは王都外なのに。

感覚が過敏になっていたのだと自分で思う。

無理して特訓を続けたせいで、龍を引き出すことはできたが、自分と龍との境目が分からなくなることが時折あった。

きっと、龍の感覚が強く出ていたのだろう。そのため、ここ数日は訓練を中止していた。

自分を守るためにも、必要な休息だったように思う。


よって、ここで動くのは色々と得策ではない。

しかし。


「……もう我慢できない」


マリナは王都を飛び出し、その嫌な気配に向かって走った。早朝だったため、店が開いていない。


「ッ……!」


時間が惜しい。龍の力を借り、走る。

走って、走って、走って見つけたのは、自分を助けてくれた恩人が倒されていく様だった。


金髪が舞い、身体が倒れていく。

闇色の髪の少年が激高し、一対一で戦うが、勝てる見込みがない。



「急げ……急ゲ……!!」


早く。早くしろ。

龍よ、目覚めてくれ。


数日休息していたのが裏目に出た。

自分の中に宿る雷龍の気配を感じたのは、闇色の少年が刺されてからだった。


「……!!」


体温が上昇する感覚。

目が開き、心臓が高鳴る。


「ゆル……さなイ!!」


マリナは、そこで龍力を解放した。

が、暴走時の爆発的な龍力に頼りながら、かつ、最低限の自我を残している。暴走状態を知っていなければ、できなかった芸当だと感じる。

自分の今の限界を知ったから、感覚的にその手前で止めることが、なんとかではあるが、できる。


ただ、それでも長期戦を強いられた。

最後の記憶は、敵が剣を作り出したことだ。


そこからどう自分が戦ったのか、よく覚えていない。

が、勝敗のこと。勝ちはしたが、倒しきれなかったことは覚えている。


視界を奪われた直後、何らかの因子が働いた。

そこで力が抜け、そこで気を失ったと思う。



そして、暗闇の中。


(助けられたかな……)


ぼんやりと思考が巡る。

マリナは、自分の無力さを悔やんでいた。

もっと特訓していれば。もっと龍力を上手く扱えることができれば。


(寝てる場合じゃないのに……)


身体が、動かない。

思考と共に、感覚を感じるようになる。


(あ、なんか……温い……)


心なしか、身体が温かい。

心が穏やかになっていく感覚。モヤモヤが消え、リラックスしていく感覚。

温かな『光』に包まれている感覚。


この光は。


「レイラ様……?」


マリナは、ゆっくりと目を開ける。


そこから、一気に脳が起き、様々な情報が入ってきた。

窓から入る光の眩しさ。ベッドの感覚。布団の柔らかさ。自分の体重。病院特有のニオイなど。


全ての感覚が復活した。

マリナ=ライフォードは、闇の中から生還したのだ。

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