ー戦いの傷ー
クラッツが帰った後、リゼルはレイラの病室を訪れていた。
看護師に事情を話し、部屋に案内してもらう。鍵をかけられているのは、自分だけのようだった。
「信用は、されているようだな」
「もちろんです。あなたは、勝手に出入りするからですよ?」
「あぁ……」
リゼルはベッド脇のイスに座る。
「傷は、どうだ?」
「えぇ。痛みはありません」
あの戦いでは、自分だけが応急キットを使うことができた。最後の戦いで傷は開いたものの、処置を一度もしていない他のメンバーよりは早く目覚めたのだろう。
「傷跡も、分かりにくいです」
「…………」
傷の話題に、リゼルは黙る。
嫁入り前の女性に傷が残るなどあってはならない。今からでも前線から退いて欲しいものだが、彼女はそれを望まないだろう。
なら、自分はそれを守る盾になるだけだ。当然、死ぬまで。
「……他の連中の状態だが――――――」
リゼルは他のメンバーの状況について、彼女に知らせている。
レイラ以外の仲間たちは、全員まだ眠っていた。
眠ってはいるが、モニターに出力されるバイタルの数値に乱れはなく、落ち着いている。
命に別状はない。
ただ一人を除いては。
(マリナ……)
廊下から見える、ガラスの向こう側。
彼女の病室にだけは、入ることが許されなかった。
生命管理をしている器具に差はない。身体面で言えば、無事のようだ。
問題なのは、精神面と龍力だ。
モニターには、現在の龍力値も出力されているが、数値がゼロに近い。
たまに数値が上昇することもあるが、3まで上がれば良い方だ。
眠っている仲間たちの数値ですら、二桁だ。それが一桁、しかもゼロに近いのだから、異常数値であることは容易に想像できる。
(半暴走状態で龍を使い切ったのか……)
あの時のマリナは、半暴走状態により、無理矢理龍力を引き上げている感じだった。
何とか自分を取り戻りたようだが、その反動は、やはり大きい。
「…………」
眠っているマリナを眺めながら、リゼルはあの戦闘を思い出していた。
無意識に、分厚いガラスに手を這わす。
(あいつがいたから……生き残れた……)
グレゴリーとの戦いを思い出す。
本当に、絶望的な状況だった。
あそこまでどうやって辿り着いたかは不明だが、マリナがいなければ、自分たちはあそこで終わっていただろう。
グレゴリーの言葉を信じるなら、あの場で殺すつもりはなかったようだ。が、どちらにせよ、ヤツは殺人鬼だ。見つけた以上、放っておくわけにもいかなかった。避けられない戦いだった。
マリナは、間違いなく自分たちの英雄だ。
(ゆっくり……休んでくれ)
僅かに一礼し、自分の病室に戻るリゼル。
今はとにかく休もう。体力を回復させるのだ。眠くないが、横になる。
仲間が目覚め、落ち着いたら、シャンバーレだ。
龍魂の深みを漠然と想像しながら、リゼルの刻は進んでいく。