ー四聖龍についてー
リゼルには、まだ聞きたいことがあった。
「クラッツ、四聖龍はどうだったんだ?」
四聖龍、という言葉にクラッツは一瞬表情を険しくする。が、それはすぐに消え、普段の表情に戻った。
「あぁ、各騎士団基地の聴取では、異変はなかった」
「……そうか」
だが、情報収集の方法が聴取である以上、異変が起きている可能性はゼロではない。
が、騎士団と四聖龍の関係を考慮した場合、これが限界か。
「……四聖龍は、グレゴリーを対処するだろうか?」
参ったかのように、クラッツは呟く。
「さぁな。四聖龍が動くのは、対魔物というイメージがあったが」
「そうだな。(四聖龍として)人前に姿を現さないようにしているしな……」
基本、四聖龍が動くのは魔物相手である。否。それは正確ではない。
『騎士団が犯罪者に後れを取らなかったため、要請することもなかったから』である。
ただ、過去の例を考える限りは、魔物以外で彼らが動いた記憶はない。
「うむ……」
クラッツは四聖龍を頼りたいようだが、リゼルは違う。
「人間の問題は、僕ら表の人間が対処するべきだ。レイラはいずれ、四聖龍にもメスを入れる」
「レイラ君が……?」
クラッツは驚いていた。
と言うのも、現状四聖龍は騎士団の奥の手だ。それを解体するとなれば、騎士団は大きな戦力を失うことになる。
最も、国民には言えない非公式の戦力ではあるが。
「…………」
考えるように一点を見つめ、黙っているクラッツ。念押しするように、リゼルは続ける。
「すぐにとは言わない。が、『最終的には四聖龍がなんとかする』という思考から抜けるべきだ」
「……それは、君の意見か?彼女の意見か?」
リゼルは「レイラの意見が絶対」という風潮もある。
レイラが右と言えば、正解が左でもホイホイついて行きそうな風にも感じてしまう。
「……僕の意見だ。この前のことで、それはよく分かった」
リゼルは少し考えるように間を置いたが、まっすぐにクラッツを見る。
「そうか。分かった。意見の一つとして覚えておこう」
レイラに気を遣った可能性もある。が、クラッツはリゼルが嘘を言っている風には見えなかった。
確かに、四聖龍に頼る騎士団では限界が来るだろう。
四聖龍の責務を全うしているとはいえ、北の四聖龍は騎士団に連絡なく人が交代しているのだから。
「……今日は帰ろう。ゆっくり休むと良い」
「そうさせてもらう。流石に疲れた」
彼の病室から出るクラッツ。
「さて、と……」
廊下の窓から外を眺める彼。
リゼルの前では、グレゴリーの件を忘れないよう意識して口に出したが、実は『グレゴリーは既に死んでいる』。
自分で見た訳ではなく、あくまで団員からの報告だ。ただ、死体自体はクラッツも確認している。そして、死因も。
(迷いない一撃……)
戦闘後の捜索で、一つの洞窟に辿り着いた団員。
そこで、グレゴリーは血を流して死んでいた。蓄積したダメージか、とも思ったが、明らかに種類が違う傷が深く入っていたのだ。
時間が経過していたからか、現場には残存龍力がなく、その他の犯人の手掛かりもなかった。
(騎士団としては、グレゴリーが消えてくれて助かった。ただ、グレゴリーを葬れる強力な龍力者がいるのは違いない)
だから、しばらく王には安全な場所にいてもらう。
あわよくば、龍力の可能性について掴んでもらえれば、と。
「……頼んだぞ。リゼル君」
雨は止み、雲の隙間から光の柱が伸びる。
これが、国が晴れるきっかけとなればいいのだが。