ー今後ー
大人しく病室で待っていると、五分とかからずクラッツが到着した。
今日はオフにしていたのか、格好は騎士団のものではなかった。
白いシャツに黒いパンツ。上着はグレーの長袖。
「リゼル君……災難だったな」
「他の奴らは?マリナは?」
「あぁ、命に別状はない。眠ってはいるがね。マリナ……唯一の一般女性のことか?彼女も無事だ」
皆も、マリナも無事と聞き、リゼルは胸をなでおろす。
本当に良かった。
「……僕たち全員、マリナに救われた」
「ほぅ……詳しく聞こう」
丸椅子を取り出し、クラッツはそこに座る。
「マリナはダルトのエラー龍力者『だった』」
「!」
そうか、彼女が……とクラッツは息をつく。
「あいつが……いや、僕たちが不甲斐ないばかりに、あいつに負担をかけた」
「そう、か……」
どうやら、国王や騎士団員を丸ごと救った英雄が彼女らしい。
団長としても、礼を言わなければならない。
「ふぅ……」
無意識に出た、団長のため息。
リゼルは話題を変える。
「で……あの後、どうなったんだ?」
「あぁ、聞いた話では……王都の騎士団が到着した時には、君たち以外、誰もいなかったようだ。当然、捜索しはしたが……」
「……そうか」
つまり、グレゴリーは完全に騎士団の手を逃れたということか。
心配なのは、報復と殺人の再開。あれ程の実力者が暴れれば、町はひとたまりもない。
騎士団員でも応戦できない。ヤツが回復する前に、見つけて叩かなければならないのだが。
「……グレゴリーは有り得ないくらい強かった」
「らしいな」
グレゴリーとは会っていないが、周囲の状況から、激しい戦闘であったことや、敵の強さは想像がつく。
騎士団の力では解決できない敵が現れ始めたのだ。
「どうするつもりだ?これから……」
「あぁ、マナラドの研究に、力の引き上げについて正式に依頼するつもりだ」
「…………」
リゼルは黙る。
現実的ではあるが、正直、それだと時間が掛かる。
マナラドでは、安全第一に研究が行われていた。
当然だろう。安全性が確認されるまで、実用化されないためだ。
平常時ですら、あの状態だ。力の限界を上げるとなれば、いくら待たされるのだろうか。
「……言いたいことは分かる」
リゼルが考えていることを読んだのか、クラッツは続ける。
「それだけだと、いつになるか分からない。だから、シャンバーレも視野に入れる」
「シャンバーレだと?」
王都から見て南にある、武道の町シャンバーレ。
武道の町だけあり、そこは強さを求める者が集う。そして、今は騎士団の管理下に置かれていない。
腕自慢が集まっていることもあるが、過去騎士団はその町でやらかしている。
昔あった騎士団基地も、今はない。
町自体を閉鎖しているわけではないが、四聖龍とは別の意味で連携が取りにくい町なのだ。
「シャンバーレは強者の町だ。可能性はある。が、彼らは騎士団を受け入れないだろうな」
「確かに可能性はある。犯罪者も寄り付かない噂もある」
問題は、騎士団とシャンバーレの関係だ。
『騎士団は必要ない。自分たちの問題は自分たちで解決する。騎士団と関係を持つつもりもない』
というのが、シャンバーレのスタンスだ。
これは有名な話で、騎士団を毛嫌いしている人間も集まりやすい。
「協力が得られる見込みは?」
「ない」
キッパリと言うクラッツ。
「なら、どうするつもりだ?」
「技を知り、学ぶことは可能だと踏んでいる」
「……また潜入か」
「あぁ。それも、少人数で」
クラッツはこちらをじっと見つめている。男に見つめられて喜ぶ趣味はない。すぐに目を反らす。
ただ、リゼルはそれがどういう意味をもつか、すぐに分かった。
「僕たちが行くのか」
「……頼みたい」
「理由は?」
「シャンバーレなら、ここより安全だからだ。レイラ君もいる。彼女を危険にさらせない」
「…………」
犯罪者が寄り付かない。それはあくまで「噂」だ。が、確かに下手な場所より安全なのは理解できる。
グレゴリーが追ってこない保証はないが、流石にシャンバーレ内で暴れるのは自殺行為だろう。
「格好も騎士団以外の服を支給する。騎士団とは悟られずに、頼みたい」
「……そっちは?」
「その間、マナラドと連携しながら龍力を研究する。こっちでも見つけられれば、すぐに訓練に導入する。当然、グレゴリーも追う予定だ」
クラッツは言うが、正直期待していない。
実際にマナラドを見たためだ。まぁ、可能性を少しでも上げておくのは賛成だが。
「まぁ……それでいいなら」
「龍力で勝てない以上、深く追跡はできない。悔しいが、な……敵も深手を負っている。すぐには動けないだろうと思いたい」
「望みは薄いぞ。グレゴリーは、誰かに指示された感じだった。他にもいるはずだ」
「あぁ。だが、いたずらに死傷者を出したくない」
「……そうだな」
悔しいが、こちらからはヤツらを追うことはできない。
我々は、龍魂を知っているようで、知らないのだ。