ー目覚めー
長い戦いの後。
闇の世界に、白い光が混じる。
「ッ……」
リゼルが目を覚ました時、そこは外ではなかった。
ゆっくりと起き上がる。
白い壁に、明るい色のカーテン。白いベッドに、病院衣。悲しいが、見慣れた光景だ。
光龍の力で光るライトが、室内を照らしている。
(夜……?いや)
雨粒が窓を打つ音がする。天気は良くないようだ。
それで、コレが点灯しているのだ。
(……情けない、な)
騎士団最高クラスの実力者と呼ばれていたのに、このザマ。
周囲からの評価を気にする性格ではないが、プライドはある。傷だらけの姿を見せたくはない。
「…………」
リゼルは傷口を触る。
包帯が巻かれていたが、触ったときの痛みは感じなかった。
グレゴリーとの戦いでは、色々と衝撃がありすぎた。
自分の無知・無力。龍魂を知っている・扱えているだけで、深みも広さもない。
足首まで海に入り、全てを理解したつもりでいただけの阿呆。
密度も、感覚も、脳のリソースも、意識したことがなかった。
ただ、フリアの力は、そのどれでもない気がする。文字通り、桁が違う。
三要素(現実的には二要素)をスキルアップしたとて、彼の力には届かない。
一番近いのは、マリナの『半暴走状態』だが、あれは彼女の暴走時とその後の境遇が噛み合っている(?)だけで、龍に慣れた自分やエラー龍力者が意図的に行ける領域ではない。と思う。
(切り捨てておきながら……助けられた、か……)
髪をかき上げる。指の間から、サラサラの髪が垂れていく。
「…………」
あれから、どのくらい時間がたったのだろうか。
レイラは、その他諸々は無事なのだろうか。
気になることは山ほどある。とにかく情報を集めないと。
身体の調子も知っておきたい。
(……行くか)
リゼルはゆっくりと立ち上がる。
くら、と眩暈がしたが、すぐに治まった。大丈夫。少しなら、動き回れそうだ。
スリッパを履き、カーテンを開ける。
「……帰ってきたのか」
そこには、レイグランズの光景が広がっていた。
勝手にマナラドの病院だと思っていたが、どうやら王都で治療を受けていたらしい。
ということは、あの場から運んでくれたのは、王都の騎士団だろうか。
そうか、マナラドの騎士団は、ほぼ全滅していた。彼らも無事だと良いが。
リゼルは窓ガラスに手を置き、拳を作る。その拳は、怒りで小刻みに震えていた。
「……クソが」
またしても、レイラを危険にさらしてしまった。
前線に出るのはレイラの望みであり、そこの説得は諦めたし、その意思を尊重している。だから、彼女を守る盾となり、剣であるため、幼少期から鍛錬を続けてきた。それなのに、この結果だ。
(力……圧倒的な力が欲しい……が……・)
そして、思い出すのはマナラドでの話。
「…………」
外をぼんやりと眺めていると、お腹がぐるぐると鳴った。
(……しばらく食べてないな)
状況確認のために、リゼルは病室を出ようとする。が、開かない。鍵が掛けられている。
「……?」
鍵を探すも、鍵穴しか見つからない。
内側から出られないタイプの病室。脱走者対策か?それとも、○○をしないと出られない……病院でそれはないか。
「ち……」
仕方なくベッドに戻る。
ギシ、と横になると、ふと呼び出しのボタンがあることを思い出した。
いつも勝手に移動していたため、失念していた。この手の病室に詰め込まれたのは、このせいだろうか。
とにかく、すぐにそれを押す。
廊下で音がし、赤いランプが光る。
しばらくして、足音が近づいてきた。
カチャカチャと鍵が射しこまれている音が聞こえる。
鍵が開く音がし、白い衣服のナースが入ってくる。
「リゼルさん!?起きましたか!?」
「……あぁ、目が覚めた。食事を「良かった!!クラッツさんを呼んできます!!」
「クラッツだと?」
騎士団長ではないか。
リゼルの返答を待つことなく、ナースは出ていった。
食事が欲しかったのだが、仕方ない。
(……団長がいるのか)
確かに、四聖龍の次に大きな事件かもしれない。
凶悪な殺人犯を取り逃がした。しかも、その龍力者は、騎士団員の実力以上なのだ。