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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー魔物の凶暴化ー
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ー決着ー

半暴走状態。

エラー龍力者にとって、暴走したときのエピソードはトラウマレベルである。

また、マリナに関しては、意識があったりなかったりを経験している。


通常は、レイズやその周辺のように力を解放した時の記憶は曖昧なことが多い。

だから、暴走した時のことを思い出すのはなかなか難易度が高い。


しかし、先述したように、マリナは暴走した時の状態が特殊なため、記憶が強く残っている。

その影響か、自力で「半暴走状態」にまで持っていく訓練をし、強引に龍力レベルを引き上げることとなっていた。

余談だが、ミーネは「課題」のため、半暴走状態の記憶に頼った。それが、龍力コントロールができたことに繋がっている。 


そして今。

長くはもたない半暴走状態でマリナが自分たちを守るために戦っている。


(い……いシきガ……!)


額に汗が滲む。龍の意識が強く出ており、制御が一段と難しい。

やりすぎれば、自分の意識が飛ぶ。恐らく、完全暴走状態となり、横たわっているレイラたちにも被害が及ぶ。


当時は「敵意・悪意」に反応していたが、ダルト遺跡に拘っていた龍の意識の影響が強い。

つまり、そこを離れた場合、レイラたちを巻き込まない保証はない。


(ク、そ……!)


通常時より、力は引き出せるが、代償がこれだ。

しかし、グレゴリーと戦うためにはそれしかない。


正直、グレゴリーが万全であれば、半暴走状態に頼っても敗色は濃かっただろう。

実際、段階を上げないと、相対するのは無理だった。

が、彼が削れていたことで、瀬戸際に立つことで、力関係が少しだけひっくり返った。


勝ちの可能性は、まだ潰えていない。


「じカんが……ナい……」


とは言え、マリナの限界も近い。勝負を急がなければならない。

ただ、それはグレゴリーも同じだった。


(半暴走状態とは言ったが……どんだけの精神力だ~?)


騎士団員たちとの戦いや、ゴミガキたちとの戦いで龍力をだいぶ消耗した。

その上、剣を具現化し、それを維持するために龍力を使っている。少しでも気を抜けば、剣は粒子となって散っていくだろう。

そのくらい、維持がギリギリの状態。力の差に溺れ、遊び過ぎたようだ。


「だぁッ!!」

「オラァ!!」


雷と闇の力がぶつかる。ギリギリの戦いが続く。

両者お互いのスキを何とか突き、体勢を崩す。その間に技を撃ちこむなど、スピード感あふれる戦いが展開されている。

一進一退の戦い。マリナの顔は赤く、苦しそうにも見える。


(あいつ……クソ、僕は何をしている……)


自分は、騎士団の中で上位に位置する龍力者だ。

当然、その評価を気にする訳もなく、鍛錬を続けてきた。それなのに、一歩イレギュラーが起これば、力関係はひっくり返る。


フリアの謎の力、マリナの半暴走、脳のリソース関連。

しかし、フリアの件以外は、自分を削っているようにしか見えない。前髪が長いリゼルの表情は見えにくいが、相当心配していた。


「があッ!!」

「!!」


マリナの渾身の振り。グレゴリーの剣を弾き飛ばした。

飛ばされたにヒビが走り、砕け散る。遂に、彼女は龍力の塊である具現化した剣を潰した。


「くっそ!!」


語尾を伸ばす余裕は、もうない。

グレゴリーは、飛ばされ砕け散った剣を見ながら舌打ちをする。その際、マリナを視界から外してしまった。


感覚が研ぎ澄まされた今のマリナは、それを見逃さなかった。


「!」


一瞬でグレゴリーの前に移動し、剣を構える。

グレゴリーが己の失敗に気づき、再びマリナを視界にとらえたときは、すでに肉が斬られた後だった。


「ぐあぁぁぁぁぁっ……!!」


腹を割かれた。その直後、最大火力であろう雷が体中を駆けた。


「ッ~~~~~~~!?」


痛み?熱?痺れ?何が何だか分からない。


膝を付き、四つん這いになる。


「はぁ……はぁ……」


何とかして傷を塞がなければ。

とにかく、本当にこれ以上は無理。一旦、ここは退く。


「しぶ、トイ……ッ!」


女が悔しそうに吠える。追撃の準備をしているだろうが、限界なんか超えている体。ノロい。

そのスキに、最低限の龍力を溜めるグレゴリー。

大ダメージを受けていても、詠唱能力はそこまで落ちていなかった。直後、パチ、と指を鳴らす。


「……ブラインド」


同時に、闇の紋章が描かれる。


「!?」


マリナ、リゼルの視界が奪われた。

目の前が真っ暗になり、周囲が見えにくくなる。

龍力を纏う通常の戦闘であれば物足りない術だ。しかし、動ける者がいないこの状況では、かなり有効。


「……ここは退かせてもらう。あばよ、暴走ちゃん?」

「さセなイ……!!」

「無理でしょ」


目を押さえ、眼前の闇を払おうとする。しかし、そういう類のものではない。時間経過か回復術でなければ払えない。

舌打ちし、マリナは剣を構えるが、グレゴリーの姿が見えない。龍力の気配もない。足音も殺しているらしい。全く聞こえない。


「…………」


視界が晴れ、見えるようになった時、既にグレゴリー姿はなかった。

周囲には、大きく削れた地面。戦闘の爪痕だけが残っていた。


リゼルは頭を垂れた。


「逃げられた……か……」


凶悪な殺人鬼をみすみす逃してしまった。最悪だ。

すぐに全騎士団に連絡し、グレゴリーを捕えなければならない。当然、傷が癒える前に。

今のグレゴリーなら、並の騎士団員で勝てる。しかし、傷が癒えてしまえば、別。


(いや、人命が先、か……)


とにかく、今は全員を連れて帰還し、治療だ。忘れることなく、捜索も行わなければ。

仲間であろう人物に拾われる前に、陸海空全ての経路を調査する必要がある。


最後に、マリナだ。

彼女がいなければ、自分たちはここで終わっていた。

騎士団としても、個人的にも礼をしないと。


(それに、言いたかったこともあるからな……)


ところが。


「……おい?」


もうブラインドの効果は消えた。

それなのに、マリナは立ったまま動かない。様子がおかしい。

ドクン、とリゼルの心臓の音が大きくなる。


長時間の半暴走状態。

戦闘後の彼女の変化。それは、本当の意味で闇墜ちの前触れか……?

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