ー具現化ー
稲妻が駆けるようなスピードで、グレゴリーに急接近。
リゼルの目で追えるかギリギリのところだったが、グレゴリーには見えているっぽい。
既に受ける体勢をとっている。
そして。
「くらイなさイっ!!」
マリナの剣とグレゴリーの短剣がぶつかった。
龍力がぶつかり、龍圧が生まれる。雷と闇のオーラがその圧と共に流れていく。
(ちィ、土が……)
リゼルは咄嗟に目を庇う。
この近辺の木々はグレゴリーが焼き払ってしまったため、土埃が起こりやすい。
案の定、それが巻き起こり、視界を隠していく。
しかし、高度な龍魂を維持している彼女たちにとって、視界が遮られたとしても戦闘への影響は少ない。
土埃舞う中でも、攻防は続いている。剣が激しくぶつかり合う音や、稲妻が駆ける音、闇のオーラが揺らぐ音など、戦闘音がガンガンに響いている。
その激しい戦闘が、土煙を払う役目を担う。
戦場がクリアになった時、二人は力比べのような格好になってた。刃同士が擦れ、音を立てている。
「強いね~~~~こりゃあ!!」
「ッ~~~~~!!」
傍から見た感じでは、龍力は拮抗しており、一進一退のように感じる。しかし、男性の腕力には敵わない。
それに加え、マリナは限界を超えた(脳のリソースをブチ広げた?)力を扱っているのに対し、グレゴリーの龍に無理はない。それは、二人の表情からも見て取れる。
近い未来、彼女は押されてしまう。
(クぅ……ッ!もウ一、ダン、かいッ!!)
マリナは一度大地を踏みなおした。その場から、相当量の稲妻が駆ける。
龍を湧き上がらせたのか、彼女はそのまま剣をずらし、グレゴリーの体勢を崩す。
「ッ!?」
稲妻の影響か、以前ほど自由に動けない。
マリナはそのまま剣を振り、龍圧でグレゴリーを吹き飛ばした。
そして。
「……サンダーソード!!」
吹き飛んだ着地点を計算し、かなりの速度で詠唱し、雷龍の紋章を描くマリナ。
グレゴリーは、彼女の詠唱速度に驚きを隠せない。嫌らしい薄ら笑いが消える。
「なッ!?」
気付いたときは遅い。
紋章から剣が具現化し、グレゴリーを貫く。闇のオーラを完全に貫通した。
「ぐっふッ!!」
「!!」
流石のリゼルも驚きを隠せない。当然、戦っているグレゴリーも。
サンダーソードの威力に屈し、四つん這いになる彼。傷口を押さえ、大きく息をする。
……初めてだ。この一連の戦いで、初めてダメージを受けた。
それも、ぽっと出の小柄な女に。
額と地面を擦り、倒れないように堪える。が、彼の脳内は別の感情が支配していた。
敗者ともとれる格好で、彼は―――――
「……ははははははははッ!!」
笑った。
「なニ、こいツ……」
血を流しながら、笑っている。本当に、楽しそうに。
気味の悪いその光景に、マリナはドン引きする。
そのせいで、興奮しきった彼女の精神状態に落ち着きが見られてくる。
「いいね~~!!いいッ!!」
楽しい。本当に楽しい。
これだから戦いはやめられない。
騎士団は雑魚だ。だが、こいつは、強い。自分をこんなにも楽しませてくれる。
だが、生まれたのは、楽しいという感情だけではなかった。
楽しい楽しくないの感情もあるが、それ以前にプライドがある。
龍魂に年齢や性別は関係ないが、こんな青臭いガキにやられるわけにはいかない。
しかし、武器を一本なくした状態では流石に不利。
この龍力の防御壁を破ってくる龍力者相手に、一本では心許ない。
(剣……闇のガキに刺したままだ……回収するか~~)
グレゴリーはマリナを意識しながらも、リゼルを探す。
だが。
「!」
リゼルはすでに剣を抜き、その剣を破壊していた。柄だけが転がり、刃の欠片らしきものが光に反射している。
肝心の剣の傷口も、騎士団で支給されているであろう簡易応急キットで、手当てし終わっている。
(……随分と時間を与えてくれたものだ)
彼の口角が、僅かに上がっているのが見えた。
「あんのガキィ~~~!!」
「フ……残念だったな」
リゼルは分かっていた。
どんな技を使ったか分からないが、今のマリナを短剣一本で戦い続けるのは無謀だ。
全体的な能力値で言えばグレゴリーが勝っているが、飛び抜けたステータスや、使う武器が戦闘に与える影響は大きい。
よって、少しでも不安要素を潰すために、この短剣が欲しくなるだろう、と。
(当たりだったようだな。これで、少しは……)
戦う力は残されていなくとも、こんな小さな剣、破壊するのは簡単だ。
これで、グレゴリーは短剣一本で戦わざるを得なくなった。
悪態をついたとき、わずかにマリナから意識が離れてしまった。
短剣を破壊されたことへの苛立ち。リゼルの「してやったり」の表情ま相まって、気を取られてしまった。
次にマリナを視界にとらえたときは、すでに自分の目の前で、技を出すために屈んでいるところだった。
「しまっ……!!」
「……ショウ雷……龍げキ!!」
剣に蓄えた龍力を、龍が飛翔するように飛び上がりながらぶつける技。
これも高威力だ。
闇のオーラも乱れ、スキだらけだったグレゴリーは、その技をまともに受け、宙に投げ出される。
ショックが大きかったが、意外にも今ので冷静さを取り戻していた。
その理由は――――――
(剣がないなら……作りゃぁいい~~~)
だった。
得物を作ることを『具現化』呼んでいる。
その技術自体は特別なものではない。
レイラやリゼルだって、具現化の技術の一つを使い、龍術を放っている。
マリナの「サンダーソード」も、同じ龍術だ。
剣や槍を龍術発動中「だけ」具現化し、敵に叩き込む。
武器を用いて攻撃する術に限定されるが、具現化の行為自体は珍しいことではない。
だが、グレゴリーがやろうとしているのは、その一歩も二歩も上の段階だ。
龍力を練り、自分が思うような得物をかたどり、物質化する技術。
そして、使いたい間(戦闘中)は消費龍力として離散しないよう、保っておく技術。
文字で書くとこれくらいだが、実際にやるとなると、かなりの技量を必要とする。
(戦闘後半にすることじゃ~ね~かもな~……が……)
龍力を使って具現化しているのだから、当然具現化している間は力を消費する。
龍を消費した今の段階では得策ではないのだが、やむを得ない。
(しゃあねぇ~~~~!!)
空中で一回転し、グレゴリーは器用に着地する。
その手には既に、闇の剣が具現化されつつあった。
闇色の龍力が溜まっていき、剣の形を模していく。
リゼルはそれを見る。
(具現化……だと……?)
不利な武器での戦闘を続けるか、と、龍力を消費し新たな武器を作るか、との二択。
グレゴリーは後者を選択した。逆に言えば、それを維持できるだけの力も、余裕もあるということ。
マリナの勝利は、まだ確実ではない。