ー意外な龍力者ー
突如視界を支配した青白い光。
あまりにも眩しいそれは、リゼルの目を細くした。
(なん……だ……?)
光だけではない。龍力も発せられている。しかも、凄まじい。
新たな敵か、騎士団の応援なのか。正直、どちらも歓迎できない状況だ。
新たな敵に関しては、説明不要だろう。騎士団の応援だったとしても、厳しいかもしれない。感じる龍力自体は凄まじいが、肌感としてイマイチである。
グレゴリーも同じような評価なのか、焦りの色が見えない。
「あぁ?んだ?これ……」
闇龍相手で、せっかく楽しんでいたのに中断された。
彼はだるそうに小指で耳をほじる。
「ったく、空気読めって~」
耳垢を、ふ、と飛ばすグレゴリー。
ただ、その龍力者を先手必勝で攻撃するような仕草を見せることなく、眺めている。
「…………」
二人が見ている中、目の前を支配していた光が治まってきた。
光が消える瞬間、余韻に雷が走る。弾けていたものの正体は、稲妻だった様子。
(雷……)
雷龍使い。
リゼルは力を振り絞り、なんとかその龍力者を見ようと頭を上げた。
重力で、額にできた傷から血が滴り落ちる。
「んだぁ?ガキかよ」
「は……?」
そこに立っていたのは、新たなる敵でも、騎士団員でもなかった。
リゼルは目を疑った。
10代くらいの女性で、外ハネしている髪が印象に残る。髪色は、レイラよりも黄色が濃い。
自分は、その人物を知っている。
(な……なぜ……だ……?)
ダルトで暴走状態にあり、苦しんでいた女性。マリナ=ライフォードが、そこに立っていた。
茶色ベースの私服だ。スカートではなく、動きやすそうなパンツスタイル。こっちはダルトよりも気温が高いためか、上着は着ていない。
激しく龍を使ったのだろう。既に息が上がっている。
「はぁ……はぁ……」
そんな中でも、情報収集を、とマリナは周囲を見渡している。
必至さが伝わってくる表情だ。ダルトであったときより、目は開かれている。元々大きい目が、更に大きくなっている。
初めて会った時のような虚ろさは、一切ない。
「…………」
マリナが状況を理解するのに、時間はかからなかった。倒れている騎士団員。倒れているレイラたち。
と、闇色の髪の少年と目が合う。彼もだいぶ流血し、戦闘不能間際の様子である。
そして、次に視界に入る、黒いオーラを放つ男の龍力者。
凶悪そうな見た目に、人をバカにしたような顔。その男に、目立った傷はない。
こいつが、やったのか。
「ねぇ……あンた……なに、やッてンの?」
怒りが込み上げて来る。同時に、湧き上がる龍力。
今すぐにこいつを八つ裂きにしたくてたまらない。抑えろ。でないと、『また』吞み込まれる。
「あぁ?お前……いや、待て……」
ガキが、と最初はナメ腐った態度だったが、彼女の龍力の大きさ、彼女の様子がおかしいことに気付き、態度を改める。
リゼルはマリナの後方で、驚きを隠せないでいた。
(あいつが……龍力を……?)
それも、とても強力な力だ。ただ、様子がおかしいのがやや気になる。
グレゴリーやフリアに届くかと問われれば疑問が残るが、それでも凄い力だ。
この短期間で、龍力を扱えるようになっただけでなく、これほどまでに力を付けるとは。
(見違えた、な……)
ダルトでは、彼女は龍力を引き出せる状態になかった。
龍力を使いこなすことには前向きだったが、それは、レイラたちがそばにいればの話。
可能性の一つとして、期日は伸ばした。しかし、その期日までに現れなかったことから、別の道を進むことにしたのだと思っていた。
酷なことをしたと今でも思っているが、こちらサイドにも事情があり、対応できなかったのも事実だ。
あの日から、大人しくダルトで暮らしていると思っていたが。
素直に感心していたが、思考が止まる。彼女の様子がおかしい。
(なんだ、あれは……?)
上手く言えないが、普通じゃない。
自分やレイラたちが龍魂状態になったときの「自然さ」がない。
シンクロ率限界手前で止めている自然さが。
リゼルより一歩も二歩も早くに異変に気付いていたグレゴリー。彼女の力を計るように、頭の上から足先へと視線を走らせる。
「ふ~ん?」
オッサンに、頭の先から足の先まで舐めるように見られ、更に苛立ちを隠せなくなるマリナ。
「だ~か~ラ~ぁ……なに、やッてンの?って……きィてンのよ!!」
「いいね~~」
「ッ!!」
マリナの問いに答えないグレゴリー。彼女はその態度に切れ、龍力を更に高めた。
帯電量が増え、持っていた剣にまで龍力が行き渡る。当然だが、戦う気だ。
リゼルが止めようをするよりも前に、グレゴリーが戦いの火蓋を切った。
「来な!!」
マリナとグレゴリーのぶつかり合いが、今始まる。