ー闇 対 闇ー
リゼルとグレゴリーが向かい合い、睨み合っている。
最大級の技を止められてしまった以上、リゼルが先に動くことはできない。
「お前~闇龍使いだろ~?その程度かよ~?」
先程の技や術を見ていれば、余程の馬鹿でない限り分かること。
それをわざわざ確認するように聞いてきやがる。
「……だったら何だ」
グレゴリーを見据えながらも、倒れているレイラたちの位置を把握する。
彼らは、全員倒れてしまった。すぐにでも病院へ運びたい。
が、こいつを何とかしなければならない。
(密度……感覚……脳、は使えないが……)
リゼルは昨日のことを思い出していた。
本当はしっかり特訓した上で使いたかった。実戦で、しかもこんな精神状態で使っても、成功するかは分からない。
また、もう一個。最後の一件で聞いた話もある。
しかし、それは絶大なリスクを伴う。そして、その後の体にも影響が残ってしまう。
そっちは、本当の最終手段だ。
「闇龍使いとヤるのは久しぶりなんだ……楽しもうぜぇ~」
「チィ……!!」
ずん、とグレゴリーから感じる龍圧が強くなる。
リゼルも龍を高め、プレッシャーに押しつぶされないように耐える。
「そのためにお前を後にしたんだからよぉ~」
グレゴリーが消える。
その瞬間、彼は目の前まで接近していた。
リゼルは咄嗟に剣を前に出す。
「!!」
「ほぅ!」
短剣と剣がぶつかり合う。
剣から火花が散り、龍力が荒れる。
刃が滑り、そのままリゼルの肉を裂こうと襲い掛かる。
「!」
リゼルは身軽さを活かし、それをかわす。
その間も、剣による攻撃を忘れない。
「いいね~!」
が、グレゴリー体勢を崩すことはできず、連撃を止めることはできないでいる。
「……!!」
これを機に、リゼルとグレゴリーのぶつかり合いが始まる。
技と剣技の応酬だ。
息をする暇や、瞬きをする一瞬を見つけるのが精一杯だ。
その中で、リゼルは『感覚』について考えている。ギリギリの戦闘中だが、逆に感覚が冴えている。
(感覚、だったな……僕の龍と、ヤツの龍。その動き、か……?)
ただし、身体は思うようには動いてくれない。
二本の短剣から繰り出される技に、リゼルは確実に体力を削られていた。
凄く長い時間戦っている気がするが、時間にして数十秒だ。
グレゴリーの『飽き』と、リゼルの気力。どちらが先に尽きるのか。
「ヘイヘイヘ~イ~~闇龍十紫!!」
「ぐっ……!」
一瞬のスキを突かれ、十字斬りを食らい、吹き飛ばされるリゼル。
直撃は剣でずらせたが、斬撃で肉を切られてしまった。
痛みが走り、白い騎士の服に血がにじむ。
(まだだ!!)
着地した瞬間に後方に数回跳び、衝撃を逃がす。
その直後、痛む傷を堪え、リゼルは走った。
一歩一歩傷口が痛むが、関係ない。
(密度、だったな……)
龍力を解放し、いつもより少しだけ『濃く』充填する。
そして。
「闇龍、墜龍剣!!」
空を舞う龍を堕とす剣。鍛錬の中で習得した闇龍の技だ。
彼が今の状況で使える、最大級の技の一つ。それに加え、(応急的だが)密度が乗っかている。
しかし。
(なん……だと……?)
短剣一本で止められてしまった。あの短い刀身で。今の大技を?
龍圧により、グレゴリーの足が地面に埋まったり、カオスフレアの攻撃範囲外だった木々が揺れたりすることもなかった。
完全に威力を殺されている。
「危ない危ないっと」
口では焦ったように言っているが、グレゴリーの表情は涼しい。焦っている様子は全くない。
完璧な防御技術に、龍力者として脱帽。リゼルは敗北を認め、動きが止まる。
出来ることは挑戦した。高威力の技を出すこともできた。それでも、届かなかった。
(僕には……無理だ……)
頭が真っ白になる。何も考えられない。周囲の音が、どんどん小さくなる。
自分の呼吸も、グレゴリーが愉快に笑う声も、戦場を駆ける風の騒めきも、何も聞こえなくなる。
ただ、『死』が目前に来た。それを身体が感じており、もう何もできない。
「はい、プレゼント」
当然、彼の声は聞こえていない。
リゼルにしてもれば、当然「トス」と胸に短剣が刺さったようなものだ。
本当に、するりと体内にそれは侵入してきた。
しかし、リゼルは刺されたことに気付いていない。否、刺されたことは理解しているが、どう反応していいか、脳が分かっていない。
ゆっくりと倒れていく。膝や手を付こうとすることなく、無抵抗に。
(ぼく……は……なに……を……?)
次に思考が働き始めたときは、リゼルは地に突っ伏していた。
自分の地で服が赤い。温かい。
(まも……れず……しぬ……の……か)
レイラ。彼女はリゼルの光だ。そして、今では一国の王だ。
何としても生かして帰す。自分を犠牲にしても。
これは、本当の本当の最終手段。
この際リスクだの言ってられない。ここを切り抜けられなければ、文字通り「終わり」なのだ。
(やる……しか……ない……!)
身体に宿る龍に呼びかけようとした時だ。
「んだぁ?」
グレゴリーの怪訝そうな声。空気を切る音。何かが弾けるような音も聞こえる。
その直後。目の前の風景が、青白い光に包まれた。