ー倒れる仲間ー
どす黒い龍力オーラに包まれるグレゴリー。凄まじい龍圧が周囲に放たれる。
レイズたちは一応龍魂状態でいられているため、過度に影響は受けないが、全くの無影響ではない。
推されるような感覚と、肌を刺すような感覚を覚えていた。
「うし、やるか~」
エネルギー充填が終わったのか、グレゴリーは一度屈み、その反動で飛び上がった。
自生している木々よりも高く跳ぶほどの跳躍力だ。
それにつられ、レイズたちは上空を見上げる。
黒い太陽が出現したかのような、そんな景色が広がる。
「何を……!」
グレゴリーは知らぬ間に短剣を納めており、空いた片手を空高く上げていた。
そして、その手には闇のエネルギーが蓄えられている。
「一帯を吹き飛ばす気か!?」
バージルは叫ぶ。
そのくらい、造作もないと言えるであろう力。
倒れている騎士団員からは離れて戦えているが、攻撃範囲が分からない。
ここで食らってしまえば、彼らまで巻き添えを食らうのは間違いない。
「固まれ。龍力解放で凌ぐ」
「はいっ!!皆さん!!」
リゼルの指示で、一点に集まるレイズたち。
個々の龍力では防ぐことができない。が、集まってガチガチに身を固めれば、耐えきれる「可能性」がある。
「全力だ!」
「はい!」
身を寄せたことで、よく知る龍力で包まれるレイズたち。
その安心感からか、レイズとミーネの緊張が少し解れる。調子が戻ってきた気がする。
それでも、あの龍力と張り合えるほどのものではないと思う。しかし、他に案はない。
「カオスフレア!!」
手が振り下ろされるのと同時に、闇色の炎が落ちてくる。
メインの巨大な炎。そこから離散していく小さな炎で構成された、強力な龍術。
離散した炎も、当然物を燃やす力がある。
(闇龍派が、炎龍の知識を……)
ギリ、と歯を鳴らすリゼル。
他属性の龍力を扱うことは不可能ではないが、簡単ではない。
他属性の龍を理解し、自分の龍力構成と織り交ぜることで、扱うことができる。
文字だけ見れば簡単そうだが、相当量の勉強と訓練が必要な技術だ。ただ、騎士団が知らない秘密道具でもあれば違うのだろうが・・・
「落ちるぞッ!!」
「皆さん!!耐えて!!」
ずん、と重力が何倍にもなったかのような圧力。
炎属性も持ち合わせた力のため、熱を強く感じる。
ミーネの氷の力も、差があり過ぎて何のアドバンテージにもなっていないのが現実。
「ッ~~~~~~~~!!」
半径25メートルは、その暗黒炎の餌食となった。
円状に広がり、消えていく炎。
広大な範囲を焼き尽くしたそれだが、中心だけは、ほぼ無傷だった。
「ほ~う?」
カオスフレアの余韻か、まだ空中待機したままのグレゴリー。
地上の様子を眺めている。追加攻撃をしてもいいが、こちらも力を使いすぎた。
範囲を余計に広げてしまったため、追い打ちは身体的にキツい。それと、年齢的にも。
そんなグレゴリーの攻撃を耐えきったレイズたち。
「はぁ……はぁ……」
「んだよ、この力……」
「……無事か!?」
「えぇ……何とか」
大きく呼吸をし、整える。
何とか受け切った。ダメージは受けたが、まだ戦える。
しかし、まだ闘えるのは、全員ではなかった。
「ちょ……ゴメン」
ミーネの力ない声。
「ミーネ!?」
彼女は剣を杖代わりにし、立とうとしていたが、限界だったようだ。
気を失い、無抵抗のまま地面に倒れた。剣が音を立てて地面に転がる。
すぐにレイラは屈み、息を確認する。
「……大丈夫。気絶しているだけです」
「回復を……」
レイズが言いかけたとき、グレゴリーは着地していた。
倒れたのが一人だったことを確認する。
「一人か~加減しすぎたかな~?ま~いいか?終わりじゃないし?」
とても残念そうだが、まだ戦えることに嬉しさもあるようだ。
「あぁぁぁぁぁああ!」
「くそがあああぁぁぁああ!」
レイズ、バーバルは飛び出した。
仲間が一人倒れたことで、焦りが出てしまっている。
「落ち着いて!無茶です!!」
レイラは止めようとするが、無駄だ。彼らの耳には届かない。
レイズはともかく、バージルまで。これは、相当「きて」いる。
「うん、勢いは良いよ~?」
グレゴリーは満足そうに微笑む。まだ玩具は動く。
二対一の戦い。それでもグレゴリーが優勢だ。ただ、注意は二人に向いている。
そのスキをつけないか、と、リゼルは今のうちに詠唱を始める。
そして、闇龍の紋章を描く。
「……ダークランス」
闇の槍を具現化し、グレゴリーに撃つ。が、やはり無駄のようだ。
「甘いよ~!?」
『ブリリアント・ランス』と同じように手前で止められ、破壊された。
「ち……」
思わず舌打ちする。真っ向勝負では戦いにならない。
「これで三人目だ!!」
「ッ!?」
グレゴリーが叫ぶ。
『カオスフレアクラスの攻撃が来る』というイメージが脳裏に浮かぶ。
どうしたって、そのイメージは拭えない。剣を交えていたレイズ、バージルは一瞬怯んだ。
彼がそのスキを彼が見逃すはずがない。彼は踊るように一回転した。
「デス・ステップ!!」
「が……!」
「は……!」
一回転した後の短剣には、レイズ、バーバルの鮮血がこびりついていた。
二人は声にならない呻き声を上げ、その場に倒れた。
「レイズ!!バージル!!」
「よせ!!」
レイラは走る。後を追うようにリゼルも走る。
レイラを死なせるわけにはいかない。
グレゴリーは何者かの指示を守っているようだが、所詮は殺人鬼だ。
いつその血が騒ぐか分からない。
「あ~と二人!」
走り出した二人を見て、彼は満面の笑みを浮かべる。
戦いが、血が好きなのだろう。
「光龍鋭剣!」
レイラが斬りかかった瞬間、グレゴリーが消えた。
「え……?きえ……」
その瞬間、レイラは腹部に激痛が走った。
「ッ!!」
すでに腹を斬られていたのだ。
グレゴリーに背後に回られたことに気付く頃には、彼女は既に膝を付いていた。
堪えようと歯を食いしばるが、体力は残っていない。そのまま意識が薄れ、気絶する。
「……レイラぁぁぁぁぁあ!!」
リゼルはありったけの龍力を解放した。そして、最大級の技をグレゴリーにぶつける。
「崩龍剣!」
「!」
それは、グレゴリーの鎖骨にヒットした。
皮膚を割き、骨にダメージを与えた。
それなのに。
「クソが……」
グレゴリーは、笑ったままの顔でそこに立っていた。