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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ー堕ちる龍ー
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脳内ブレーキ

シーアに教わった住所へ行く道中、大きな家が見えてきた。

庭広いから普通の家、そこからの豪邸。個人研究者でも、ガチれば儲かるのか?


感心しながら歩いていると、戦闘のリゼルが足を止め、腕でレイラの前進を止めた。


「!!」

「リゼル……?」


彼の顔は、かなり緊張している。これは、格上相手と戦う時に見る顔だ。

それを見て、レイラも気合を入れる。街中で個人研究者相手。敵が現れることはないと気が緩んでいた。


「……皆さん。危険かもです」

「あぁ。分かってる」


皆まで説明せずとも、彼の顔を見れば、一発で分かる。

レイズたちが立っている位置―リゼルよりも少し後方―ではその気配を認識できないが、『何か』いるのだろう。


「……あの家の中からだ。かなり強い力だぞ」


緊張感の中にも、期待するような笑み。

『自分が求めていたのはコレだ』と言いたげに。


今までは向こうから出てきてくれたが、今回はナシ。仕方なく、呼び鈴を鳴らす。

レイラたちは下げたままだ。よって、リゼルが感じた気配を知らないまま個人研究者と会うことになる。


しばらくして、中から高齢の男が出てきた。

白髪で、まだフサフサだ。年季の入った道着を着用しており、研究者には見えない。

ガタイもよく、あの腕力で殴られたら顔の形が変わってしまいそうなレベル。

研究所にも、あんな筋肉マンはいなかった。武道の町に居そうな見た目である。


「おう、騎士団が何の用だ?」


声の感じからは、騎士団を嫌っているのかは分からない。が、この服装を見ても追い返さないところを考えると、マシなのかもしれない。


「……事情があって、龍魂の知見を深めたいと考えている中で、研究所の門を叩きました。紆余曲折あり、シーアさんから紹介されて参りました」

「あぁ?あの感覚お化けか」


頭をガリガリとかく男。


「……入りな」

「感謝します」


第一関門突破。

やはり、紹介は強い。


レイズたちは、緊張しながらも中へと入る。あの男が平常時だからか、リゼルの表情が曇るほどの龍力者かどうかはまだ分からない。


「こっちだ」


通されたのは、ミニ体育館のような激しく動き回っても平気そうな場所だった。

お茶を片手に龍魂トークではなく、ガチのトレーニングルームっぽい。

彼がテキトーに座ったため、レイズたちもそれに従う。お尻が痛くなりそうだが、贅沢は言えない。


「ワシはハンクス。オメェらは?」

「……リゼルです」

「……ライーレです」


メインの二人の後、レイズたちも自己紹介を始める。緊張していたため、流れで属性を言うのを忘れたが、どうだろうか。


「見てお分かりのように、僕たちは騎士団員です。訳あって、研究者で龍への理解を深めようとしました。そして、研究所以外でも意見を聞こうと、回っていたところです」


腕を組んでリゼルの話を聞いていたハンクス。

気難しそうな顔だ。相手する気がないなら、そもそも入れないはずだから、何かしらの知見は貰えそうだが……


「感覚お化けの紹介で、騎士団。何となく知りたいことは分かる」

「!」

「どうせ感覚お化けの前に、言った場所もあるんだろ?」

「……ファウナさんに」

「密度娘か。まぁ、『入り』としては妥当だな」


ファウナのことも知っている様子。


「あの二人が気に入ってんなら、仕方ねぇな」


良かった。シーアは分からなかったが、ファウナが紹介をしてくれたのは、彼女の考えを尊重し、ノウハウの教授を断ったからだ。

それがなかったら、シーアにも会えなかっただろうし、今のハンクスの口ぶりから、彼にも相手にされなかっただろう。


「ワシが研究……いや、没頭しているのは、脳のリソースをブチ広げることだ」

「脳の……」

「リソース、ですか……?」


リソースとは、資源や財源といった意味を持つ言葉。

『脳のリソースを広げる』とは、脳内資源を広げると理解していいのだろうか。

しかし、脳の大きさが広がるとは思えないが……


「意味分かんねぇってツラだな?」

「申し訳ございません。勉強不足で……」

「おめぇら、研究所に行ったんだろ?なら、計っただろ?」


龍力レベル・シンクロ率のことか。


「はい」

「言ってみな」


レイズが30%

バージルが35%

ライーレが40%

リゼルも40%

ミーネは37%


それぞれの口から、自分のシンクロ率を伝える。


「ま、そんなモンか。フツーの数値だ」

「……脳のリソースを広げると、その数値が上がると……?」

「ワシはそう考えている」


「そう考えている」と言うことは、その証明はできていないのか。

確かに、その証明ができているのなら、正直革命レベルだと思うし、研究所も黙っていない。それ即ち、企業も騎士団も黙っていない。

それなのに、今の今まで情報が無かったということは―――


「……結果は、出ていないんですか?」

「んなワケねぇよ。実際、ワシの龍力レベルはかなり上がった」

「!!」


リゼルだけは、家の外でその気配を感じている。だから、その言葉には重みがあるのだ。


「信じてねぇな?」

「僕は外で感じました。が、他は……」


レイズたちは、その気配を知らないまま、ここに座っている。


「大サービスだぜ」


ハンクスは座ったまま、龍力を解放した。

紅のオーラが展開し、業火のように形を変えている。ハンクスは炎龍使いだ。


(俺と同じか……)


レイズは初心者故に、別属性よりも、同属性の方が龍力レベルの大小が分かりやすい。

だから、彼でもハンクスの龍力レベルを理解しやすいだろう。

同じく新人のミーネには、少し難しいかもしれない。が、あの恐ろしい威圧感さえ感じてくれれば、充分だ。


「……これが、40程度だ。おめぇらくらいだな」


リゼルとライーレを向き、言う。

というか、計測器なしで理解しているのか。自分の龍力レベルを。


「ワシは、もっと上に行ける」


座ったまま、更に龍力レベルを上げていくハンクス。

程なくして、全員が『威圧感』を感じ始める。


「~~~~~~!」

「ッ!?」


姿勢を崩し、防御態勢へと変わるレイズやミーネ。

姿勢こそ変えないが、嫌な汗が流れているバージル。そして、フリアの龍力レベルを知る二人は、唇を噛んでいた。

自分たちの反応を確認してか、ハンクスは龍魂を解除した。


「……シンクロ率、50弱ってトコか」

「まだ50オーバーじゃねぇのk……じゃないんですか!?」

「信じられない……」


動揺で敬語が消えるレイズに、ただただ茫然としているミーネ。

他三名も同様に驚いている。


『まだ50%を超えていないのか』


と。

しかしそれは、まだまだ伸びしろがあると判断してしまう罠だ。


「……確かに、凄まじいパワーを感じました。ですが、脳のリソースを広げても50%を超えることはできていない」

「パーセンテージで考えるからそうなるだけで、実際のMAXはそこ(50)、という理解の方が良いのでしょうか?」

「……だとするなら、僕たちの余力はたった10%だぞ。本当にそれで、アイツを超えられるか?」


罠にかかっていないリゼルとレイラはそれぞれ考えを言い合っている。


「100(%)を基準に否定されると、ワシは何にも言えねぇな」

「それは……」


分かっている。シンクロ率が高くなれば、内なる龍が意識を占める割合が増える。

つまり、シンクロ率100%とは龍が完全に意識を支配した状態だ。暴走状態が、それに当たると判断していいだろう。実際は、51%~辺りで意識に変化がありそうだが。


「いや、充分凄いと思いましたけど、俺は……」


バージルたちには衝撃だった。確かに、あのクラスの龍力は感じたことがない。

同属性だから云々かんぬんと思っていたレイズですら、驚愕している。あんな力に、どうやって太刀魚すればいいのか。

ミーネも、コクコクと頷いているだけだ。


「それなのに、大々的に公表していないのは、何か理由が?」


バージルの質問には答えず、別の質問を投げられる。


「……そもそもおめぇら。普段のシンクロ率は、何の数値だ?」

「え……?」


龍魂を発動させ、普段の間隔まで持っていくだけ。

何の数値と言われても、何と回答すれば良いのか。


「いつもの俺って感じですけど……」

「力を使う時の、『何となくこんな感じ』とか……」


新人らしい回答だ。

が、言うてリゼルとレイラも、意識高そうな答えは思いつかない。


「フワッとしてるが、そんなモンだろ。そこを気にしねぇとな」

「……はい。スミマセン」


レイズは軽く頭を下げる。普段の龍力レベルが、何の数字なのか。

意外にも、答えをあっさりくれるハンクス。


「答えは、『脳がブレーキをかける直前の数値』だ」


レイズたちは、全員が目を見開いた。

心当たりがあり過ぎて、全員が過去の経験を思い出していた。

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