オーラの感覚
ファウナに聞いた住所に向け出発したレイズたち。
「その子、独特な雰囲気だけど、知識はあるわよ」
どうやら、研究所に出入りする中で、個人研究者とも知り合う機会があるとのこと。その関係で知り合ったのだと。
普段交流することは多くないが、たまに会い、近況報告するような仲。個人で研究しているからと言って、人間関係が煩わしいとかではない様子だ。
ファウナの研究は、リゼルが欲していたものではなかったらしい。
が、レイズたちには新鮮だった。
「龍魂の『濃度』か……気にしたことあるか?せんせーよ」
「(今更せんせー呼びかよ)いや、正直、全く意識してないな」
龍魂に慣れているバージルだが、一切気にした記憶がない。
当然、初期レイズにそのことを教えることは不可能。
「着眼点としては、良いのかも」
ミーネも興味深かったらしく、自分の中でイメージを固めている。
「確かに……技や術を放っている状態をキープするイメージでしょうかね」
普通の龍力者でも、濃度が高くなるタイミングがある。
再三出てきている、技や術を放つ瞬間だ。それを維持、しかも全身となると、かなりハードルが高そうに思える。
と言うか、実際高い。
龍力の最高値を変えないまま、密度を高くする。
闇雲に力を上げるよりも、土台作りとしては良さそうである。
そうこうしているうちに、リゼルが足を止める。
「……ここだ」
会話を止めて前を見ると、普通の家があった。
家が大きい訳でも、デザインが凝っている訳でも、庭が広い訳でもない。普通の家。
研究者の家だと言われても、普通に疑ってしまう。
「……合ってるのか?」
「行けば分かる」
と、門が先に開いた。
「……ごきげんよう」
「!」
中から出てきたのは、黒髪ショートの女性。そして、目を閉じている。
(盲目……?)
上が黄緑、下が紅色の着物を着ている。
「……ファウナさんからの紹介なのですが」
「あら、そうなのですね。どうぞ、こちらへ」
レイズたちは、言われるがまま、中に入る。
と、突然その女性が口を開いた。
「……男性三名。女性二名。全員、お若い」
「!!」
なぜ分かったのか。目を閉じているままだし、そもそも背を向けている状態。
別段足音が大きいとかはなかったと思うが……
「合っています」
「ふふ。こちらでお待ちください」
畳の部屋に通されたレイズたち。
座布団を手渡され、それぞれ適当に座る。
レイラは静かに部屋を見回す。
「……『ワ』の部屋ですね」
「外からは想像もつかないな」
小声で感想を言い合っていると、お茶が運ばれてきた。
「どうぞ。お口に合えばよろしいですけど」
……相変わらず、目を閉じたままだ。目が不自由なのだろうか。
触れていい事柄か分からず、もじもじしていると、彼女の方から先に答えをくれた。
「目が不自由なわけではございません。ただ、感覚を研ぎ澄ますため、心がけているだけですよ」
そう言って、彼女は目を開く。茶色い瞳が、光に反射した。
(才色兼備……だと!?)
研究者で知識もあり、美しい。そんなの、反則である。
バージルは湧き上がる感情を抑え、静かに見守る。
「申し遅れました。わたくし、シーアと申します。」
指をついたお辞儀。レイズたちも、慌てて真似をしてあいさつする。
「よろしくお願いします」
それぞれ名前を名乗り、本題へと入る。
「ファウナさんのご紹介とおっしゃっていましたね?」
「はい。とある事情で、研究所を訪れたのですが、望む情報が得られず……研究所では、ファウナさんのことを紹介されました」
「あの人は協力的ですしねぇ……わたくしは、どうも人と協働することがご面倒で……」
なんだ、全員が全員研究所と密接な関係にある訳ではないのか。
「ファウナさんの研究も大変興味深いものでしたが、求めていた手掛かり……それと遠いと感じていまして」
「それで、わたくしのところへ……」
シーアは目を閉じ、何かを感じ取る様に集中し始める。
「騎士さんが求める情報かどうかは分かりません。が、何かの縁です」
「教えていただけるのですか!?」
「……次ファウナさんに会った時、やかましいでしょうし」
そんな人には見えなかったが、という言葉を呑み込み、頭を下げるレイズたち。
「炎、風、光、闇、氷、ね……」
「!?」
そう言えば、属性を教えていなかった。それなのに、ドンピシャで正解した。
「なんで……?」
当然、全員非龍魂状態。龍力の「り」の字も使っていない、生身だ。
それなのに、シーアは全員の属性を言い当てた。
「わたくしの研究……興味分野は、感覚です」
「感覚……」
「そうです。感覚は全てを凌駕すると考えています」
……どういうことだ?属性を言い当てたとしても、フリアを倒すことはできないぞ。
リゼルが顔をしかめたのが分かったのか、シーアは続ける。
「あなたたちは、龍魂状態の時、どのようにオーラを展開していますか?」
「え……」
『どのようにオーラを展開しているか?』
そんなもの、成り行きである。
レイズもバージルも、ミーネもそう考えている。また、レイラもリゼルも、多分意識していない。同じく成り行きだろう。
「……成り行きでは、いけませんよ」
「!」
「どのようにオーラが展開されているのも理解せず、その中で龍を扱っているのではいけません」
つまり、感覚強化の第一歩が、オーラの構築分析、と言いたいのか。
「龍力オーラは攻撃にも防御にも有用なのに、ただ垂れ流し、放出しているだけでは、非常に『無駄』が大きいと思いますよ」
「……意味は、分かります」
これは、継戦能力の話だろうか。確かに、自分のオーラを理解できれば、無駄は小さくなりそうだ。
しかし、無駄を削ったところで、そもそもパワーでフリアに負けている。感覚強化、オーラの理解が無駄だとは思わないが、これをしたとしても、敵に痛めつけられる時間が伸びるだけだろう。
「不満、ですね?」
「いえ……ですが、全てお見通しのようなので……『敵』は明らかに異次元の龍を使います。剣を交えた経験から、『密度』や『感覚』でどうこうできるレベルではないと思い至ります」
「……『力』を求めすぎると、身を滅ぼしますよ?」
穏やかな口調だったのが、いきなりの重い声に変わった。
その迫力に、レイズたちは息を漏らす。
「ッ……!!」
しかし、リゼルは臆さない。
「(レイラと)国が救えるなら、安い買い物だと」
「リゼル!」
思わず声を上げるレイラ。しかし、ここで推し留まる。自分は今ライーレである。
下手に喋れば、正体がバレる。
「……意志は固いのですね。あなた方から感じるオーラ……『本物』なのでしょうか」
「ホンモノ、とは……?」
ライーレの問いには答えず、シーアは筆記用具を取り出した。
「いいでしょう。その志に応えるべく、わたくしの知る『力』にこだわる殿方をご紹介します」
「!」
「……しかし、過度な期待はしませんよう。異次元の龍を扱う者ではございません故」
リゼルたちが求めている、異次元の龍と太刀魚できる力。
それには届かないようだが、『力』の研究をする男。
「……分かりました。感謝します」
「『感覚』を軽く見てはいけませんよ?」
「はい。理解しております」
密度も感覚も、龍力を構成する上で、非常に大事な要素。
当然、軽く見ている訳ではない。しかし、異次元の力を見たうえでは、どうしても力に頼りたくなってしまう。
シーアの言葉を胸に刻み、リゼルたちは更なる訪問を続けるのだった。