龍力の濃度
レイズたちは研究所を離れ、『個人研究者』の家を回っていた。
研究施設と学校がメインのマナラドであるが、趣味の範囲で独自路線で龍魂の研究をしている者もいる。
場合によっては、研究結果を「買う」形で、助けてもらうともあるとか。
「で、そっちのがメインになるのか?」
「どうでしょう。知見は広がると思いますが……」
「?」
説明をくれないリゼル。とはいえ、レイラも全てを理解している訳ではなく、彼に付いていくだけだ。
「あ、忘れないうちに……リゼル?」
「あぁ。隠しておく」
ここから先は、個人研究者が相手。騎士団とは全く繋がりがない相手だ。
だから、レイラも身分を隠す。建物の合間にぬるりと入り込む。奥が見れないよう、リゼルたちでガード。そして、数秒。
「お待たせしました」
そこには、黒髪となったレイラがいた。
黒髪で蒼い瞳。そして、騎士団の制服。蒼い瞳のオーラが半端ないが、ビジュアルが良い一般団員に見える。
「すげー印象変わったな……」
「……ここから先は、ライーレとお呼びください」
「ら、らいーれ??」
「身バレ防止です。慣れてください」
「……服はいいのか?」
紹介してもらった個人研究者が、国や騎士団に悪い印象を持っていれば、門前払いだ。
「紹介で行くことに賭けましょう。協力が絶望的な人物を紹介するとは思えません」
「そう、だな」
実際、ここから服屋は、かなり離れている。
研究地区に、そう言った華やかな店は皆無。学校地区までいく必要がある。
時間はあると思うが、めんどくささが勝つ。
リゼルが見ている地図をチラ見し、レイラが言う。
「……個人で研究している人は、中央地区から外れているみたいですね」
「あぁ。個人で一等地を得るのは容易ではない。それに、人が少ない方が好都合な場合も多いだろうな」
相変わらず、レイラの問いには丁寧に回答するし、説明もする。
仲間なはずなんだけどな、とバージルは肩を落とす。
「……ここだ」
ほとんどマナラドの端。リゼルはそこで足を止めた。
普通サイズの家と、大きな庭。龍力解放の跡だろうか。四方八方に土が走っている。
「騎士団が何の用かな?」
「!」
声のする方に視線を走らせると、アラサーくらいの女性が立っていた。
オレンジ色の明るい髪。パーマなのか、髪がくるりと遊んでいる。
服装は、動きやすそうなTシャツ。ジーパンだった。手には、掃除用品が握られている。
「初めまして。研究所から紹介されて……」
「あら、研究が好きな団員さんなのかな?」
「……事情があって」
訳ありそうなリゼルの声に、その女性は何かを察した。
「まぁいいや。入りなよ」
「お邪魔します」
「っす」
ダイニングに通されると、自己紹介が始まった。
彼女の名前は、ファウナ。土の龍を宿している。レイズたちも、名前と属性を伝える。
ここに来た目的は、「龍魂の研鑽」とだけ、かなり大雑把に伝えた。
そして、それぞれのシンクロ率も、参考程度に伝える。
「な~るほ~どね~??」
指で髪をくるくるさせながら、メモを取っているファウナ。
研究者と言うから身構えていたが、割と普通の性格っぽい。気難しさとかは感じない。
「シンクロ率は、悪くないと思うよ?わたしは」
「ですが……」
「そう。それは、わたしの感想。それでも不十分だから、こうして研究施設を頼った」
「良くも悪くも『普通』のシンクロ率で問題なかったので」
受け答えは、基本的にレイラ……ライーレとリゼルが行う。
リゼルの敬語は、本当に気持ちが悪い。しかし、騎士団として当然の姿だ。
「わたしは、龍力の密度の研究をしているんだ」
「密度?」
「そうだね。当然、戦う時、龍力を引き上げる。シンクロ率30~40程度に」
「はい」
「そして、技や術を放つときは、その龍力を配分したり、瞬間的に龍力を『濃く』する」
そうだ。
扱う武器に『龍の爪』や『龍の牙』がダブって見えるのは、それが理由。
当然すぎて、疑問にも思わなかったが。
「……それは、技を出すとき。でも、普段の龍力で『密度』を高めることができたなら、どうかな?」
「普段の龍力で、ですか?」
「そうだ。シンクロ率(龍力レベル)はそのままで、密度を高めることを意識できるかい?」
「「え~~~~~……??」」
レイズたちは頭を抱える。
なぜならそれは、非常に難しく聞こえるからだ。特にレイズとミーネは。
研究施設で測定したシンクロ率は、平常時でのレベル。即ち、無理なく龍魂状態を維持できそうな感覚での話。
技を出すときの密度を意識していない。
「え、と……技を出すときの(濃くなった)状態を、平常時(かつ身体全体)に持っていくイメージでしょうか?」
「そんな感じだね。いい機会だ。見せてあげよう」
ファウナと共に庭に出たレイズたち。
「参考までに、わたしのシンクロ率は、40~42だね」
「!!」
レイラ、リゼルより高いのか。
仲間内で視線が交差するのを感じたのか、彼女は続ける。
「でも、わたしは研究専門だから、戦闘技術はないよ?でも、レベル『だけ』で言うなら、そんくらいの水準まで行ってるんだ」
言い終わると、ファウナは龍力を解放した。土色のオーラが彼女を包む。
シンクロ率を言われた先入観からか、レイラやリゼルよりもオーラが大きい気がしてしまう。
「これが、何の意識もしていない、通常濃度だね。全く辛くない」
ファウナは少し構えを変え、真剣な表情になる。
オーラの大きさは全く変わっていないが、オーラの色が濃くなったような気がした。
そして、威圧感も増している。
「全体の密度を上げたんだけど、どう感じる?」
「凄いです……!龍力の上限は変わっていないのに、この圧力……!!」
「僕たちが瞬間的に出すレベルの濃度を、常時……」
珍しくリゼルも驚いている。しかし、どうも「答えが出た」と言う表情ではない。
「ま、動いていないからまだやりやすいけどね。これに動きが加わると、維持はもっと難しくなる」
「その状態で技を撃てば、もっと高威力になるな!」
「……いや、上限を変えていないから、こんどはそっちを意識しないとじゃねぇか?」
全体の地力は上がったが、肝心の上限に変化を加えていない。
龍力の密度が上がったことで、戦闘能力の向上は間違いなく望める。
「で、肝心の『密度の上げ方』だけど」
「!!」
「やっぱり、個人差が大きすぎて、ね……有料で教えてあげても良いんだけど、ムダ金になっても、ねぇ?実際、(無根拠で)広めたくもないし」
「(お金出しても)知りたいですけど……リゼル?」
「……いや、構わない。大事なのは、金品よりも好奇心でしょう?」
「いい回答だよ、リゼルくん。龍魂は自分で磨いてナンボだ」
落胆するレイラたちが気になるのか、ファウナは続ける。
「答えを我慢した素敵な騎士団さんに、わたしの知り合いを紹介するよ。別の視点でヒントをくれるかもね」
リゼルに「次の個人研究者」の住所を伝えるファウナ。
彼女の親切に甘え、次の目的地が決まるのだった。