ー研究所ー
リゼルに連れられ、レイズたちはマナラド一大きな研究所に入っていた。
受付の女性に話をすると、「騎士団長から伺っております」と、簡単に入ることができた。
リゼルとレイラ以外のメンバーは、「団長の勧めかな?」と考える。だとするなら、先日の二人の態度も頷ける。
そこで、バージルも思い出す。
「そういや、フォリアの件も団長が伝えてくれてたみたいだぞ」
「ん?何の話だ?」
彼らは、フォリアが無断欠勤していたことを知らない。
「あぁ、あいつ、無断欠勤でついてきてたみたいなんだ。だけど、団長がフリーズルートに伝えてくれてて、お咎めなしってワケだ」
「気が利くな」
自分たちの上司(?)はレイラやリゼルだが、彼らの上は、団長である。
気が利く上司だと、下は本当に動きやすいし、助かる。
「行きましょうか」
リゼル、レイラを先頭に、研究所を見て回ろうとした時だ。バージルがフロアマップを見つけた。
「見ろ。案内板があるぜ」
「ふ~ん……これ、属性ごとに色分けされてるな」
フロア毎に、に研究する属性が振り分けられていた。
炎龍と太陽龍で1フロア、水龍と氷龍で1フロア、と言った感じ。
「……どうします?一度分かれましょうか」
レイラの言うように、分かれた方が効率がいい。それは、新人である三人も速攻で理解した。
しかし、リゼルは迷っている様子。即答しない。
「……いや、同時に行く」
その理由を説明してはくれなかったが、彼は同時に動くことを選んだ。
レイラも深くは聞かず、「分かりました」とだけ返答する。
「一階から行くぞ」
フロアの研究員たちにも話は通っている様子で、研究室内に入るもの簡単だった。
部屋ではそれぞれ別々の研究をしているらしく、「珠」の研究も、企業と連携して行っている感じだった。
「珠の構造と、龍(力)の構造を工夫すれば、もっと威力を上げることができるんです」
「そうなれば、護身用としてより優秀になるんですよ」
学生見学かのように、丁寧に説明してくれるが、自分たちが知りたいのは、社会科見学で得られるような情報ではない。
別の部屋に入ると、龍とのシンクロ率を計測するタマゴ状の機械が置かれてあった。
「この装置では、龍力のレベル(シンクロ率)を量ることができますよ。やってみましょうか」
「……面白そうだな。これ、ヒントになりそうじゃねぇか?」
「……かもしれません」
正確なレベル(シンクロ率)を量る訳ではないが、参考になりそうだし、まずなにより面白そうだ。
レイズたちは、順番に計測することにした。
「……これって、全力ですか?」
タマゴの中に入ったレイズは、疑問符を浮かべる。
「普段龍力を扱う感じで構いませんよ。難なく扱えるレベルで計測した方がよろしいかと」
「分かりました」
レイズは構え、龍力を発動させる。
装置が紅に光り、計測器が激しく動き出す。
「……ドキドキしますね」
「…………」
レイラの囁きに答えず、リゼルはまっすぐ計測器を見ている。ここでレイズを見ていないのが、彼らしいが。
明らかに終了だと分かる音が鳴り、タマゴの蓋が開く。
「ふぃ~~~~~……どうでした?」
「(ブレはありますが)30%くらいで安定していますね」
「30!?……低そうだな……」
「龍力において、高ければいいとはなりませんよ。分かっていらっしゃると思いますが、ここが高ければ高いほど、自我が低くなるわけですし」
「で、ですよね。はは……」
レイズがシンクロ率約30%。
「……参考値はあるか?」
真剣な眼差しのリゼル。その眼差しに、研究員は少しだけビビっている様子。
だが、淡々と結果を告げた。
「……団員さんを計測した経験から行くと、低めではあります。団員さんは35%周りが多かったと記憶しております」
「35……」
その5%で、どれだけ龍力レベルに差が出るのか?興味深い。
「じゃ、次は俺だ!」
意気揚々と、バージルが中に入る。
装置が緑色に光り、計測器が激しく動き出す。
彼の結果は、35前後で安定していた。団員の龍力レベルと同じくらいである。
「俺の勝ち~~~」
「クソ……」
新人龍力者を煽る龍力者。悲しいな。
「次私、いいですか?」
レイラがタマゴの中に入り、龍魂を発動させる。
結果は、40%くらい。
「流石レイラだな。参考値より上だ」
「あぁ。でも、あれで40……」
自分たちの龍力差が大きいと思っていたが、龍力レベルに換算すると、5~10%程度。
数値的には近い。しかし、かなり遠い距離だ。1%の重みが伝わってくる。
「僕が行くか」
リゼルの結果は、41くらい。レイラと同じ40に振れる時もあれば、41に振れる時間もある、と言ったイメージ。
龍力レベルは、彼女と同じくらいだと証明された。確かに、リゼルの龍力も凄い。が、逆に言えば、それでも40台なのだ。
「次はアタシね」
「……背伸びすんなよ」
「分かってる」
検査の時は、人間どうしても「いい記録」を残したくて頑張りがち。
割と自然体を意識したが、人見知りで緊張しがちなミーネ。龍が乱れなければいいが。
「……お願いします」
なるべく自然体で、龍力を発動させる。ここは戦闘でも調教の場でもない。
リラックスして、慣れている龍力レベルまで持っていく。
「結果は、37~38%……37の時が多いですね」
つまり、龍力レベルはレイズやバージルよりも上であることが分かってしまった。
「え?マ……?」
「…………」
同じ境遇のレイズはともかく、バージルは昔から風龍の力を扱っていた。それなのに、龍力レベルで負けているとは……
彼女はレアケースだが、実際に数値化されるとショックはショックだ。
このテストで、30~40%くらいの龍力レベルだということが分かった。
しかし、これはあくまでもシンクロ率の参考値。
実戦となれば、身体能力が加わる。属性の優劣も大きいし、技・術の精度も関わってくる。
戦略や状況判断力など、このテストで現れない項目だ。
だから、単純比較はできないのだが、数値的に勝った負けたが気になるお年頃。
バージルのテンションはレイズ計測時よりも明らかに下がっていた。
「……このシンクロ率を自然に上げる研究はしているか?」
「え?そのような研究は……それは、研究するよりも、ご自身で磨かれる方がよろしいかと……」
レイズの特訓方法がバージルに合うかは別問題。
つまり、研究で大雑把にその方針を出すことは不可能に近い。
「このケースではそうでした」や「あのケースではこうでした」を上げることはできても、それを広めることはできない。
結局「合う・合わない」が大きすぎるからだ。
よって、日々龍力の研究はしているが、より大きな力を引き出すような研究をしている訳ではないらしい。
「ただ、安定化を求められるのでしたら、データはございます」
ただ、個人の龍力オーラの構造を研究し、安定化を目指す研究は行っているとか。それは、安全に直結するし、エラー龍力者が増えたことで、騎士団としても、それを欲しているからだ。
教育プログラムに組み込むことができれば、安全にエラー龍力者を家に帰すことができる。
「安定化はいい。『力』という意味では、データも当てもないということだな」
リゼルの剣幕に、研究員はかなりビビっている。
騎士団長の依頼で、現国王レイラもいる。国の情勢は耳に入っているし、レイの話くらいは知っている。
そんな騎士団員たちが、力を求めている。それだけ『敵』が強大なのだと、素人でも分かった。
「他言無用で、お願いできますか?」
彼らの置かれた状況を想像した研究員。この人たちを信用しても良さそうな気がする。
「当然だ。騎士として、誓う」
「……営利を目的としない、趣味で研究している者なら、多少知っております」