第七章
夏休みになり、学校では受験に向けての補習授業が始まった。とはいうものの強制参加ではなく自由参加だったので、僕はどこよりも涼しくて静かな図書館に、朝からずっと篭もりっ放しになった。補習が終わればいつものように小夜子も図書館に来るものと勝手に思っていたが、三日経っても彼女は現れなかった。携帯でメールして訳を訊けばいいものを、変なところで意地を張る癖がある僕は、彼女の方からメールが来るのをずっと待っていた。しかしあちらもかなりの強敵で、メールが来たのは一週間経ってからだった。美大受験に向けてアートスクールにデッサンを習いに行っているので、当分の間、図書館へは行けないという内容だった。これが一週間も待ち望んでいたメールの内容かと思うと腹が立って仕方がなかった。「ごめんね」くらい一言あっても良さそうなものだ。それはそうと、小夜子の誕生日が三日後に迫っていた。「八月三日は絶対空けておいてくれ」と彼女にメールを返した。
しかし、女の子に誕生日プレゼントをするなんて生まれて初めてのことで、まったくどうしていいのか分からない。仕方ないので姉の澪に相談することにした。姉は「じゃあ、うちの商品を適当に選んで包んであげるよ」とのたまった。翌日、姉は綺麗にラッピングされた四角い箱と、それとご丁寧に請求書を回してきた。請求書の金額は五千二百円だった。一月三千円しか小遣いを貰っておらず、しかもほとんど惣菜パンに消えていたので、これは大変なことになったと思った。姉はそういう事情を察してくれたのか「出世払いでいいよ」と言ってくれた。捨てる神あれば拾う神ありだ。「姉ちゃん、あんたは神様のような人だ」と煽てていたら、彼女は、「気色悪いから止めろ」と言って僕の頭を蝿叩きで叩いた。しかし、それだけでは何だか自分の気が済まないというか、姉の選んだものだけではあんまりだと思ったので、金が無いなりの工夫をすることにした。
第八章に続く