第六章
夏休み直前のロングホームルームの時間、担任の横田先生は「一学期はどうにか予定通りに全教科授業日数が確保出来たようだし、仕方ないので今から道徳やる」と言い出した。道徳というものは仕方ないからやるものなのか? 公立学校の教師がそんなこと言っていいのかと思ったが、担任は保健体育担当で、いつも男相手に授業をしているせいか、やることなすこと体当たりというか無計画で無鉄砲なのである。こんなんでやっていけるなら僕も教師になりたいもんだ、と最近は真剣に教育学部を受けてみようかと考えるようになっていた。しかし、苦手の理数科目を克服しなければならないという難題が待ち構えていたので、まだ、決心が付かないでいた。まあ、小学校ならともかく、中学高校なら教育学部でなく専門の学部でも教員免許は取れるし、私立なら受験科目が五科目でなく二科目のところもあるので、そっちの線を選択するほうが無難だと考えを巡らしていたところ、司会の藤崎が突然僕を指名した。
「桧垣君はどう思いますか?」
「は?」
「だから、部落差別されていた地区の人と結婚するかどうか」
「はぁ?」
「話、聞いてたんですか?」
「聞いてません」
教室がドッと沸いた。
「とにかく、部落差別について君なりの意見を言って下さい」
「部落差別なんてものは、大体あること自体ナンセンスです。そこに住んでいただけで『今日からお前はエタだ、ヒニンだ』なんて、なんちゅう差別だと思います。よって、もし僕の彼女が、部落地区の人でも結婚します。終わり」
周りから拍手喝采が起こった。それから藤崎が同じ質問を数人にしたが、みんながみんな一様に「結婚します」と言い、道徳の時間が十分で終了してしまった。残りの時間は急遽、勝ち抜きトランプ大会になった。優勝賞品は担任が学食で買ってきたポテトチップスとコーヒー牛乳だった。
第七章に続く