第十四章
小夜子の病状は一進一退だった。このままでは、一緒に高校を卒業出来なくなりそうだった。僕は「必ず治る病気なんだから」と彼女を励ました。もっといい言葉が無いものかと思うのだが、いざ彼女を目の前にするとどうしても気の利いた文句が出て来なかった。
三学期になり、受験シーズンに突入した。センター試験の文系科目は何とか平均以上の点が取れたが、理系科目はボロボロだった。しかし、滑り止めの私立大には二校合格し、ほっと胸をなでおろした。両親は「それでいい、それでいい、生きてるだけでいい」とチンプンカンプンな褒め言葉を連発して喜んだ。僕も国立は無理でもいいと思うようになっていた。取りあえず、体育学科に入学して、教員免許を取得できれば僕の当面の目標は達せられる。小夜子は三学期になった時点で、留年が決定していた。仕方ないといえば仕方ないが、出来れば一緒に卒業したかった。
二月二十五日、二十六日の前期日程の二次試験は自分としてはまあまあの出来だと思った。これで落ちても悔いは無いだろう。とにかくやるだけのことはやった、後は天命を待つのみ。
三日後、久しぶりに小夜子の病室を訪ねた。小夜子が、流感にかかったと聞いていたので、二週間ずっと会えずにいたのである。
「元気? 風邪治った?」
「うん。治った、治った、もう完璧。それより、来て良かったの? 今、忙しいんじゃないの?」
「いや、もうほとんど終わったって感じ。一応私立受かったし、今は前期日程の結果待ちしてるところ。落ちたら、後期日程もあるけど」
「前期日程、受かるといいね」
「うん」
「はい、これ。ちょっと遅れたけど、チョコレート」
「あ、ありがとう。でも、俺はいいからお前食えよ」
「そう言うだろうと思って、私好みのイチゴチョコを古都子に頼んどいたんだ」
「……お前なぁ」
小夜子はクスクス笑いながら、チョコを頬張った。
「あのね、今日はいいニュースがあるの」
「なに、なに?」
「風邪引いたから延びちゃったんだけど、暖かくなったら退院していいって!」
「えっ、本当?」
「うん」
「やったー、やったね! やっぱりお前は偉いよ!」
「退院したらやりたいことあるんだ」
「何?」
「吉野家の牛丼食べたい」
「ちっちぇー夢だな。そんなもん今でも出来るじゃん。お持ち帰りで」
「あ、そっか。じゃあ、ディズニーランド三周」
「いきなりかよ。それは無理無理。一周にしといて」
「一周かぁ」
「一周でも一日で周るの大変だぜ」
「そうだね」
「退院する日が決まったら、行く日を決めよう」
「じゃ、いいんだね。必ずだよ」
「うん、うん」
第十五章に続く




