第十三章
十月十二日、体育祭の日、空は晴れ渡っていた。心配された雨も昨日の夜のうちに上がっていた。小夜子はやっぱり学校に来られなかった。僕のクラス、三年三組の仮装大会のテーマは「お輿入れ」で、輿には小夜子が乗る予定だった。仕方が無いので、クラス担任の横田先生に紙で出来た高島田のかつらと内掛けを着せ、輿に乗せてみんなで引き摺り回した。会場は爆笑の渦だった。仮装大会は見事三組が優勝した。誰でも参加できる盆踊りは自治会のおじいちゃん、おばあちゃんが浴衣を着て繰り出し、近隣の幼稚園児も総出で参加し、グラウンドは身動き出来ないくらいの人で賑わった。なんで高校の体育祭でこうも盛り上がるのか本当に不思議な光景だった。
勝負は、騎馬戦やリレーで高得点を取った赤組に軍配が上がった。体育祭も佳境に入り、残すはフォークダンスのみになった。三年生の男女が手に手を取り、曲に合わせてスキップしながら入場して来る。途中、グラウンドが土埃で何も見えなくなった。校長先生や教頭先生がホースで水を撒きながらの演技だった。誰もが笑いながら踊っている。男子が女子を引き回したり、またその反対に女子が男子を胴上げしたりのとてもフォークダンスとは思えないくらいの盛り上がりである。この学校のOBだったと思われる大学生の女の子の集団が、「いいなあ、私も去年ここで踊ってたのに……」と言いながら、後輩達の演技を見守っていた。三曲踊って終わりかと思われた時、突然、生徒の中の一人から「アンコール!」という声が上がり、やがてそれは生徒全員の大合唱になり、もう一度最初から三曲やり直しになった。最後の曲になった時、笑っていたみんなの顔が涙顔になっていた。
「この光景一つで、この学校が生徒にどれだけ愛されているかを物語っている」と体育祭を見に来ていた両親が後で僕に話して聞かせてくれた。
体育祭が終わった後、僕は父が撮ってくれたビデオカメラを持って病院を訪れた。小夜子は笑いながらビデオに見入っている。最後のフォークダンスは彼女も涙を流しながら見ていた。ビデオが終わると、僕はもう一度フォークダンスのところまで戻した。
「小夜子、踊ろう」
「え?」
「ここで一緒に」
「ええ!?」
「ほら、こうやって」
僕は小夜子の手を取ると、ビデオのフォークダンスの曲に合わせて、彼女をリードして踊った。最後は、クイーンの「You Take My Breath Away」にまで勝手にフリを付けて踊った。夕陽の差す二人きりの病室で。
その晩、彼女から来たメールには、「病室で一人で踊っていたら、脈が異常に跳ね上がり看護師さんに叱られた」とあった。
第十四章に続く




