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没落貴族のフロンティア  作者: 暁巳 蒼空
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第4話 『到着のドタバタ』

「では、こちらにお乗りください」


 そう言って彼女が指さした先にあったのは独特な形をした馬のいない馬車だった。


 .............は?これに乗れと?


「えっと、リディア嬢。この馬のいない馬車に乗れと言うことかな?」


 困惑する内心を隠すことなく訊ねる。どうやら向こうもこちらが何を言いたいのか気づいたらしい。


「ああ、これはですね、石炭車ですよ」


「石炭車?」


 石炭車。まったく聞いたことがない。名前からして石炭を使うようだが.......


「詳しいことはわからないのですが、どうやら『エンジン』というものを石炭を燃料に動かしているようです。その力で動かしているのだとか」


「ふむ。さっぱりわからないな。残念ながら科学というものには詳しくないんだ。何はともあれ、これが我が国の最新のものなのだな」


「ええ。そういえばこれはまだ本国では実用化されていないんでした。最新で間違いないですね。試験段階ですが、馬車なんかよりもずっと便利ですよ」


 ほう。馬車よりも便利か。確かに生き物ではない以上、過酷な環境でも運用がしやすいかもしれない。ぜひ一度使ってみて有用かどうか判断する必要があるな。


「なるほど。では、乗ってみることにするよ」


 そうして私は、この石炭車というものに乗って庁舎に向かうこととなった。



 



 車に乗ることおよそ三時間。一番端の港から庁舎が置かれている開拓線、その最前線へ来てしまった。地図を見せてもらいわかったが、馬車では休憩が必要なため、半日以上もかかる距離をわずか三時間で来てしまった。


「何ということだ。この石炭車とやらは素晴らしいな!これ無しでは生活できなくなりそうだ」


「気に入っていただけたようで何よりです。ああ、ここが執務室や宿泊施設を兼ねている庁舎です」


 そう言って案内されたのは中規模の木造建築の建物だった。荒野にぽつりと建物が一軒あるだけ。それ以外は複数のテント小屋があるだけだった。


「港と違い、ここは発展していないな」


「ええ、ここは開拓の最前線ですから。一月もすれば無くなってますよ。町ができるのはごく一部の生活しやすい地域だけです..................その予定です」


 この場所についての説明を受けながら庁舎の中を歩き、執務室まで案内された。


 彼女が言うには本格的に開拓がはじまったのはこの一年以内で、未だに王国が望むような鉱山や豊かな土壌も見つかっていないのだとか。それどころか安心して生活できるような土地すら見つかっていないらしい。勢いだけで大陸(ここ)に来てしまったが本当に大丈夫なのだろうか。いまさら心配になってきてしまった。


 話している間に、あまり広くない建物の最奥にある執務室と書かれたプレートのある部屋の前で私たちは止まった。


「それではコンレッタ伯、執務室内にこの開拓線内での各責任者が集合しています。着任の挨拶をお願いします」


 言うが早いか、もうすでに扉を開けていた。つい数時間前に自己紹介を失敗したばかりだ。今度こそは失敗できない。


 落ち着け私!部下に対してどう接しろと父上は言っていた!


「初めまして諸君。私が監察官のユリウス・フォン・コンレッタだ。まずは各々の紹介をしていただきたい」


 まず大切なのは立場を示すことだ。決して驕ってはいけない。だが、なめられてもいけない。どちらが上か理解した上で、できる限りの対等な関係を築く。それが優雅な貴族の在り方だと教わったはずだ。


 では、と一言入れてから挨拶をしたのはリディア嬢だった。


「改めて自己紹介させていただきます。私は大陸監査官秘書のリディア・カーデルラントと申します。以後、よろしくお願いいたします」


 スカートの端を小さく摘み、丁寧なお辞儀を加えての挨拶だった。


 うッ!眩しい!眩しすぎて直視できない!!

 あるはずのない眩しさを感じた私は、思わず目を背けてしまいそうになる。

 落ち着けー!二度も失敗はできないだろう!


「あー、俺ぁルイス。ルイス・ホーウッドって言います。一応開拓者の代表ってことになってます。まぁ、よろしく頼みますぁ」


 己の心と必死に戦う私をよそに、次に挨拶したのは筋骨隆々の大柄な男性だった。一目で労働者とわかる黒目黒髪。よく焼けた肌。彼の立場は開拓民の親父役といったところだろうか。

 余談だが、王国にもとからいた人間は全員が金髪碧眼だ。征服によって王国民となった従属地の人間は皆黒目黒髪をしている。表立った差別があるわけではないが、彼らが貴族には絶対になれないことを理由に、選民意識に駆られる貴族も少なくないのだとか。


「私はカルロ・ソルダーノと申します。先住民や猛獣の脅威からあなた方を守るために派遣された護衛部隊の隊長をしている者です。私どもの仕事が無いことを祈っています」


 最後に挨拶をしたのはいかにも王国軍人といった感じの真面目そうな人だった。彼になら安心して命を預けられそうな気がしてくる。


 ん?ちょっと待てよ。責任者ってこれだけ?いくら何でも少なすぎでは...............


「ひとつ訊きたい。責任者はこれだけか?」


 私の疑問に答えたのはリディア嬢だった。


「はい。これだけです。実際に開拓民だけでも数千名はいる暗黒大陸ですが、残念ながら明確な法律や役職もなく各自で自由に開拓を進めているのが現状です」


 まさかそんな状態だったとは。未開の土地だからといって適当すぎではないだろうか。これは法律や役職などを一から決める必要がありそうだ。


 しばらくは胃痛に苦しめられそうだな。そんなことを思う初日だった。



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