プロローグ 『始まりは突然』
重ねてですが、この作品は突発的に始めた無計画なものです。それでもいいと言う方はぜひ読んでみてください。
「よいか、息子よ。貴族とは常に優雅たらねばならない。それは優雅に生きる権利を生まれ持っているからだ」
上質な色合いをみせるワインレッドのタキシードに身を包み、整った髭を持つ壮年の男性 ―私の父親― は言葉を続ける。
「だが、決して傲慢であってはならない。我々が優雅に生きることが出来るのは、その生活を支えている守るべき領民がいるからだ」
「はい、父上」
父上のいうことは正しいだろう。これこそが真の紳士たる貴族のあるべき姿なのだろう。
「逆もまた然り。謙虚なだけではだめだ。領民のことだけを考えるようでは立派な貴族とは言えない。上の者が下ばかり見ていては下の者を不安にさせるだけだ。そうさせないためにも常に上を見つめ優雅たることが肝心だ」
「はい、父上。ですが.......」
だが、いまはこんなことを話している場合ではない。なぜなら...........
「そして優雅たるには余裕を持つことが大切だ。余裕を持ち、優雅にふるまうことが周りの余裕となり、より良い結果を生むのだ」
「ですが.......!」
なぜなら..................!
「どうした、息子よ?」
「あなたは余裕を持ちすぎでしょう!!!」
そう、なぜならいま私達は、国に領地を没収され、ついでに発生した借金によって路頭に迷っているからだ。それなのに父上は、この男は優雅に笑っているのだった。
「うお!どうした息子よ突然大声をだして.......」
「あなた状況わかってます!?余裕ぶってる場合じゃないでしょう!!!」
「いや、息子よ。私の話を聞いていたかね?いまさっき余裕を持つ事の大切さを教えたばかりだろう」
「時と場合があるでしょう!あなたのそれはただの現実逃避です!!!」
その後もしばらく思いつく限りの言葉を父親にぶつけ続けた。
「で、原因はあなたにある訳ですから何か策くらいありますよね」
このままでは何も好転しないとわかっている以上、騒ぎ続けるのも時間の無駄なので頭を冷やし、現状打破の方法を考えることにした。
そもそも事の発端は、国王陛下主催の晩餐会で酔った父上がくだらないギャグを披露し、陛下の不興を買ってしまったことに始まる。有史以来、ギャグで滑ったことによって領地剥奪をされた貴族がこの国にいるのだろうか。それも伯爵という身分でだ。しかも話はここで終わらない。そのときにあせらず行動すればよかったものを、突然の不安からギャンブルに走り、結果として全財産を失いつつも莫大な借金を獲得するという結果だけが残ったのだ。我ながら情けない父親を持ったものだ。
領地没収とは貴族の特権すべてを奪うことと同じだ。頼みの綱である徴税をすることはできない。残るものは意味のない家名だけだろう。こうなった以上親戚を頼るか、陛下に直に謝り、許しを請うかしか選択肢はない。そうしなければ、明日にでも命の危険は迫ってくるだろう。
だが私にはあまり関係のない話だ。家督を継いでいない以上、私は国家の保護を受けることが出来るのだ。今回ばかりは家督を継いでいなかったことに感謝しよう。また、母親は既に他界していて、兄弟もいない。結果的に苦しむのは事の発端である本人のみと言うわけだ。とは言え、こんなのでも自分の父親だ。自業自得だとは思うが、できることなら助けてやりたい。
「策は一つだけある。だが、これはお前の協力が必要だ。父のために協力してくれるか?」
そう、自業自得だ。でもたった一人の家族なんだ。できるだけのことはして助けるに決まっている。
「これでもたった一人の家族ですからね。いいですよ父上。私は何をすれば?」
私の言葉を聞いた途端、父上の目つきが変わった。長年の生活からわかる。これは計画がうまくいった時の表情だ。すべてを悟り、「やっぱり断ります」と言おうとすると.......
「それは良かった。それじゃあお前に家督を譲ろう。前から譲れ譲れ言っていただろう?なら今ここで譲ることにするよ」
「...........................................」
まさかの展開すぎて何も言えなかった。都合よくこの沈黙を了承の意味だと判断した父上は話を続ける。
「父はこれから修道院に行って隠居生活を送るから、お前は借金500万ゴールドの返済よろしくな」
すでに計画通りの展開だったのだろう。言い切る前に走り出していた。今度こそ呆れすぎて何も言えなかった。どうやら家督は私に譲られてしまったようだ。
家督はその家の権利そのものと言っても過言ではないだろう。これが譲られたものはその家の当主となり、主に3つの義務と権利を先代から引き継ぐことになる。それは徴税、領地の管理、そして借金の返済だ。
だが、この家には領地と徴税権は剥奪されてしまったため存在しない。つまり、私が引き継いでしまったものは借金の返済義務だけということになる。
「まんまと騙しやがってこのクソ親父ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
想像を超えたあまりの出来事に、普段から意識して使っている丁寧な言葉使いも忘れて、心のままに天に叫び続けた。
返済額: 0ゴールド
残り:500万ゴールド