序
意外に思われるかも知れないが、昭和は今より遥かに危険な時代だった。
治安も悪く、交通ルールは無きに等しく、テロや殺人や重大事故がいたる所で頻発する。
今より遥かに命が安い時代。それが昭和。
油断しているとすぐに死ぬので子供はみんな「知らない人についていくな」「車に気を付けろ」と厳しく言われた。
RPGの序盤で調子に乗って最初の町から少し離れると強力なモンスターに一方的に殺戮される的な、ああいうノリの時代だった。
世紀末でもないのにタフボーイしか生き残れない基本ハードモードだった時代。
当時のノリをちょっぴり抽出しつつ、80年代の生臭い汁と混ぜ合わせて、古き悪しき伝奇ロボット小説を描いていきたい。
こことは違うどこか。遠い遠い時の彼方。
人が地球と呼ぶ水の惑星に文明を築き始めた頃、地上には巨大な魔獣、妖魔、邪鬼の類が跋扈し、人類は常に生存圏を脅かされていた。
山野には大型の魔獣が生態系の頂点として君臨し、時として火炎を吐き、稲妻を光輪にして打ち出し、地震や竜巻を起こし、いかなる軍勢も太刀打ちできなかった。
知性ある妖魔は気まぐれに集落を襲い、戯れのように殺戮を繰り返した。
放置された動物や人間の死骸には死霊が宿り、醜悪な邪鬼となって夜に跋扈した。
そんな日々が繰り返されて、数え切れない昼と夜が過ぎた、ある年の初め。極東の島国の部族の長は、この島で最も高い山の頂で初日の出を拝み、神託を得た。
そして神託に則り、魔の物と戦うための武具を作り始めた。
武具の材料は次の通り。
部族の若者が西の大陸を冒険して手に入れた、視肉と呼ばれる神獣の肉片。視肉は食べ物を与えると成長し、いくらでも増やすことが出来た。
大陸から渡来した民が作り出す、鉄という強靭な金属。これを鍛え、巨大な鎧と剣をこしらえた。
島国に僅かに生き残る〈キサ〉と呼ばれる大型哺乳類の骨。深い山中には〈キサ〉の墓場のような場所があり、そこから多くの骨を採取した。
部族の領地から産出される、蒼い玉。これは遠い昔に星の世界からやって来た巨神から剥がれ落ちた欠片と伝えられている。
〈キサ〉の骨を加工し、人間の骨格に似せた形状に組み立てる。
骨格に視肉をへばり付け、何日か成長させると視肉は筋肉として定着する。
筋肉の上から鉄の鎧を被せ、大きな剣を持たせる。
最後に、この大きな肉人形の腹に空いた大穴に蒼玉をはめ込む。
その大穴に、部族の長が身を屈めて乗り込むと、肉人形の目に炎が灯り、魂を得て動き出した。
高さおよそ13尺の巨大な人型の武具である。
後の世で空繰と呼ばれる、人型自走甲冑がこうして誕生した。
空繰は剣を太陽に掲げ、長は高らかに宣言した。
「民よ、もう夜に怯えることはない。兵よ、我に続け。天佑、日の加護は我らにあり。今こそ八島の闇を祓うのだ」
長とその軍勢は空繰を操り、長い戦いの末に全ての魔物を打ち滅ぼした。
こうして島国には平和と繁栄がもたらされ、長の一族は皇尊と成って、末永く国を統治した。
めでたしめでたし。
――というのは、極東のある島国の建国神話なのだが、史実に基づいた余談がある。
皇尊は国家の元首であると共に、軍の総大将でもある。
伝統的に軍勢の先頭に立つ武帝であることを求められたがゆえ、皇尊の乗る空繰には他を凌駕する最強の性能が与えられた。
だが長い時と共に皇族や貴族から戦闘的性格が失われ、やがて武士の時代に移り変わると、皇のために空繰を作っていた技術者集団も野に下った。
戦国の世が過ぎ、長い太平を経て、再び皇尊に権力が奉還された頃には最強を誇った皇尊、すなわち皇帝用空繰は伝説となり、もはやその実態を知る者は誰もいなかった。




