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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第六章 作ろう獣人の国
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インタビュー 高坂&日野

色んな理由の話になります。彼等も救済したかったんです…



 召喚された時?そりゃあ最初の感情はやっぱり『不安』よね。私達の常識が一つも通用しない世界。ちぐはぐな文化。怖い化け物。生活環境の変化。周りの人達は私達をチヤホヤしてくれたけど、それとこれとは話が別よ。


 まず嫌だったのは訓練ね。騎士団長かなんだか知らないけど、おっさんに毎日扱かれるのよ?つい最近まで女子高生だったってのに。毎日毎日毎日休みなく鉄の剣を振らされて、手に剣タコが出来た時は泣いたわ……


 そしてある程度の基礎技術が身に付けば、もっと嫌な魔物狩りによるレベル上げ。


 切り傷の血しか見たこと無いのに殺す殺さないの世界に突然入ったのよ?ゴブリンを斬った時点で大概の女子は吐いたわよ。泣く子だって沢山居たし、私だって足が震えてちびりそうだったわ。


 それで……そんな生活が嫌になってきた皆に、ある時、朝比奈が言ったのよね。



「俺は、この世界をゲームで見たことがある。もしかしたら、その世界を似せて作られた物なのかもしれない」って。



『ゲーム』という言葉を聞いて、皆は、私を含めて目の色が変わった。考えてみれば、リアルな異世界だと言うなら、『ステータス』なんてものがある時点で可笑しい。そう思えて来たの。


 そして私達は、この世界をとりあえず『ゲームの中』だと過程して生きることに決めた。


 そう思っていないとやっていられなかったから……



 聖剣を使うようになってから、どんどんレベル上げが楽になって、強くなっていく楽しさがあった。この世界ではありえないステータスの上がり幅に心も躍らせた。魔物もゲームの中だと思えばこそ安心して倒せた。


 けど今度は違う問題が発生したわ。私達が呼ばれた元凶、『魔王』とそれに属する『魔族』の存在。それが遂に姿を現したのよ。


 当時の私達のステータスと聖剣特性があれば、朝比奈は容易に倒せると判断していたけど、私達には違う問題もあったわ。それらは全て元『人種』なのよ。つまり、元は普通にこの世界で暮らしていた人達。当然魔物とは違い知性も残っている。


「魔族は人間じゃない。魔王を倒さなければ、この世界が滅びてしまう。僕達で救い出そう」


 そう言って朝比奈は聖剣を掲げて、大多数の者が賛同していたわ。私も……正直浮かれてた。世界の英雄って聞こえは良かったし。それで救われる命があるならと割り切ったのよ。



 そしてラダリアへの侵攻が始まった。私達は一点突破で早期決戦を目標として動き、各国にはその後釜を任せたの。だって、普通の人間じゃとてもじゃないけど魔族には勝てなかったから。ハーリアの歴史家によれば、獣人が魔族化した場合、人間が魔族になるよりも遥かに戦闘力が高くなるんだって。へぇ、っとしか思わなかったけど。


 それで魔族を殺しながらどんどん進んで、ラダリアの城に到着したのよ。その頃には魔族達の発する魔力で空気が汚れきってたわね。


 城の中に入って真っ先に玉座を目指した朝比奈は、その間周りへの警戒をして欲しいと私達に頼んで朝比奈が率いたグループと一緒に行ってしまったわ。私は入口辺りで警戒してたんだけど、部屋の中から物音がしてね。生き残りかと思って行ってみたら……



 身形と恰好からして……多分、王女の誰かだったと思う。



 そりゃ、倒したわよ。やらなきゃこっちが殺されるし。けどね、何でか分からないけど、その部屋のクローゼットの中に、女の子が一人居たのよ。その子もその魔族と同じ感じの服装だったわ。直感的に「あ、妹か」って分かった。ショックを受けた顔で泣き出しそうだったけど、声を上げて泣かれるのは不味いと思って気絶させたの。



 それでその子抱えて戻ってみれば、広場には魔族の死体を積み上げていく勇者達の姿があったわ。朝比奈も魔王を倒し終えたみたいで、それを手伝ってた。その時だと思うわ。皆が『壊れた』のは。私も正気ではいられなくなったのよ。集めた魔族は、全員の聖剣を使った魔法で消滅させたわ。ついでに国も、とても人が住めるような環境じゃなくなったから、丸ごと消した。

 戦いの余波じゃないのかって?それは表向きに朝比奈が発表したことよ。もう皆浄化が面倒だったからって理由で消したんだから。



 後から気付いたけど、朝比奈はハーリアを主要メンバーで既に傀儡にしてたのよね。都合の悪い獣人は皆奴隷にしとけば、後に残るのは頭を垂れるモブだけだと言ってたし。私達も疲れてたから、それに同意したの。

 ああ、三人は違ったわね。朝比奈の考えに付いていけず、勇者の称号を隠してそれぞれ逃げたわ。その後の事は知らない。


 私が担いでた女の子は、近くに居た国にさっさと渡したの。朝比奈に見せたらどうなるか分からないしね。その王は、まぁガルアニアの奴だったんだけど、守り抜いて見せると言って去ってったわ。何となくホッとしたのを覚えてる。


 けど、もう私も『壊れてた』。もはや人を斬ることに躊躇いはなかったし、ムカついた時のストレス発散道具ぐらいにしか見えてなかった。私達は英雄として祭り上げられたのに、面と向かって褒められたのは最初の数日だけ。それからはまた城に缶詰めだったのよ。丁度最近のガルアニアの生活みたいなね。自由はあったけど。


 まぁ出られない理由としては、とにかく人がウザかったわ。人を珍獣だとでも思ったんでしょうね。やれパーティだ披露宴だとかそういうしがらみもね。あの時は朝比奈が窓口になって止めてくれてたけど、それも限界だった。


 それである日、あいつは私達を各国に派遣しようと言い出したのよ。目的は国力を削いで反旗を翻さないようにする為だと言ったけど、それなら税の徴収を止めれば良いじゃん?って思わない?けどあいつ、『世界の為に必要だから』の一点張りで、その頃から何かよく姿を消すし、怪しいことし始めてたっぽいのよね。何人かはそんなあいつから離れたくて派遣を賛成したって感じもあった。


 もっと言えば、男共がもう限界を超えてたのよ。えーと、そう。美香の奴が襲われた事件があったんだけど、それが切っ掛けで派遣の件が本格的に進んで、各自が好き勝手やって結果的に国力を削いでいってたって訳ね。



 え?国力削いだら税を支払えなくなってその内餓死者が出る?………ごめん、そこまで考えてなかったわ。まぁ、自分を見つめ直す時間は得たし、滅ぼして再建された国守るってんなら、贖罪の一環にはなるでしょ?あとあの女の子王様になってたのね。凛々しくなってて吃驚したわよ。モンドールより骨がありそうね。


 貴方の友達の件だけど……謝るわ。え、水魔法使ってた冒険者治しといたの?……実は、本気で人を傷付けたのはあの人が最初なのよね。いつか謝りたいわね。え?どうしてあんな残虐な感じになってたのかって?そりゃあこっちの世界でまともな恋愛なんて出来ないのよ?それなのに戦う場であんなにイチャイチャしやがって……うぐ…はい、すいません。


 あー…こんなんだから彼氏出来ないのよね。ねぇ貴方、どっかに良い男って居ないかしら?首輪が外れたら優しい人見つけて結婚したいのよ……勇者とかもう忘れたいし。



 日野?根暗は願い下げよ。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺も願い下げなんだが……



 俺までする必要あるのか?まぁやると言われれば拒否出来ないのが恨めしいが。


 俺は朝比奈派だったからな。この世界は『ゲームの中』だと思ってたし、世界中の奴等は皆モブ、そんな認識だった。


 俺は向こうでは日陰者だった。勇者って称号にはすぐに飛び付いたよ。で、朝比奈はその勇者筆頭だったし、リーダーとして方針を決めていた。だからその朝比奈の言うことを聞いて忠実にこなしていれば、それは勇者として正しいと自分を正当化していた。


 それで、実際捕まってみればどうだ。たった2週間であの程度の拘束に泣き言を言う始末。自分がどれだけ甘ちゃんだったかを思い知ったぞ。横に居た高坂の方は事実泣いてたしな。


 復讐?いや、先にしたのはこちらだからな。どちらかと言えば逆恨みだろ。そんなみっともない真似はしない。ただでさえ勇者の名は地に落ちたのだから、俺が何をやろうとも意味は無い。勇者と言われるような事も……していなかったしな。

 

 俺達が暮らしていた場所か。地球という星の…星の概念が分かるのか?あ、ああ。まぁその地球という星の日本という国に住んでいた。学生をしていた時に、ハーリアの召喚魔法で呼ばれたんだが、その時に女神が現れた。説明は色々あったが、大まかに3つだ。


・勇者として魔王を倒すこと

・聖剣特性のこと

・その後の人生


 まず、魔王のことは巫女が予言者となって道を指し示すとのことだった。事実そうなったから被害は最低限に抑えられたと思うぞ。国を消滅させたのは朝比奈の指示だったが、皆精神的に限界を感じる程疲れていたからな。盲目的に頷いてやってしまった。


 聖剣特性は勇者の前ではまず見せない。ラダリア侵攻の時も、聖剣特性は発動させず、ほとんどの奴が副次効果だけで戦っていた。今回召喚された勇者の数も一番多かったと言われているな。


 そして、俺達は魔王を倒しても元の世界に帰れない。これが一番キツかった。今までの生活水準を捨てるというのは、それだけで多大なストレスだった。何人かはネット環境が永遠に使えなくなって発狂しかかってたな。俺は本派だから、読めさえすれば何でも構わなかったが。飯もそこまで拘らんしな。


 それでなんだったか……そう、朝比奈だ。あいつはラダリア侵攻が終わってから少し変わっていた。いや、皆性格的に変わってしまっていたな。あの事件を思い出したくなかったんだろう。自分を正当化する為に誰もが朝比奈の言葉を理由にした。俺もその1人だ。


 朝比奈は世界を救った報酬として各国から多額の税を取った。その理由は分からないが、何かしらしてはいたんだと思うぞ。城の中で姿を見ない日もあったしな。


 それで派遣の話になるが、高坂も言っていた桜田の襲われた事件だが。あれは魔族を殺して喜んでいた奴等だったな。向こうの世界でも素行が少し悪かった。桜田は確かに戦闘には参加していないし、国の外に居たからな。戦っていた連中の苦しみは分からんだろう。魔族を倒して破格のレベル上げもした奴等にしてみれば、桜田は可愛いだけのお荷物ぐらいにしか思っていなかった。それが城に閉じ込められてみろ、娼館にすら行けなくなったあいつ等はお遊び半分で桜田を襲った。


 助けた奴?俺が見つけて、朝比奈に伝えたんだ。とりあえず応援を寄越せってな。俺としては一応クラスメイト同士でそんな血生臭いことされても面倒だからな。余計に不和を広げかねんし。ギリギリのところで朝比奈達が来て事無きを得た。


 だが女子連中から反発があってな。全員が朝比奈の派遣に乗った。開放されたかったんだろう。桜田は一番女っ気の無い剛谷と一緒にレーベルラッドへ、襲った奴等は魔導学園都市に送られた。あそこは外とは隔絶されているからな。一度入れば勇者でも出て来るのが難しいとされている。


 そして俺は、まぁ朝比奈の傀儡だった。その所為か高坂とは事務的なやり取り以外は別段接点も無い。というより、あいつは向こうの世界ではスクールカーストが上から数えた方が高いからな。底辺の俺とはそもそも話が合わん。


 それでもお互い他に話の出来る相手は居なかった。俺は事前に聞いていた朝比奈のやり方で、貴族を没落させたりステータスの高い者を警戒していた。武闘会の件では、国から金を出させるのが目的だったから高坂を投入したしな。


 それで……誘拐の件だが。まぁ、すまなかった。殺すつもりで戦っていたことも認める。俺達はやり過ぎた。今思えば桜田を襲った奴等と変わりない事をしていた。牢屋の中で泣いていた高坂を見ていて、俺は『ゲームの中』から抜け出せたからな。


 後に残るのは罪悪感だけだ。ラダリアか……良い国だよ。今はそう思う。




・以上、アイドリーによる警備隊に入隊数日後の勇者インタビューである。以下、本人感想。


「その朝比奈っていうのが一番壊れてそう。魔導学園都市も行きたいけど、その野郎共は朝比奈と同じくフルボッコ確定だね」

「「創造神様じゃないっスかッ!!」」

「お前神様になっていたんだな創造神」

「そりゃあ勇者じゃ勝てないわよね創造神」

「ちくしょう……バレたぁ……」



次回、新章になります

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