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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第六章 作ろう獣人の国
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第84話 勇者警備隊

「今日から此処がお前達の寝床だ」


 案内された場所は、下が机になっている2段ベッドが2組ある質素な部屋だった。その他に机が1つ、椅子が2つ。ルームシェアという形になる。そしてそれぞれ違う部屋にされたのは、獣人と慣れさせる為だろうと2人は考えた。


「お前達には狼族の中で下っ端の奴等との共同生活になるが、気の良い馬鹿共だから仲良くやれよ」

「馬鹿は酷くないっスか!?」

「私達頑張ってるじゃないっスか!?」

「黙れデコボコ兄妹」


 それぞれの部屋に居た狼族が顔を出して抗議の声を上げた。片方は身長が2m越えの大男。しかし身体がよく引き締まっており、細マッチョよりか多少太い程度だった。


 もう片方は身長が日野の腰ぐらいまでしかなく、しかし不釣り合いな程大きい大剣を背に抱えた少女だった。抱き枕に出来そうな程大きい尻尾も特徴的だろう。


「でっかいわね」

「ちっさいな」


 それぞれの感想はそんなものだった。それに対する兄妹の反応も、


「うわ、頭黒いっスねッ!?」

「というか暗そう特に男の人ッ!」


 ゴチゴチゴチゴチッ


「お互い相手の見立てを感想に述べるのは止めろ」

「「「…はい(っス)」」」


「リサリーはクエントと、ブレアはネムレアと相部屋になる。警備の仕事でのペアにもなるからな」

「1つ良いか隊長」

「なんだ」

「何で部屋が男同士女同士では無いんだ」

「……?」


 何を言ってるんだこいつ等という顔でオージャスは2人を見た。因みにクエントとネムレアも首を傾げている。


「相部屋であった方が子は作り易いであろうが」

「「何言ってんの(だ)!?」」

「我等は数が減っているからな。獣人存続の為には増えねばならん。今回は人間であるから無理は強いないが、男慣れ、女慣れしておくに越したことはあるまい。ということで貴様等兄妹は異性を覚えろ。お前達は兄弟から仕事内容を聞くように。ではな」


 言いたいことだけ言ってオージャスは去って行った。残ったのは気まずい雰囲気だけが充満した宿舎の通路に男女が4人……


「……気にしなくて良いっスからね?あの人偶にとんでもない事言うっスから」

「え、ええ……えと、リサリーよ。これからよろしく」

「う、うす。クエントっス。じゃあ部屋に荷物を……」

「あ、うん」


 クエント組はぎこちないながらも自己紹介を済まし、なんとか空気を戻して部屋に入っていった。残りは1組。根暗とロリが残った。


 最初のファーストコンタクトをどうすべきかとブレアは悩み始めるが、そんな彼にネムレアはニコっと上目遣いで笑い掛けながら、


「……お兄さん、改めて私はネムレアっス。少女趣味は無いっスか?」


 爆弾を投げ込んだ。その瞬間彼の彼女に対する対応の仕方が決定する。


「無い。ブレアだ、行くぞ」

「あ、はいっス……本当に無いっスか?惹かれないっスか?」

「無いと言っているッ!!」



 こうして始まった共同生活。2人はアイテムボックスからドサドサと物を出して自分達用の空間を作っていった。高坂は大量の化粧品や鏡立てを机に並べ。日野は机の上が本だらけになった。兄妹達もそれぞれ違う感想を浮かべていたが、かねがね想いは一緒だった。


((変人っスね……))





 私とクエントは日野……ブレア達と別れて街中を歩いていた。


「それで、具体的な仕事って?」

「あ、はいっス。えーと、今日から数ヶ月はずっと門番の警備っスね。詰所から門を眺めて、問題行動が起こったら話聞きに行って、怪しい奴が居たら即時対応って感じっス」

「また、偉く簡単なのね…」

「下っ端っスからッ!!」


 笑顔で堂々と言われても反応に困るんだけど……門の前で先輩?の警備隊の人に挨拶をすると、そのまま詰所まで連れてかれた。って狭いわね。

「そんじゃあ今日も張り切っていきましょうリサリーさんッ!」

「え、ええ」

(不安だわ……)





「ブレアさん。私達の仕事は城周りの巡回っス。つまり周りに展開している屋台で買い食いも自由ってことっスね。2つの意味で美味しい仕事っス」

「多分駄目だと思うぞ……」


 この女……さっきから食べ物の話ばかりだ。子供らしくはあるが、俺としてはもう少し物静かにやりたい。


「それよりお前、よくそんな剣を持てるな。戦闘でちゃんと使えるのか?」

「……さぁ?恰好良くて装備してるだけっスからッ!!」

「お前なんで警備隊に所属してるんだ…」


 おかしいだろう。あの隊長は何を基準に隊員を選んでいるんだ。今鑑定で見ていたが、ベアウルフにも勝て無さそうだぞ。


「しょうがないっスよ。どこも人手不足なんスから。私達は若いから一番動く警備隊に回されたんスよ。若いからッ!!」

「しかし……子供がこんな場所に…」

「私22歳っスよ?」

「年上、だと……?」


 俺は久々にファンタジーというものを味わった。




 仕事終わり、日野と高坂は食堂で顔を突き合わせ、今日のことを話していた。しかし2人してゲンナリした表情な為、声のトーンがお互い低い。


「あんた……今日どうだった?」


「……そうだな。城周りの警備だったが、ネムレアがひたすら屋台を回っていた。何度か隊長が様子を見に来て拳骨をくれてやったが、結局終わりの時間まであいつは食い続けていたな……後、あいつあの成りで俺達より年上だったぞ」

「……ファンタジーね」

「ああ…そうだな……そっちは?」


「こっちは…最初は暇だったわね。門の警備だったけど、まったく問題が起こらないのよ。初日だったからかもしれないけど…けど、途中からあいつ他のおばさん獣人達を集めて井戸端会議始めたのよね…というかどっから現れたのよおばさん達……門の前なのに」

「ファンタジー……だな」

「そうね……」



「「はぁ……」」



 ちゃんとやっていけるのか激しく不安ではあったが、自分達の能力以上のことはとりあえず無さそうだったので安心もしていた。そして改めて思う。


「獣人って、結構ノリで生きているのね」

「というより…元々はお気楽だったんだろう。戦闘の時以外は…」


 獣人は皆気性が穏やかだった。そこかしこで遊びを織り交ぜながら仕事をするし、暗い雰囲気というものをいつも吹っ飛ばしていた。泣いている子供が居れば近くを通りかかった者達全員で母親の名を叫び、喧嘩をしようとする人間が居れば仲を取り持とうとする。


 正直警備隊が本当に必要なのか?と思える程だった。


「何故警備隊が必要か教えて欲しいか?」

「ッ隊長……」

「いきなり来ないでよ……」


 突然後ろから話しかけて来たオージャスにビクつくが、オージャスは気にせず話を続ける。


「食い終わったなら付いて来い。見せたい物がある」



 

 オージャスの後を付いて行くと、城の地下牢に通された。牢には、何人もの人間が閉じ込められており、皆座り込んで沈黙している。


「あいつ等は、他国から来た奴隷商人だ。傭兵という名の冒険者を雇ってこの国に入り込み、女子供を攫おうとしていた奴等だ」


 その数を見て信じられないとオージャスに顔を向けるが、オージャスは冷徹な態度を崩さない。本当ならば八つ裂きにしてやりたいのは彼なのだから。


「良いか、確かに我等獣人だけならば治安など絶対に悪くはならないのだ。だが、人間と関わる以上、こういった者達は毎日必ずどこかに現れる。それを我等は防がねばならん。お前達の仕事は、我等の仕事は、悪しき行いをする者達から民を守ることにある。それを決して忘れるな」

「「……」」


 人の醜さは知っていが、こう直接的な物を見せられると、2人は顔を俯かせることしか出来なかった。同じ人間だと、思いたくなかった。





「お、遅かったっスね。何かあったっスか?」

「……いえ、何でもないわ」


 部屋に帰ってくると、まだクエントは起きていた。私はどんな顔をすれば良いか分からず眼を背けたけど、

「……何か悩み事でもあるんスか?よーし俺に任せるっスよッ!」

「は?あ、いやちょ、きゃッ!」


 何故か張り切っているクエントが、私を持ち上げ胡坐を掻いてそこに乗せてしまった。更に大きい尻尾を私の膝に乗せてくる。わ、フワフワなのねって……はぁッ!?


「ちょっ、今日会ったばかりの女に積極的過ぎないッ!?」

「へ?何がっスか?俺いつも妹が泣いてる時こうしてんスけど?」

「……何でもないわ」


 あんたの妹よりは背は高いわよ私は…………けどなんか落ち着くから良いわ。尻尾フワフワだし……


「ほら、何があったんスか?」

「……ま、良いか」


 私がオージャスとの事を話して、自分の過去の行いをボカしながらも全部言った。結局のところ、私達は現実に戻れても壊れたままでは無いのだろうか、と。あの奴隷商人達の表情は、前までの自分達だったと…いや、今もそうだと思った。私達は本当に更生なんて出来るんだろうかと疑問に思えたのよ。

 それに、人を道具のようし使役するなんて、向こうの世界だったら人間としての倫理を疑われるわ。そして、それを捨てきれる程私は人間を止めてなかった。だからこそ罪悪感が心を苛むのだ。罪を犯したのは自分達なのに。


 それをこいつは、クエントは黙って聞いててくれた。大きい手で、私の頭を撫で始める。その手をどけるのは……面倒だからやめた。


「凄かったんスね。リサリーさんは」

「そうね、力だけだけど。中身はただのガキだわ」

「けど、色んなこと考えてちゃんと悩んでるじゃないっスか。全部投げ捨てて楽しようとしてないじゃないっスか。それだけで凄いと思うっスよ?俺、無理っスもん!!」

「何で胸張って言うのよ貴方……はぁ。けど、そうね。私は私達を許すことは出来ないけど、あんたの能天気な顔見てたら少しは気楽になれそうね」

「お、ホントっスか!?なら嬉しいっスねッ!!」


 こいつの笑顔は、なんだか心地良い……






 何故こうなっているのだろうか……と自問して何回目だろう。

「それでね?クエントにぃっていっつも変な知識を披露してくるんスよ。あれ、聞いてるっスかブレア?おーい」

「ああ、聞いている。聞いているが……そろそろ降りないか?」

「嫌っスッ!!」

「……そうか」


 このやり取りももう何回目だろうな……ネムレアは帰って来た俺をベッドまで追いやり、胡坐を掻かせてその上に座った。何の事前説明も無く。な、何故だ……


「だって、いつもはクエントにぃのに乗ってるんスもん。けどほら、オージャス隊長が言ってたじゃないスか。異性を知るべきだって。だから実践してるんスよ?」

「で、何か変わったか?」

「あー……視線がいつもより下に向く……スかね?」


 そりゃあ俺はクエントよりかは身長が低いからな。目線が下がって首への負担も減るだろうよ……俺としては顔が近くて困るが。後微妙に頬を染めるな、恥ずかしいならどけ。


「まぁなんにせよ、これから長い付き合いになるっスからね。よろしくっス、ブレアッ!!……後もっとギュってして欲しいっス。その方が安心出来るんス」

「いや、それは勘弁しろ……」


 流石にロリコンにはなりたくない…合法であっても……







「もう大丈夫そうだったね」

「仲良しだった~♪」


 私は今日、2人の仕事振りを空からアリーナと見ていた。一応フォルナにお願いされたからってのもあるけど、これからやることを考えると、2人にはなるべくラダリアの人達と交流を持って欲しかったからね。戦力として数えてはいたけど、心が救われるならそれに越した事は無い。


「さーて、もうちょい様子見したら私達も行く準備しよっか?」

「どこにー?」

「ちょっとダンジョンに、かな?」





「リサリーさんは尻尾が好きな女性っスね。見ていて可愛かったっス」

「ブレアもなんだかんだ言ってギュッとしてくれたっスッ!凄い暖かかったっスッ!!」


(何やってんのよあんたはッ!!)

(……何も言うまい…)

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