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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第六章 作ろう獣人の国
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第83話 勇者雇用

 えー今日は久しぶりに王都ガルアニアにやってきました。といってもベルモールさんの転移石が光ったからなんだけどさ。行ったら会議室で朝食を取っていたモンドールと遭遇。美味しそうなので妖精になってパンを拝借した。


「そんで、何の用かな?」

「うむ、そろそろ勇者についての処遇を決めたくてな」


 ああ、勇者か。そういえばただ捕まえただけでずっと牢屋の中だったね。半年経ったけど、あれからどうなってるのん?


「現在は客室に住んで貰っておる。奴隷の首輪が継続だが、部屋の外に出ないことと、戦闘の禁止、そしてスキルの禁止を言い渡してある。あれでも一応は勇者なのでな。あまり酷い扱いは出来んのだ……」

「なるほど………ねぇ、あの2人ってこっちにくれたりする?」

「……なんだと?」


 いきなりの申し出だが、モンドールは静かに疑問を呈した。


「ラダリアに連れて行くと言うのか?何故だ?」

「えーと、実はそろそろ行きたいところがあってさ。暫くの間ラダリアから離れるんだよね。といっても数ヶ月ぐらい?だけど。その間にどっから勇者が嗅ぎつけて来るか分からない。だからその為の用心棒として欲しいかなぁって」

「用心棒と言うが、獣人達は受け入れるのか?」

「勇者の名は隠すし、名前も偽名にするよ。普段は普通に生活して貰うけど、反逆だけはしないようにしておくから安心だと思う」


 そこに人権は?と聞かれると、いや、殺人とか暗殺とかは自由にされても困るからね。言論弾圧はしないから許して欲しい。帰って来て更生してたら首輪は外すつもりだよ。それに……


「自分達が奪った筈の物を、目の前で見せる必要があるんだよ。そうでなきゃいけない」


 じゃないと、永遠に首輪が付いたままになると思うんだ。それが奴隷の首輪であろうと、勇者の称号であろうと。呪いと変わらない。






「くそ……いつまでこんなところに閉じ込められてなきゃならないのよ」

「……知るか」


 最初の3ヶ月は城の牢屋に居た高坂と日野。警戒されていた為に動かせるたのは首から上と、腕の第一関節から先だけだった。そんな扱いに慣れていなかった彼等は2週間で泣き言を言い、モンドールの命令によって身体の自由だけは手に入れた。


 それから3ヶ月、勇者の称号は思ったよりも重かったらしく、武器は奪われたままで城の一室に放り込まれることになった。最初は安心もしたが、いつまでも部屋の中で男女が一緒というのも耐えられそうにない。



「寝床が良くなったのが救いだけど……」

「身体が鈍るばかり――待て」



 そこに、ドアのノック音が鳴り響く。2人は顔を見合わせた。



「まだ食事には早い時間じゃない?」

「何か動きがあったのか?他の勇者が来たのか?」


 城の部屋に入ってから3ヶ月。部屋に入って来るのは日に3度の飯を持って来るメイドだけ。それ以外に時間を外して入って来る者は居なかったのだ。よって何か動きがあったのではないかと二人は思ったが、



 現れたのは、殺したい程憎い少女だった。



「貴様ッ!!」

「おまえッ!!」

「お久し振りだね。っておっと」


 現れたアイドリーに隠し持っていたフォークを突き刺そうとしてきた高坂。だが奴隷の首輪の効果で、すんでの所で身体が止まってしまった。

 歯を食いしばって何とか動こうとするが、そこからは1ミリたりとも動けなかった。だから殺意の眼光だけがアイドリーに殺到している。


「まぁそうくるだろうと思ってたけどさ」

「よくも……私達をこんな場所に」


 血走っている眼でアイドリーを睨み付ける高坂。に、アイドリーはフォークを降ろさせながら宥めるように言う。


「分かってるよ。私も悪かったとは思う。けど貴方は国滅ぼそうとしたんだし仕方ないじゃん。そっちのは私の友達を拉致したし私の怒りもあったからね。嫌な思いは今日でお互いに終わらせたい。その首輪はまだ外せないけど」

「「……」」


 分かっていた。自分達は喜々としてそれを実行していたのだ。罪悪感など微塵も感じていなかった……と言えば後々になって首を横に振るが。


 今までは『ゲーム感覚』で生きてこれた。それは自分達が常に最強であれたからだ。この世界の住人は全てモブであり、自分達を引き立てるだけの存在。それ以外の感情は必要無い。邪魔なら消しとけば良いぐらいのものだった。

 派遣もそうだ。朝比奈は『それぞれが自由に国を動かせば良い。国力だけを削げれば後は自由にしろ』なんて言ったのだから、自分達はそうしていた。


 武闘会も所詮その1つである。アイドリーが現れるまでは。



 初めて浴びた非難の嵐。自分達がやったことで起きた罪。人の人生を駄目にしたり、平気で痛めつけ、挙句向こうでは大罪とされているような事もやっていた。『ゲームだから』と思いながら。



 暗い牢屋の中で思い知ったのだ。自分達がどれだけ馬鹿だったのかを。



「……っち。どうすれば出してくれんのよ」

「私とこれから獣人の国に行って貰うよ」

「……はぁ?ラダリアは私達が」

「もう再建した」

「「―――ッ!?」」


「驚いてるね。けど、現にある。それで私は今そこに居るんだけど、ある目的があって数ヶ月の間離れなきゃならないんだよね。その間だけ用心棒をして欲しい。御給金もまぁ出るし、普段は普通の生活してて良いからさ」


 自分達が滅ぼした国で生活をさせられる。考えるだけでも恐ろしい事だ。だがアイドリーは安心して欲しいと言葉を続ける。


 以下条件。


・新生ラダリア王国にて用心棒として主に警備隊と共同で活動すること。

・普段は普通に生活をしても良い。

・給金は月に銀貨20枚。

・戦闘は住民、もしくはそれに準ずる者を救う場合にのみ適用する。

・戦闘は鎮圧で抑えること。勇者が相手の場合は問答無用で聖剣を発動させること。

・休日は週2日。


「それで、首輪をちょっと……」


 アイドリーは『妖精魔法』を使い、首輪に細工を施した。


「これで、私以外にその首輪は外せなくなったよ。誰かに頼んで外して貰うなんてことされても嫌だしね」

「「……」」


 2人に選択肢は無く、頷く他無かった……




 アイドリーは2人を連れて会議室で待っているモンドール王の所へ向かった。中に入れて貰うと、マゼンタを発見する。アイドリーはニッコリ顔になって近付いていった。美人は皆大好きなのでしょうがない。


「こんにちわマゼンタさん。警戒?」

「あー……出歯亀、かな。君が入れば問題無いけど、職務だからね」

「お疲れちーす」

「軽いなぁ………」


 そう言いながらも「ありがとう」と返すマゼンタ。実はアイドリーの大ファンなので、内心では赤面する程嬉しかったりする。

(あーアイドリー君可愛いなぁ……お持ち帰りしたいなぁ…)


 しかし外面には決して表さない。アイドリーはモンドールに向き直る。



「勇者は了承したから連れてくよ」

「ああ……勇者殿」


 モンドールは勇者の方に顔を向けた。怒りとか憎しみとかそういうのは感じない。立ち上がって勇者の前まで来ると、穏やかな顔で言った。


「我々は確かに生きている。決してゲームの駒ではないのだ。それだけは、覚えておいて欲しい……」

「「……」」


 高坂も日野も、顔を伏せ……小さく頷く。


「それじゃあ行くね。何か伝言は?」

「フォルナ陛下に……その内また一局指そう、と」

「はいよ、じゃあね」





 私は2人の肩を掴むと、フォルナの持っている自家製転移石に向かって一緒に跳んだ。丁度謁見の間で待っていたらしく、戻って来たと同時にポスっとフォルナの顔が私のお腹に当たった。


「おっと、ただいま」

「おかえりアイドリー……その人達は、勇者だよね」

「今日から働かせるけど、大丈夫?」

「うん。オージャスをさっき呼んだから、もうすぐ来ると思うよ」


 突然跳ばされて訳も分からない勇者組は、目の前に居る獣人の少女、現国王のフォルナを見て激しく動揺した。しかも高坂に関していえば、


「……ふぉ、フォルナ第三王女……それに此処は…ラダリアの城」

「本当にあったのか……」

「お久しぶりですね。勇者方……ていッ」


 パンっと高坂の頬が一発叩かれた。まったく痛くはない。痛くはないだろうが…お互い無表情で向かい合っているのに、高坂は酷く痛そうな顔に歪んだ。



「皆の分です。受け取ってくれますか?」

「……たったこれだけなの?」

「ええ、けど。これで一先ずは終わらせます。私で止めときます……これから、よろしく」



 差し出された手。しかし、高坂はその手を取らない。



「今は良いわ。首輪が取れてからで……」

「……はい」



 そこにオージャスが姿を現す。アイドリーの顔を見て軽く会釈すると、フォルナの前で膝を付いた。


(本当に変わったなぁオージャス……)


 最初に会った頃の刺々しさや傲慢さが全て消え去り、職務に忠実な戦士というのが今の彼の印象である。全てが忠誠によって成される行動だった。


「王よ。お呼びでしょうか?」

「ええ、こちらの2人が今日より警備隊の所属となります。宿舎までの案内を任せます。よろしいですか?」

「……人間、名前は?」


 聞かれるが、2人は困った。偽名のことを考えていなかったのである。口籠る様子に訝し気な目を向けるオージャスに、横からアイドリーが口を挟んだ。ノリで。


「女がリサリー、男がブレアだよ。よろしく隊長さん」

「えっ」

「あんた勝手に」

「……そうか。ではリサリー、ブレア。お前達の寝床に案内する。付いて来い」

「「……」」

「返事ぃッ!!!」

「「は、はいッ」」


 2人はどやされながらもオージャスに大人しく付いていった。残ったアイドリーは、フォルナを抱き上げる。

「あ、アイドリー?」

「凄いなぁフォルナは……」

「…そんなこと、ないよ」


 アイドリーは、フォルナを本当の意味で王だと認めた。高坂は、魔族となったフォルナの姉を、目の前で殺した勇者だった。本当なら罵倒の限りを尽くし、受けた痛みを返したかった筈だ。それを平手一発で抑えたのだ。8歳の少女が。涙も浮かべず、気丈に。


 勇者を警備隊に所属させたいと言った時、アイドリーは姉のことを聞かせた。だがフォルナは聞かせた上でその申し出を承諾したのだ。


 しょうがないことだと分かっていたから。連鎖は終わらせるべきだから。



「あの人達は、この世界に『強制されて呼ばれた普通の人』だよ。そんな人達がこの世界を『現実』として受け入れるのは難しいと思う。アリーナの、あのボードゲームのようなもの。あの2人も、他の勇者も。自分達がプレイヤーだと信じてた。だから魔王とだって戦えたんだ……自分達がやっていることは『ゲーム』だから。罪悪感だって消せた。恐怖も倫理も叩き伏せられたんだ」



「けど、その結果残る人々の事を考える余裕が無かった」と、フォルナは凛とした表情のまま続ける。



「やり直せるよ。私達だって出来たもん。勇者のやったことは酷いけど、仲直りだって、知ってくれれば不可能じゃない。私達が此処に生きていることさえ…知ってくれれば…」

「けど……泣いたっていい、友達の前ぐらいさ……フォルナも人だもの」

「……うん」




 胸を貸して少しすると、静かな啜り泣きだけが部屋の中に響いていった……


「今日は私達の抱き枕ねフォルナ」

「おやすみフォルナ~アイドリ~♪」

「うん、お、やすみ……凄いドキドキするよぉ…」



(うーむ、尊い)録画水晶起動中

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