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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第六章 作ろう獣人の国
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第82話 90日目~180日目 幼獣グループ・エネクー

 オージャス一派には警備隊として働いて貰う事になった。なんせ武闘派だからね。それなりに戦闘力の高い人物が揃っており、街への人と獣人のいざこざは彼等によって止められている。治安も良くなるし、人間側で奴隷商人が悪さしようとしても、狼族の鼻と狩りの習性には敵わないので安全性が格段に上がった。


「けど、オージャス変貌し過ぎじゃないかな?」

「彼だって悔しかったと思うけど……そこはほら、獣人だからね」


 どんなに汚かろうと伝統は絶対なようで、今の彼は誠実に職務を全うしている。仕事終わりには仲間と酒場で酒を飲んでるし、案外楽しそうだ。


 

 やはりあの日の決闘後に皆んなで仲直りの『ケモミミ音頭』をやった御蔭だね。絶対そうだね。




 そんでまぁ、この数ヶ月私はインフラ整備を手伝ったり温泉街の建築を手伝ったりアリーナや美香と遊んでたりアイドル育成してたんだけどさ。ああ、アイドル育成っていうのは、今はどちらかと言えば『お遊戯会』なのかな。かなりアクティブだけど。


 それは、私が教会の隣に建つ孤児院へ赴いた時のことだ。



「かみさまだ〜♪」

「かみさま〜遊んで〜♪」

「絵本読んで〜♪」

「アイドリ〜鬼ごっこ〜♪」


「ここが約束の地エリュシオンだったのか。余生はこの孤児院で過ごそう」

「尊いのは同意じゃがとりあえず溢れている物をどうにかせい主よ」



 おっと危ない危ない、尊い者達に不浄の血を垂らすところだったね。


 だけどどうだいこれ?猫人、犬人、熊人、パンダ人、狐人、白狼人、兎人に馬人と、様々な幼児達が自らの尻尾を健気に振りながら無邪気な顔で私の足元でワラワラしているんだよ?溢れるわ。アリーナ混ざってるから倍率ドンよ。



「神様扱いされて唯一得したことだよね」

「神の名やっすいのぉ……んで、今日は何をしに来たのじゃ?」

「ああ、ちょっとシエロから頼まれててね」


 何でも、財政的にまだそこまでお金が無いラダリアで孤児院の子供達はこれからも増えて行くから、何か金策になるようなことは無いか?というものだった。孤児院を自分達の力で切り盛り出来るぐらいで良いと言っていたので、私は試してみたいこともあり承諾。


 そして今日、孤児達に仕事を与える為に来たのだ。


「今日は皆んなにはお仕事を紹介したいと思ってきたの。楽しくて一生懸命になれてその上お金を稼げるお仕事なんだけど、皆んな出来るかな〜?」

「「「出来る~~ッ!!♪」」」


 よーし食い付いたな天使達め。私が全力でプロデュースしてやるぞふははは。


「アイドリー、私はー?」

「アリーナは私達と一緒にバンド組んで乱入かな。今回は見送りだけどね」

「ああ、あれまたやるんじゃな……」


 ガルアニアでやった時も受けたしね。さて、子供達もノってくれたし、温泉街が完成するまでに準備を終わらせないと。上手く回れば孤児院は化けるし、



「よーし、頑張っていこー」

「「「はーいっ!!」」」



 ということで子供達の猛特訓が始まった。まずは手先が器用な子、リズム感が良い子、そしてわんぱくな子に分けて行き、それぞれの役割分担をする。



 手先が器用な子には演出道具を。

 リズム感が良い子には楽器の練習を。

 そしてわんぱくな子には歌と踊りを。



 と、大体均等に分けられたのは良かったね。皆んな仲良しだし聞き分けが良いのは私が神様だから?いや、多分アリーナが潤滑油になってるからだな。あの子全てを楽しそうに手伝うし。それでも最終的には皆が皆オールラウンダーに出来る様になってもらうけどね。


 私は私で、演出用の小道具や衣装のデザインと、歌のレッスンと振り付けを行っていた。荷物はレーベルに頼んで全部温泉街の方に持って行って貰っている。場所は宿泊施設前にある大宴会場の裏だ。



 その際、本人も不思議な顔をしていたよ。


「我が獣人の為に働くことなど、昔では考えられなかったわい。ただの知能のある獣ぐらいにしか思っておらんかったからのう。人間なぞ野蛮な猿で、妖精は小虫じゃった。主達と出会わなければ、今頃また強敵探しなどと言う詰まらんことをしておったことじゃろうて」


「まぁ私の趣味嗜好に少し染まった感はあるかもね」

「それもそうじゃが、何よりアリーナの存在が大きいかのう。長年妖精と人は違う場所で生きて来たが、人と触れ合うことでここまで何かを変えるとは思わなんだ。あの娘は正しく妖精じゃよ。主は『異端』という意味ではそれを超えるがな」



 そう言ってまた幾つかの道具を担いで行ったレーベル。本人が楽しそうにやってくれてるなら私としては言うことは無いよ。無理に馴染めなんて言わないし。


 しかし『異端』か。私はバグキャラみたいなもんだしね。生まれも種族も特殊だし、なんだかんだ自分の力が未だ謎だし。他にも私の様な存在がいるなら探すけど、生まれた時点で死んじゃった可能性の方が高いよなぁ。私はアリーナに会えたから生き残れたんだし。



「ま、考えても無駄なことだからどうでも良いや。さ~て天使達を仕込むぞ~♪」

「「「言い方~」」」

「はい、ごめんなさい」




 そうやって楽しく教えて遊んで食べて寝てを繰り返しながらで3ヶ月後。遂に温泉街が完成し、今日はお披露目会である。


 今日からガルアニアからの観光客達も来る為、フォルナも緊張した面持ちで迎えていた。初めての大事業だもんね。国のほとんどの人が協力したし、収益が気になってしまうのは仕方がない。

 まず、温泉街は国壁の真横に隣接して作られている。ラダリアの壁は大樹が折り重なって出来ている自然物だが、そこに私が妖精魔法を使って無理やり門、というか通り道にした。この通り道の景観も一つの観光目玉として役に立つからね。それに、


「まさか射的を開発するとは思わなかったよ。景品が魔道具っていうのも子供から大人まで役立つような物だし」

「私ラダリアで暮らしたいよ本当に。そして勇者も止めたいや……」

「分からなくもないけど、温泉入って気を紛らわしてきなよ」

「は~い……」


 そして温泉街だが、此処も一応ラダリアの領地なので、壁は全て同じものにしてある。建物の建材は森の方から切り倒してきた物を使い、更に採掘場から出て来た安価な鉱石を磨り潰して壁にしていたりしている。魔法で加工出来るから便利便利。


 肝心の温泉だけど、これは基本的に効能に別けて作ったので、結構な数になった。いや、前世と違って変な効能もあるから吃驚したんだよね。なんだ『入るとステータスが微上昇する湯』って。この世界特有過ぎるでしょ。しかもそれぞれが違う湯なんだよね。試しに入ったら極小だけど本当に上がったし。獣人達も作ってからは毎日入っていた。美香とシエロも毎日『美肌トゥルトゥル』に特化した温泉に入っているよ。


 更に宿。これは大きいの3ヶ所建てた。それぞれグレードが違ってたり部屋の数が違っていたりするが、基本全てが防音防護にしてある。予約はこの世界で長距離での通信手段がほぼ無いので早い者勝ちだけど、最初に宿を取るように門前で注意書きを持ったバイトの子供達が居るので大丈夫だろう。


 最後に従業員。これはほぼ子供や女性、そして老人で構成されている。男達は元々の仕事でお金を稼いでいるので手が割けない。国で働く人口を増やす為の政策でもあったので、自分達でも無理なく危険無く働いてお金が貰えるという話に彼等は喜んで力を貸してくれてたのだ。




 ではお待ちかね、3つの宿の前に作られた巨大宴会場の特設ステージから、私達が用意していたものをご紹介しないとね。




「おー沢山来てるね~」


 冒険者や商人、家族、恋人、そして仕事終わりの獣人達も宴会場でドンチャン騒ぎしながら酒や食べ物を喰らっていた。さーて、余興がどこかまで通じるか分からないけど、『可愛い』を信じていってみようか。

 子供達の顔を見るが、皆早くやりたくてしょうがない顔をしていた。これっぽっちも緊張してなくて大変結構。


「準備は良いかな?」

「「「はいッ!!」」」

「良い返事だ。さぁ、お客さん達を驚かせてあげよう」





 最初に気付いたのは、この街で商売を始めた男だった。


「ん?おい、あれ見ろ。子供が楽器持って出て来たぞ?」

「……本当だ。何か始めるつもりか?」


 指差された先には。特設ステージの前に陣取って椅子を並べていき、座って楽器を鳴らず準備を始める子供達の姿があった。そういえばと見てみれば、ステージ全体はカーテンによって見えないのだ。


 これは何か始まると、客達は自然と口が少なくなり、その様子を見守り始まる。子供達はそれぞれの楽器を吹き鳴らすと、更にもう一人、猫獣人の子供がその子供達の前に立つ。



「こんにちわ。私達は『幼獣グループ・エネクー』です。本日はこの記念すべき日を盛り上げる為、獣人一同心を込めて盛り上げたいと思います。どうぞ、拍手を持ってお迎え下さいッ!!」



 子供らしい喋り方に客達は面白そうだと暖かい拍手を送る。子供は客に背を向けると、腰からアイドリー作の指揮棒を取り出し、構えた。



「…………ッ!!」

「「「~~~~♪」」」


 始まった音楽に、観客達が驚きを露にする。子供の演奏にしてはあまりに練度が高い。軽快な音楽に乗せられて、自然と身体がリズムを刻み始めてしまう。


 そしてカーテンオープン。


「「「おおッ!!」」」


 カーテンの中にあったステージは、まるで建物を切り取ったかのような場所になっていた。板張りの壁、大理石のような柱、そして豪華なシャンデリアが飾られていた。


 そこに大胆な振り付けで踊る民族衣装を身に纏った子供達が足音を鳴らしながら出て来た。一息のズレも無いダンスと、それぞれが浮かべるとても楽しそうな笑顔。子供達は我が意を得たりと子供特有のソプラノとテナーの声をハモらせて歌い出す。



 そしてなにより、強調して振られるお尻に合わせて揺れる尻尾達………フワフワで、ポンポンで、可愛く魅惑的なその光景に目を奪われずにはいられなかった。



「獣人って、こんなに可愛かったのか……」と……



 獣人は子供の時から身体能力が高い。小さくても2mぐらいの高さまでなら軽々と跳ぶし、自分と同じぐらいの重さまでなら持てる。


 それを活かして、子供達はステップを踏みながら互いの頭を飛び越えたり、足を持って空中高くまで飛ばし回転も混ぜていく。一度アクションを起こす度に客は湧き、宴会場のボルテージは上がっていった。

 

 何故ここまで盛り上がれていたかと言えば、この世界で演劇や歌劇団、音楽隊は確かに存在するが、それは全て『子供』ではなく『大人』が全て運営していたのだ。それも人間のである。獣人はこういったことはしたことがない。


 なにより、こういったものは貴族や金持ちの道楽である。しかもどれもが厳格で物静かなのが普通なので、一般人は自分達でただ歌って騒いで好き勝手に踊るというのがほとんどなのだ。偶に旅の楽団が立ち寄っておひねり目的で奏でたりもするが、それも例外だ。



 ということで、今回の試みは色んな意味でアイドリーが史上初である。アグレッシブな踊りに軽快な親しみのある音楽。どれもこれもが酒に合い、つまみに合い、何より場に合う。客はどんどん気分を上げ注文を取り始め、店員は嬉しい悲鳴をあげ続けた。





 子供達は手を繋いで一礼すると、衣装のスカートを広げて宴会場に広がっていく。指揮棒を持っていた猫の女の子が、



「次回の講演をお望みとあらば、どうか『おひねり』をお願いしますッ!!♪」

「「「お願いしま~~すッ!!♪」」」



 各場所で、耳と尻尾をフリフリしながら笑顔でパタパタ駆け寄って来る子供達に対して、客は喜々として硬貨を広げたスカートの上に放っていく。これが孤児院の皆の御給金や次回からの小道具制作の材料代となるのだ。

 当初はアリドリーは金貨100枚程教会に寄付しようかとも考えたが、それだと子供達の頑張りによって生活を盛り立てるという目的が霞んでしまうとレーベルに止められた。ならばとこうして講演後にお金を気持ちで求めるという方が自然だということで採用された。



「いやー、見事だったね。フォルナ、ちゃんと撮れてた?」

「うん、水晶にはバッチリ『録画』できたよ。けどこれ、売れるの?」

「ファンが出来れば、ね」


 実は、工場にある物を生産して貰っていたんだよね。それがこれ、魔道具『録画水晶』です。水晶に魔力を流すと、その分だけ水晶に映した光景を記録するというものだ。水晶さえあれば幾らでも安価で生産出来るので、アイドリーはとりあえず限定100個作って自分で買ったのだ。それに自分で魔力を流し、様々な角度から録画した。


「さて、じゃあ早速売ってくるよ。いらっしゃーい、今の光景をいつまでも見ていたい人にお勧めだよ~録画水晶はいかがですか~~今回は特別限定版、100個が記録済みだよ~~いらっしゃ~い」

「いらっしゃ~い♪」

「買わんか~?」


 と『妖精の宴』一同で売りに行ってみた。おぅ、眼の色変えてこっち来たな。特に商人。獣人の作った魔道具は珍しいって話だし、


「是非売ってくれ!!幾らだッ!!」

「銀貨1枚でどうよ」

「安いッ買った!!!」


 という感じでこっちは瞬く間に完売である。おー金貨1枚分になっちゃったよ。1個が原価で銅貨50枚だから単純に2倍の売り上げだ。これは教会に寄付しとかないとね。


 あっちも終わったようで、子供達が着替えて私の居る場所まで来た。囲まれて飛び付かれてしっちゃかめっちゃかにされた。あらあらあらあら。



「お姉ちゃんありがとうッ!!!」

「とっても楽しかったッ!!」

「一杯お金貰えたよッ!!!」

「お~そいつは良かったよ。今日で皆免許皆伝だ。これからは皆の力で頑張るんだよ?」

「「「はーいッ!!!」」」



 帰りは皆で手を繋いで教会に帰ったよ。子供達の一生の思い出が出来たのと、生きていく為の術は教え終わった。後はこれがどう浸透していくか、かな。


 願わくば、悪い方向には行かないことを祈るばかりだけど……


「あいどり~」

「ん?」

 傍らに居たアリーナが、私に笑いかけた。街の光に照らされたその眼は、暖かさを感じさせて私を映す。


「だいじょーっぶい♪」


 頭をコテっと私の肩に乗せてウリウリしてきた。私も頭を寄せて、その温もりを感じる。優しいなぁ……私の親友は。



「ふふ、そうだね……帰ろっか?」

「うんッ!!」

 子供達の楽し気な声と、肩に乗っかる友の暖かさに心地よさを得ながら、私達は教会への帰路に付いた……

レーベル「甘々じゃの~」水晶起動中

フォルナ「入る隙も無いな~」水晶起動中

シエロ「凄いな~アイドリー……」水晶起動中

美香「可愛いなぁ皆……」水晶起動中

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