第80話 89日目 王の矜持
「待っていたぞ……逃げずに来るとは思わなかったがな」
場所は広場に設置されたと特設ステージ。オージャスはこの決闘を演説中に流布し、観客を集めていた。その目的は主に3つある。
1つはフォルナのあがり症を誘い、笑い者にして罵倒すること。2つ目は、決闘による決着を公式にすること。最後に、もしもの為の仕掛けだ。
「……雌雄を決する場としては、相応しいと言えますね」
対するフォルナは、落ち着いた様子でオージャースと対面していた。しかしローブを付けて身体の線を隠しており、顔もフードで見えづらい。辛うじてフォルナと分かる程度だ。
「おい、なんだそのフードは?国民の前だと言うのに仮にも王を名乗る者がそんな格好をするとは。ふざけているのか貴様?」
「ふざけてなどいませんよ。これで良い……と助言を受けただけです」
とは言っても、一国の長が顔を隠す行為にオージャス派から非難の声が上がるが、それ等は司会の声によって消された。
『それではこちらにお集まりになった国民皆様方。本日はこの決闘の場においてラダリアの王が誰か。その雌雄を決することとなります。私は今日この場でその歴史の1ページを見られることに大変興奮しております!!いやーラダリア良い所ですね!!新婚旅行に選んで良かったですッッ!!』
何故かラダリアで司会をしているセニャルに、『妖精の宴』2名が苦笑いになる。しかも新婚旅行ということは、あの武闘会の後結婚したのだろう。近くでヤスパーが頭を抱えているのが見えた。
『それでは決闘者の紹介に移りましょう。まずは現国王陛下に決闘を申し込んだ狼族の長、オージャスです!!』
狼特有の咆哮と供に登場するオージャス。背中の毛を逆立てて威嚇するようにフォルナを睨み付ける。
『迫力ある登場ありがとうございます!!情報筋に寄りますと、オージャスは亡き先代族長の長子ということで、自動繰り上げで族長になったそうです。ですがその力は折り紙付き、国民に力を示し、王としての威厳を獲得出来るのでしょうかッッ!!!!』
(あの子は怖い者知らずなのかな?)
アイドリーはまず、オージャスがどんな人間か知らないセニャルに速攻で逃げて欲しいと思った。その人、人間虐殺派だよ?っと一言言ってあげたかった。オージャスやオージャス派の獣人達は皆フォルナを見ているから奇跡的にバレていないが。
『では続きまして。現ラダリア国王、フォルナ・フォックス・ミーニャント・ラダリア陛下の御登場ですッ!!』
フォルナは、フードとローブを脱ぎ捨て、国民達に姿を現した。
「「「………誰だ?」」」
とてつもなく愛らしい獣人の女の子が、冒険者の恰好をしてそこに立っていた。よく見ればそれは国民達がよく知っている少女に似ていた。が、あまりにも雰囲気が変わり過ぎて、誰も確信が持てない。
『か、可愛いッ!!え、本当に?本当に陛下ですか!!?』
「ええ、そうですよ」
声はフォルナの物だと何人かは気付き、同時に一体どうしたらそんな変化を遂げてしまうものなのか困惑する。確かに元々愛らしい少女ではあったが、あそこまで性的ではなかった筈だと、顔を赤くしてしまった。
「貴様……何者だ?」
オージャスも気づかず、フォルナに爪を伸ばして臨戦態勢に入る。しかしフォルナは毅然とした態度を崩さない。
「私は間違いなく貴方に決闘を申し込まれたフォルナですよ。決闘までの準備期間として1ヶ月の猶予を与えたのは貴方ではないですか。私はそれに合わせ、研鑽を積み結果この姿になったに過ぎません」
「……良いだろう。たかが1ヶ月でどうにかなるとも思えんがな」
嘲笑を含んだ言葉に、オージャスは更に続ける。
「だが良い女になったじゃないか?中々に美味そうだ………国民よッ!!今日この日、俺が勝った場合、その賞品として、フォルナ陛下との婚姻を結ぶと此処に誓おうッ!!!」
「……は?」
自信満々に意味の分からないことを言い始めるオージャスに、メーウが堪らず苦言を申し立てた。
「待てッ!!勝負の勝敗以下は、国王の成り代わりであった筈だ。何故そのような話になるのだッッ!!!」
「知れたことを。俺が王になればどちらにしろその女の血筋は俺が頂くのだ。ならばどっちであろうが一緒だ。分かったら神聖な決闘場から失せろ老いぼれッ!!」
「良いのよメーウ。変わらないわ」
「ふぉ、フォルナ様……」
フォルナに抑えられ、ギリギリの精神状態で下がるメーウ。どこまでもオージャスが調子に乗るので、セニャルは決闘の開始をしようとするが、それをフォルナは止めた。
「決闘をする前に、私はどうしても貴方に問いたい事があります」
「問いたいことだと?」
「貴方が、王になった後のことです」
「……ほう、なんだ?言ってみろ」
自分が王になるという言葉を受け、気分が上がったのか、フォルナの問いかけに応じるオージャス。肯定と受け取ったフォルナが、最初の攻撃を開始した。
「貴方が王になった場合、何を成すのですか?」
「決まっている。人間達への報復を――」
「どうやって?」
「……それは、未だ奴隷として扱われている獣人達に反逆を――」
「無理です」
「ッ!?」
最初の一歩で躓くオージャス。だがフォルナは止まらない。
「彼等には奴隷の首輪が付いています。それがある限り逆らうことは出来ない。貴方だってよくご存じですよね?」
「な、ならば、現在ラダリアに居る兵力で強襲を」
「現在の残存兵力はたった3000人余りですよ?武器も防具もまだまだ不足しています。そんなので強襲?各地の勇者達に鎮圧されて終わりですよ。全員また奴隷に逆戻りがお望みですか?」
「我々は最後の1人になるまで闘争は消えん!!1人でも多くの人間を道ずれにして死ぬことを選ぶ誇り高い――」
「私の友人は、それを『犬死に』と呼ぶらしいですよ。なんの生産性も無い愚かな行為だと言っていました」
「ぐ、ぐぅぅ貴様ぁぁ~~~ッ!!」
悉く意見が潰されていくオージャスが、顔を真っ赤にして怒り狂う。国王を決める戦いの前に、国民達の前で馬鹿にされているのだ。気が気ではない。
「では貴様はどうなのだッ!!貴様はこの国で何をやると言うのだッ!!!」
「沢山やってくれてるよな?」
「……なんだと?」
答えはフォルナからではなく、後ろで自分達を見ていた国民達から返ってきた。
「陛下は我々の生活を一早く良くしようといつだって考えてくれていた」
「畑の拡大にだって手を貸してくれたぜ」
「親の居ない子供達の為に、教会を増築し孤児院にしてくれたわ」
「国が富むようにいつだって意見をぶつけてくれたぜッ!どれも面白かったよな!!」
「陛下が居なければ、俺達は前に進めなかったッ!!」
続々と聞こえて来る声。全てがフォルナの実績によって生まれた声だ。そこに力は必要とされていなかった。そこには平和への歩みだけがあった。血を望む声は1つとして無かった。
「ふざけるな腰抜け共!!それでも誇り高き獣人かッ!!」
「うっせぇ若造ッ!!お前が誇りを語るなッ!!」
「な、なんだとッ?!」
声を荒げて消そうとするオージャスだが、国民達からの声援はどんどん高まるばかりで、その圧に逆に押されてしまった。
「皆さん」
そして、フォルナの一声が喧騒を消す。優しい表情で、国民達の顔を見た。
「ありがとう。本当に、本当に嬉しいです。けど、私1人では決して出来はしなかったんです。そのどれもが、皆さんが力を貸してくれたから成し遂げられたんです。それを私の実績と言い張る事は出来ません。だからこそ、私は今回の決闘は、ある意味で良い切っ掛けになったと思っています。確かに、獣人の王になる者が非力では偉大な過去の王達に申し訳が立ちませんから」
密かに騒めく国民達だが、フォルナは拳を挙げて宣言した。
「だから今日、私がこの国を引っ張る王だと証明してみせますッ!!!!!」
そこに居たのは、決意と覚悟を持った者の顔をした女王の姿。湧き上がる称賛の嵐が巻き起こり、フォルナはそこでセニャルに合図をした。
『ではこの国の未来を決めましょう!!過去への清算かッ!未来への希望かッ!!決闘、開始ぃぃぃぃッッ!!!!!』
「八つ裂きにしてやる」
「貴方に勝ちます」
国王を決める戦いが始まった……
現在のフォルナのステータス
フォルナ(8) Lv.312
種族:狐人
HP 2784/2784
MP 4015/4015
AK 1573
DF 1477
MAK 2300
MDF 2622
INT 800
SPD 3875
【固有スキル】狐火 学習
スキル:剣術(B-)料理(D-)