第79話 74日目~88日目 違う意味で育った
2週間が過ぎ、あれからフォルナはレベル上げとそれを慣らす為の模擬戦を延々と繰り返していた。最初の1週間で魔物にも慣れたのか、弱い魔物に遭遇すれば自分から倒しにいける程度になったのは驚きかな。
模擬戦の方は思いの他剣の才能があったようで、アリーナに3本に1本は魔法無しの戦いで勝てるようになっていた。大進歩だと思うよ。
「いやいや、フォルナ本当に落ちこぼれだったの?普通そんな簡単にスキルって上がらないと思うんだけど?」
「えっと……レベル上げして身体が動くからじゃないかな?」
ああ、そういう考え方もあるのか。まぁ普通はレベルに合わせてスキルだって洗練して上がっていくものだもんね。
「けど、今のレベル的にはまだ足りないね。ステータスが上がらないことには勝負の土俵にも立てないし」
「ん~~子供の身体が恨めしいよぉ~~~~」
今のレベルが150くらいだけど、これでようやくステータスがオージャスの3分の1ぐらいだった。多分歳を重ねて行けば、それに合わせてステータスも増加していくんだろうけど、今はそれが出来ないだけにもどかしい。
「焦る気持ちも分かるけど、出来ることをしていかないとね。フォルナ、ステータスの平均値も上がってきたし、今日から模擬戦に狐火を混ぜ合わせて戦おう。戦い方一つで戦況は案外ひっくり返るもんだよ」
「う、うん!!」
ということで、今日も今日とて訓練に励む。2日に1回は近くの湖で水浴びもしてるし、ご飯も精力の上がる物を食べているから、子供ながらにフォルナの身体も育っていた。将来は凄いプロポーションになるんじゃないかな。実に楽しみだよ私は。
「それじゃあいってみようか。どこからでも掛かってきなさいな」
「はいッ!!」
フォルナの現在のスキル欄には剣術がDとあるが、最初から無かったスキルだと考えると、かなりの進歩である。
だがその程度じゃ私は動かせないので、フォルナはよく搦め手を使うようになっていた。フェイントを入れてみたり、砂で目潰しをしようとしたり、剣を投げてみたり、とにかくあらゆる手を使うのだ。
そして今回、そこにフォルナだけの魔法が加わると、
「吃驚したねまったく。あんなえげつない戦い方よく思いついたと感心するけどさ」
「それでもアイドリーには通じなかったし……」
「いや、私以外にやったら効果あると思うよ?トラウマ的な意味で」
フォルナは私を驚かせるような戦い方をして見せたけど、うん、魔法有りだと私に勝つのは非常に難しいからしょうがないね。けどこれを本番でやれば、間違いなくオージャスは崩れるだろうから、フォルナにも勝ちの眼が見えて来た。他にも色んな戦い方をしてみせたし、手札が多いのに越したことはない。
「日頃の頑張りをこんな所でも発揮するとはの。フォルナは軍の指揮にも向いておると思うぞ?相手の嫌な作戦をどんどん思いつきそうじゃ」
「そ、そうかな?」
「フォルナすご~い♪」
「……えへへ」
2人に頭を撫でられご満悦っすね。しかし本当に、この様子なら何とか間に合いそうで安心したよ。フォルナがそれだけしっかり付いてきてくれたっていうのが大きいからね。王の責任半端ないわ。
それから1週間は3日半ずつに別けて前半を模擬戦、後半をレベル上げに費やした。その理由としては、フォルナの戦法が魔物に効くかの確認をする為に技術の向上を目指したのと、フォルナが1人で勝てる相手のレベルを上げていく為である。
『狐火』の使い方は4人で幾度も試行錯誤し、その度に試しては洗練させていき、フォルナは強くなる喜びを覚えたようで、レベル上げにもより力を入れていった。
それでも夜にはまた国をどのように良くしていくかの議論が繰り広げられているので、彼女はやはり王としての器はあると思う。
それで驚いたのだけど、なんとフォルナ、身長が伸びた。具体的には私より多少低いくらい。しかも何故か胸も急激に育った。ロリ巨乳である。動く度に揺れるのである。ヤバいよ、見過ぎて初めて頭に良いのを1本貰っちゃったからね。
「な、なんでこんなことに……メーウになんて説明すれば良いかな?」
「そのまま説明すれば良いと思うよ?」
多分愛が溢れて止まらなくなるだろうしね。水浴びした時とか男じゃないのに前屈みになりそうになったよ。オタク文化はある程度知ってたけど、これは冗談じゃなく萌えるわ。
「あの二つの兵器がアリーナに付いたら私は多分浄化されるだろうな」
「邪心がもっと芽生えるだけじゃと我は思うぞ」
「ぽよぽよ?」
ということもあって、更に1週間が過ぎて行った。色々と楽しかったね。最後には喜々としてワイバーンを血祭りしたりドラゴンを単体で倒せるようになったから、もう大丈夫だと私も太鼓判を押した。
『というか、魔物を倒す時だけスイッチが入るようになったのは主のせいじゃろ』
『私も怖かったから言わないで……』
こう、高笑いが止まらないんだよね。ひたすらに。眼が愉悦を含んでいて、思わず跪いてしまいそうな雰囲気を醸し出すんだよね。ごめんメーウさん、多分育て方をちょっと間違えたけど許してね。普段は貴方の愛したフォルナだから。
決戦前夜。私達が久しぶりにラダリアに帰ってくると。広場の方が何やら騒がしいので行ってみた。念の為フォルナにもフードを被せて向かうと、
「諸君、私達は何の為にこの数年奴隷として耐えてきたのだ。我々がすることは、果たして過去を忘れて安定の世で泣き寝入りをすることか?否だッ!我々を束縛し、尊厳を踏みにじった奴等人間共に思い知らせるべきだッ!!!その為には今の指導者ではあまりに軟弱者である。これではまた人間共に支配されかねんと皆は思う筈だッ!!!」
「うーわ」
「ひっどいの」
「あの狼さん嫌いッ!」
なんとオージャス、こちらの眼を盗んでネガティブキャンペーンを行っていた。勝手に広場を一族で占拠した挙句、『強く雄々しいオージャスこそ新たな王に相応しい』と書かれている旗を掲げていた。オージャスが言葉を掛ける度に、周囲の狼達が呼応していて、何となくでも足を止めてその演説を聞く人達が結構居た。
今ではラダリアも当初の人数より国が出来てから入ってきた人数の方が多い。下手をすると彼側に付いてしまう人も居ることだろう。
「その証拠に、第三王女はこの1ヶ月我々のこの演説に一度として反論を述べず、城に閉じこもったままではないか。それは、国民に対して後ろめたいことがあるからだ。奴はガルアニアに屈し属国の道を選んだ売国奴に違いないッ!!このままでは我等の尊厳は無いのも同じであるッ!!」
全然そんなことは無いんだけどね。どっちかと言えばレブナント鉱石の採掘場がある時点でラダリアはちょっとしたお金持ちになれると思うよ?ガルアニアの方が頭下げるレベルだし。アリーナに借金もあるしね。
しかしフォルナは心配そうな顔でそれを見ていた。眉を八の字にして私を見る。
「どうしようアイドリー。国民がみ、皆んなオージャスに付いちゃうよ…」
「え?…いやいや。全くその心配は無いと思うよ?」
「ど、どうして?」
「あれは、明日の決闘で自分が確実に勝つと思ってるからこそ出来るんだよ。付いていく連中だってそうでしょ?じゃなきゃ今言った言葉は全て虚言と一緒だし」
結局そこに行き着くのだ。なので私は一切心配をしていない。だから早く城に帰ろうとフォルナの背中を押していった。
「おお、フォルナ様ッ!!……そ、そのお姿は?」
フォルナは自らの姿を見られて恥ずかしそうに身体をくねる。メーウさん必死に鼻を抑えてその姿を視界に収めていた。まぁ、一応事前に私が伝えておいたしね。心の準備はしてたんだろう。
「え、えっとねメーウ。鍛えていたらこうなっちゃって……」
「い、いえッ!よろしいのでございますとも。ただ、そう、更に見目麗しゅうなられまして、私も嬉しく思います……」
「そ、そう?良かったッ!!」
「……」
ああ、うん。そんな怒って良いのかお礼を言うべきなのか分からない顔向けないでよ。私だってどうしてこうなったって感じなんだから。メーウは気を取り直して、私達に風呂に入るよう言った。そういえばずっと水浴びだったしね。久々にお湯に浸かりたい。
「ああそういえば、広場でやってるオージャスのはいつから?」
「皆様が行かれたその日からです。飽きもせず毎日言葉を変えて今のラダリアを否定し、国民を味方にしようと躍起になっておりました」
毎日やっていたのか。暇なら働いて欲しいんだけど……
「最初からこの国に居た獣人達は皆フォルナ様を支持しているのですが。それ以外では奴に付いた獣人も多く居たようです。なにぶん獣人の中には血気盛んな種族もありますからな。どうにも……」
「良いのメーウ。それはなんとなく分かっていたから。大丈夫、私が明日勝てば、その人達もきっと分かってくれるわ。私はそう信じてる」
「フォルナ様……」
「だって、国を憂う気持ちは皆一緒の筈だもの」
フォルナの言葉に、メーウは「全く…その通りでございます」と深々と頭を下げた。なんだか落ち着きも板に付いたなぁ。まぁゴミ掃除はこっちで適当にやるから、フォルナはその気持ちのまま王様になって欲しいかな。
『明日、もし変な真似しそうな奴が出たら即対処しよう』
『任せよ。塵も残さぬ』
『ぼうえ〜い』
折角のνフォルナのお披露目会なのだ。横槍なんて絶対阻止だよ。
「「「あぁ~~~~♪」」」
久しぶりのお風呂は最高だったよ。お風呂の中で浮かぶフォルナの浮袋も最高だったよ。