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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第六章 作ろう獣人の国
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第77話 58日目 引き下がれない意志

 1ヶ月が立つと、ガルアニアが治めている全領土が続々と獣人達が集まり始めていた。私は一応1日1回は門を潜って来る獣人達を門の上から3人で眺めていたが、皆一様に故郷と瓜二つの国を見て涙を流して喜んでいた。家が変わらず同じ場所にあって家具も揃っているのだから、両手を挙げて喜ぶ様は見ていてほのぼのとする。


 ただ、シエロの差し金なんだろうけど、帰ってきた人達の家全てに妖精教の勧誘チラシが置いてあって、皆迷わず入信していくんだよね。流石に経典のことがあるから最早止めないけど、私の不安は鰻登りなんだよね。



「もう顔出して歩けないなぁ~」

「ある意味自業自得だからのう、諦める他あるまい。我とて隠蔽のイヤリングを外してドラゴンの姿になれば、シエロに崇められてしまうしのぉ……」

「2人揃って有名人~♪」


 アリーナも王都の方じゃかなりの有名人だけどね……しかし人が集まってきたからか、フォルナも一気に忙しくなってしまった。日がな1日謁見やら視察やら。最近では工場の再稼働を目指してるとかで、その知識を一生懸命勉強している。驚いたことに、彼等は鉄の加工技術が非常に高いのだ。だから工場も機械式で効率が良い。


 一応担当者がそれぞれにちゃんと居るんだけど、フォルナは張り切ってるようで、どんな分野にも顔を出す働き者だ。もっとどっしり構えてても誰も文句言わないのに……



「研究所の方も復興したし、そろそろダンジョンにも行かないとね」

「大忙しじゃな主よ。この前なんぞ鉱山を掘り当てたばかりじゃろうに。あれで満足せんのか?」

「魔道具っていう響きがあるとどうしてもね。ダンジョンは普通に行ってみたいし、アリーナも行きたいでしょ?」

「もっちもちっ!!」


 実は1週間前にレブナント鉱石をなんとか入手出来ないかと持ち掛けられたので、妖精魔法を使ってダウジングしたんだよね。



 普通にするんじゃつまんないからアンテナ代わりにアリーナを頭に乗せて。



 すると隣接している森の入り口付近の地下から反応があったのだから驚いた。威力に任せた魔法で掘削してみると、見事に土に覆われた超大な岩山があることが分かった。どうやら此処は昔山だったみたいで、皆盲点だと笑っていたね。


「ここらへんの地形って昔はどうだったか分からないの?」

「無理言うな主よ。こんな辺境に好んで来る訳なかろうが。大地の変わり目など早くても数千年に一度じゃろうしな」


 まぁそうだよねぇ。そうそう崩れないって判断も出来て、あそこからどんどんレブナント鉱石が今も採掘されている。長期的に見れば、もうこの国の財政にほとんど問題は無いだろう。まだまだ人が少ないからだけどね。


「問題は、あっちの方だよねぇ……」

「そろそろ行かねばならんが、どうする?」

「もうそんな時間か。じゃあ行こうか。ほらアリーナ行くよ~」

「ほれゆくぞ~」

「あい~~」

 

 さて、遡ること1ヶ月前の話をしよう。

 



 人が増えたことにより、城に勤めていた人達も少しずつだけど帰ってきたんだよね。その中には多くの兵士や文官、交渉に長けた外交官の人も居て回り始めていた。ハバルとの連携の目処も立ってたんだよね。





 そんなある日、私が謁見の間にてフォルナから相談を受けている時、遂に恐れていた存在が来てしまった。



「何故その玉座に小娘が座っているのだッ!!」

「え、あ、貴方は狼族の……族長セスの息子ですね?」

「そうだともッ!!そして俺がその座を受け継ぎ、族長となったオージャスだ!!」



 現れたのは、種族長の血筋を受け継ぐ者だった。自信の表れか、後ろの尻尾がブンブンしている。うーんこれはまた。お兄さんが少女を恫喝しているように見える筈なんだけど、尻尾の所為で間抜けに見えてしまう。





「王は部族長全員の賛成があって初めてなれる筈だ!!少なくとも私は納得していない!!」

「それが狼族の総意なのですか?」

「そうだとも。しかも今の王族は小娘のお前1人。これでは国の存続は難しいと思わないか?明確な指導者が必要だと思わないのか?」


 フォルナは理解した。この種族は王族に成り代わりたいのだと。ただ、ここまで直接的な物言いは無いにしろ、遠回しな催促をしてくることはあったのだ。だがこの男は完全にこちらを舐め切っていた。


 昔のフォルナをいつも馬鹿にしていた種族だとはフォルナも理解していただけに、その顔には明確な拒絶を持って答える。



「残念ですが、このラダリアは過去のラダリアとは違います。全ての体制が捨て去られ、新しい道を歩み始めているのです。私も今自分が果たせる責務を全うし、国民と一緒に進んでいる最中ですから、そういった話はもう10年後にして頂けると助かります。少なくとも全ての種族が集まり、この国の地盤が完璧に固まったと判断されるまではこの座を降りるという無責任を犯すことは出来ません。申し出は最もですが、今回はお下がり下さい。継承権など私にとってはどうでも良いのですが、動ける王でないと今この国は危ないのです」


「……あ、あ?」



 矢継ぎ早に放たれた言葉にオージャスは二の句を告げなくなった。本人の頭の中では、フォルナが怯え震えているところを尻を蹴り上げ、王城から追い出し改めて王を名乗る予定だったのだ。


 周囲の家臣もこんな小娘を慕っている筈もないと高を括っていたのだが、実際はフォルナと同じく冷たい目をこちらに向けていたので、逆にこちらがタジタジとなる。


「それでねアイドリー。観光地という考え方はとても素晴らしいと思って、どうしたらこの国の良さを人間の皆さんに知って貰えるのかの模索を……」

「あー…やっぱりこの国で一番観光に向いてるのは『温泉』じゃないかな?地下に源泉あったし、一部を改装して温泉街にしようよ。何か特産品とかも作って、お土産にすれば人も来ると思うよ?」


 そんなオージャスの反抗的な目もくれず、アイドリーに国の一部を観光地化するという案を相談し始めてしまうフォルナ。アイドリーも苦笑いしながらもその話に付き合った。




「お、おい……」

 無視、フォルナは言葉を続ける。



「なるほど……ガルアニアにあったアスバニの滝と違って、付加価値を見える形にしてお得感を出すんだね?」



「俺を無視するなこら!!」

 無視、アイドリーは更に提案を重ねる。



「そうそう、温泉には色んな効能があるから、それを売りにしても良いかな。シエロに頼んで源泉の質を神眼で見れば分かると思う」



「聞いているのか貴様等ッ!」

 無視。彼の言葉はフォルナに届かない。



「わかった。後で教会の方に使いを出して頼んでみる。アイドリーありがとう」

「どういたしまして」

「こっちを見ろ!!俺を無視するな無礼者どもが!!!俺は狼族族長のおーじゃ「ねぇ」ッ!?」


 アイドリーはいい加減耳障りだったのか。不機嫌な顔でオージャスを睨み付けた。妖精教の紙を破り捨てたオージャスには、彼女が何者かが分からなかった為、ただの部外者だと判断していたが、発せられる威圧で身体中の毛が逆立って動きが止まってしまう。


「貴方はフォルナが国内でなんて言われているか知ってるの?」

「な、なんだと?そんなもの『弱虫』や『腰巾着』とかそういう渾名だろうが、その小娘は」

「『勇気のフォルナ』だよ」

「……?」


 言葉の意味が理解出来ないのか、オージャスは眉間に皺を寄せて首を傾げてしまった。アイドリーはフォルナの頭を撫でながら言う。



「何事にも挑戦し、あらゆる問題に恐れず立ち向かっていく。知らなければ迷わず教えを請い、出来なければ何度でも違う道を探して解決に導く。フォルナは国が出来上がって以来、国民とこれ以上無いぐらい親密に、真摯に向き合ってきたんだ。そんな彼女が初めて評価され付けられた名だよ。戦争や決闘に赴くだけが勇気じゃない。人々の幸せを願って動き続けるフォルナを皆が認めたんだ。王としてね」



 アイドリーは努力をする女の子の味方である。これがもしも駄王と呼ばれるぐらい馬鹿な王としてやっていれば同意していたかもしれないが、フォルナはどこまでも純粋な願いの下に動いていたのだ。


 それを知らずに馬鹿にする者に容赦など無かった。



「それで、それを貴方は横から掻っ攫おうとしている訳なんだけど。まさか自分が建国していない国の王になれると本気で思っているの?今この国で、部族長なんてものは何の権力も無い一般市民程度の扱いしかされてないのに?」


 昔のラダリアでは部族長達は人間でいう貴族と同じ扱いだった。しかし戦争によって全ての部族長が死に、その継承権は宙ぶらりんになっている。

 そして各分野の利権はそれぞれの部族長が握っていたが、それも今は全てフォルナ1人で管理している。勿論手助けもあるが、それでもちゃん回っていたのだ。



「今必要なのは椅子に座ってふんぞり返るだけの『権力を振りかざす馬鹿』じゃなくて、未来を見て動いていく『意志を持った人材』なの。おままごとがしたいなら部族の中だけでやって欲しいんだけど」

「ぐぅぅぅ~~~~~~ッ!!」



 最後の言葉による一閃が、オージャスを完全粉砕した。メーウが「あれは私でも辛いですな……」とフォルナに耳打ちしていたが、「あれくらいで良いと思う」とフォルナは嬉しそうだった。




「……決闘だ」

「はい?」




 オージャスの呟きにアイドリーが聞き返すと、彼はニヤリと口を歪ませてフォルナを指差す。旧ラダリアでやっていればその場で首落としだ。


「王族の譲り渡しの件は分かった……だが、獣人の『伝統』自体に変わりは無い筈だ。まさかそれまで変えてはいまい?」


『伝統』という言葉に、フォルナはしまったと顔を歪ませる。


「どういうこと?」

「……獣人には古来から『伝統』があります。これは大昔の全ての種族が定め、今現在まで伝えられているんです。その1つに『決闘』の項目があります」


 そこからはメーウが説明を受け持った。


「決闘は獣人にとって最も神聖な伝統の1つ。種族間での争いを早期終結する為の手段としてあったと言われていまして、必ず代表者同士が行うことになっております。勝敗が決した場合、一つ要求を呑ませるというルールで……」

(なるほど、最初から狙いはそっちか……)


 オージャスとて、無策ではなかったということに舌打ちするアイドリー。この男は、こともあろうにいたいけな少女に決闘で勝敗を決めようと言うのだ。


「そんなの国民が許すの?」

「今までにもそういったことはありました。しかし今回は間違いなくフォルナ様は最年少でしょう。それでも伝統を曲げることは獣人という存在の否定に繋がってしまいます。それに過去にフォルナ様の先祖が悪政を敷いた王に決闘を挑み勝利され、今の地位に収まったという歴史もありまして……」

「代理は?」

「……不可能です」


 それは困った、と誰もが思う。確かにフォルナは国の代表者ではあるが、戦う力など皆無である。しかもこのオージャスという男。並みの冒険者よりも強かったのだ。



オージャス(25) Lv.141

種族:狼人


HP 3544/3544

MP 1075/1075

AK   2874

DF   3200

MAK  971

MDF  722

INT   70

SPD   6544


スキル:爪術(A)四属性魔法(C)縮地(B+)固毛(C-)


 ガルアニアの王国騎士団で言えば上から数えた方が早い程の強さだった。技量で言えばアビルに匹敵する強さだろう。


「どうする?断ればお前は伝統を蔑ろにする背徳者だ。そうなればどちらにしろ国民からの支持など容易に地を落ちる。獣人はやはり力あってこその種族だからな。だが俺も鬼じゃない。張り合いがなければつまらないからな。準備期間として1ヶ月の猶予を与えてやるが、どうだ?」


 フォルナは迷った。自分ではまずこの男には勝てない。獣人の伝統をよく知っている自分にしてみれば、それを断るという選択肢などなかった。それに、弱いだけの自分は捨て去ると既に決まっている。


「わかりました。受けます」

「フォルナ様ッ!!そのような!!」

「黙れッ!!小娘に尻尾を振った羊族が出しゃばるなッ!!……言質は取った。1ヶ月後にまた会おう!!!」


 オージャスは高笑いと供に城を去って行った。



「……どうしよう、アイドリー」

「いや、どうしようって、何か考えがあるから受けたんじゃないの?」

「ないけど……受けなきゃならないから……」


 フォルナは疲れた往年の人みたいな顔をしてしまっていた。まぁ獣人のことについてはまだそこまでよく知らないけど、私が口を出せることじゃないもんねそこらへんは。まったく、この忙しい時期にあんな馬鹿が現れるとはね。どこの世界でも偉い人は皆要らないしがらみに憑りつかれているようだ。


「しょうがない。フォルナ、辛いけど勝てる必勝法があるからやる?1ヶ月なら余裕で間に合う代わりにかなり怖い目に遭うけど」

「うっ……する、よ。するもん!!あんな脳みそ筋肉に負けないもん!!」

「君も言うようになったね」


 反骨精神があって非常によろしい。ああけどメーウさん良いの?って目を向けたら既に頭下げてたわ。お願いしますってことね。任されたよ。

 じゃあ今回はアリーナとシグルの戦力上げの方法を同時にやっていこうか。丁度少し行ったところに強い魔物はわんさか出て来るしね。



「明日からドラゴン狩り開始かなぁ」

「え、我狩られる?」

「とりあえずフォルナ、道具は全部こっちで用意するから動き易い服装で来て?」

「う、うんッ!」(尻尾をブンブン振り回す)

(あ、これ専用装備で来るなきっと……)


 密かに冒険者に憧れていたみたいです。

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