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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第六章 作ろう獣人の国
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閑話・6 クマ獣人マーブルの驚愕

 こんにちわ、ガルアニア王都の冒険者ギルドで働いていたマーブルと申します。数年前に奴隷だったところを職員不足ということで拾って頂きました。けど今はギルド長の命令で、地方の新しく出来る国に左遷させられました。こんちくしょうです。


 そして現在仕事を持っていた他の獣人達と一緒に馬車に揺られています。



「ギルド長は絶対に行った方が君の為になるとか言ってたけど……絶対厄介払いだよ……」


 私は仕事してて全然分からなったけど、何か奴隷だった同胞達は皆その国で一からやり直すって話になってて、けど私もう奴隷の扱いじゃ無くなってたし、やっと周りの職員さんとも話せるようになって仕事も楽しくなってきたのに……




「ねぇ、聞いた?」


 そんな風に意気消沈してたら、他の場所で働いてた子が話掛けて来た。この子は機織りの仕事をしてたらしいです。

「どうしたの?」

「何でも、今から行く国って私達の故郷に似てるんだって。さっき定期馬車の人が言ってたの」


 そうなんですか?けど、獣人ばかりが居るって話だし、皆ラダリアが好きだったから似て来るのは普通だと思うんだけど……というか、1週間遅れで着くんだからまだ街にすらなってないと思う。







「「……」」


 朝、ゆるやかな夢から目覚め、着いたらしいので馬車から出て見れば、私達は夢を見たままでした。おかしいですね、頬を抓っても覚めません。どうしてこんな地方にちゃんとした国があるのでしょうか?というかラダリアそのものなのですがどういうことなのでしょうか?



 ……え?嘘?本当に?



 手続きをして中に入ると、門の前で何故か王女様が何人かの兵士を連れて笑顔で私達を迎えてくれていました。やっぱり夢ですね。第三王女様は夢なのにちゃんと私達にお話をしてくれたんですもん。不思議です。



「皆さん、ガルアニアからの旅路ご苦労様でした。そしてお勤め先が変わってしまった事をお詫びいたします。しかしこの国は昔のラダリアそのものですから、皆さんの昔の家もちゃんとありますよ。昔住んでいた場所はそのままなので、どうぞそのまま御住み下さい。家の確認が終わったら、城に来て頂いて区画と職業の登録を。お子さんがいらっしゃるなら種族と名前も教えて下さいね」



 数分、王女様の話を理解するのに時間を要しました。そして、今一度自分の頬を抓ります。涙が出る程抓ります。門を見た瞬間から涙が出てましたがそれでも抓ります。超痛いです。痛いから嬉しいのです。何で国があるのかとか、どうして家があるのかとかどうでも良いです。


 私達は走り出しました。ちょっと地形とか道は変わってたけど、大まかな場所は昔から変わっていませんでした。足が懐かしき土地を踏む度にどんどん速くなってしまいます。



 そしてあったのです。数年前と変わりなく、私の住んでいた家がそのままに。私は形見の代わりに持っていた家の鍵でドアを開け、リビングに突入しました。



「……家だ。本当に…わた、し……の…」


 私が引っ掻いた壁の傷も、お母さんお父さんと食べたあの机も、皆で語らったあのソファーも、全部そのままでした。それだけが、ありました。


 トントントントン

「ッ!?」


 不意に聞こえて来た2階から降りて来る足音。いつも聞いていたリズムの音を忘れる筈もなく。その足音の主が、私の居る部屋に顔を見せました。



「……マーブル…よね?」

「……はい、おかあ、さん……おがぁさぁぁーーんッ!!」

「マーブルッ!!」



 母親の香りは、奴隷として別れてから数年経っても些かも変わりなく、私にあらゆる幸福を齎しました。年甲斐もなく涙を流しますが、知ったことではありません。お母さんも私を力強く抱き締めてくれました。

「ああ、本当にまた会えるなんて……」

「そうね、私もそう思うわ。マーブル、お父さんもちゃんと帰って来ているのよ?」

「ほんとッ!?」


 更に嬉しい知らせです。お父さんは魔道具工場で今は施設の稼働検査をやっているのだとか。奴隷になった時凄く悔しそうに工場を後にしてましたから、またその仕事に就けたって大はしゃぎしていたそうです。

「貴方は確か冒険者ギルドの職員だったわね。ちゃんとやれてた?」

「うん、皆良くしてくれたから。私頑張れたよッ!!」

「そう……偉かったわね……」


 優しく頭を撫でてくれました。耳と尻尾が嬉しさを隠してくれません。


「そういえばお母さん。どうしてラダリアがこんな所にあるの?消えてなくなっちゃったて聞いてたのに」

「それは……そうね、何て言えば良いのかしら。一言で言えば、この国は神様が創って下さったのよ」

「……え?」


 いきなりの単語に驚きを隠せませんでした。お母さんは確か宗教には興味が無い人だった筈なのですが。そしたら、1枚のビラと何かのルールが書かれた紙を私に渡してきました。



『妖精教入信歓迎。ラダリアを再建せし創造神『アイドリー』に信仰し、全ての生活の中に『ノリ』を取り入れましょう。貴方の未来が、より良く明るくなります。寄付金もノリで』



 私はこの名前を知っていました。というか仕事をサボって武闘会まで見に行ったので直接目にしています。ビラに描かれた神様の簡単な特徴が、全て一致してますし。けど同時に納得してしまいました。武闘会で勇者に勝つ程の腕前に。不思議な魔法ばかり使っていたのですから、神の如き御業だと言われても納得出来てしまいます。


「お母さんも入信しているの?」

「そうなのよ。お母さんの目の前でラダリアが復活していく光景を見せられちゃって。それで神様と言われればどうしたって信仰したくなるじゃない?それに『妖精』ってよく分からないけどとても愛らしい姿をしてたのよ。何も求めて来ないし、何だか面白くて入ってしまったわ」

「確かに怪しい事は何1つ無いみたいだね……よし、私も入信するよッ!」

「あら、だったら教会行く?」

「うんッ!」



 教会に案内されると、入り口の前では1人のとても綺麗な人間さんが獣人達の前で教義を行っていました。私達もそれを聞いてみようと近付いてみます。



「皆さん。神は人々の笑顔が大好きなのです。なので日々を慈しみ、子供を一度はくすぐり、友にネタを振りなさい。子供達は日々の喜びを家族と分かち合い、家族団欒を目指しなさい。そして仲間同士で喧嘩になってしまったなら、迷わず殴り合い、分かち合うのです。朝日が出るまで殴り合い、朝日を見て笑い合うのです。神がそれをお望みなのです………ノリで」


(全部ノリなんですかッ!?)



 凄いぶっ飛んだこと言ってますね。お母さんはウンウンと頷いおりますが、私は頷けませんでした。だって何か神様っていうより冒険者のあんちゃんが言うような内容なんですもん。神様熱血過ぎますよ特に後半。



「お、面白い宗教だね」

「そうよねぇ。けどちゃんと教会では孤児院の運営もやっているし、変なことは何もしないのよね。ただ、ノリを一番大事にして生きて欲しいと言われるだけで」

「そうなんだ……良い、のかな?」

「前の勇者教に比べれば良いと思うわ。あっちは何かと堅苦しい言い方が多かったし、悪いことでは無いのだけど、妄信的な教義が多かったから」


 確かに。こっちの方が気楽に信仰出来る分楽なのは確かですね。しかも実在している人物ですし。


「神様本人は何も求めず、人々が幸せで笑顔で日々を暮らしてくれるなら他に何も要らないと豪語なさってるし、実際に寄付金は全部孤児院に回っているそうよ。そういうところも全部オープンだったわ。まぁまだ教会がこの国にしか無いというのもあるけど」


 アットホームなんですね。ルールの紙の内容を鑑みれば、神様は目立つのが恥ずかしいから偶像崇拝も止めて欲しいっていう謙虚さもあります。正直好感が持てました。



 暫くして教義が終わり、みんな面白かったのかクスクスと思い出し笑いをしながら帰っていきました。あの教義も全部神様が考えたものでしょうから、本当に変な神様だと思います。というか聞いてた人達は皆今日、私と一緒になって来た人達でした。


「さぁ、そろそろ市場の方に行くわ。貴方は城に行って住民登録してきなさいな」

「うん。それじゃあ家で……あ、待って」

「ん?」


 私は、市場に行こうとしたお母さんの手を思わず掴んでしまいました。今日1日で吃驚することが多々ありましたし、夢では無いと確信しているのですが……どうしても不安になってしまいました。


 それを分かっているのか、お母さんは私のほっぺを軽く引っ張ってきました。


「おはあはん?」

「今日は貴方の好きなの作ってあげるから、早く帰ってくるのよ?」

「……うん」


 私はお母さんと別れて城に向かいました。もう、心に不安はありません。







 しかし城にて、私は難いあんちくしょうに遭遇してしまったのです。王都のギルドで、優しい職員さん達に蜘蛛地獄を味合わせた悪魔と。


「あぁーーッ!!デスマーチ製造機さんですッ!!」

「そういうお主はチンチクリン職員ではないか。というかなんじゃその呼び名は……」

「ま、まさかこちらのギルドでも地獄を生み出そうなんて考えるんじゃありませんよねッ!!?」

「変なことを口走るんではないわ城の中でッ!!」

「城じゃ言えないようなことをするつもりですかッ!!??」

「何を言っておるんじゃお主はッ!!??」

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