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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第二章 冒険者になってみた
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第8話 発見、最初の人間と街

これから投稿は18・24時で固定したいと思いますので、よろしくお願いいたします。

「見つからなーい!」

「こんなに草原が広いとは思わなかったね……参ったなぁ」


 私達は未だ草原を抜けられてなかった。かれこれ丸2回太陽の昇り降りを繰り返しているのに、これは流石に危機を感じる。はてさて、どうしようか。やることが歩くだけだと暇になってくる。アリーナも肩の上でゴロゴロしてるし。あ、落ちた。


「しょうがない。最初からやるのもあれだったんだけど…」


 私は『妖精魔法』を使って魔力の感知を始めた。イメージは大きな半球を薄く広げていき、その中に入ったエネルギー……魔力の塊を感じるようにする。


「……よし、出来た。アリーナ、今日中に街に入ろう。もう少し頑張れそう?」

「ワイロもやむなし~?」

「はい、賄賂の糖玉」

「んふ~♪ ぜひもなひ~♪」


 しばらく走っていると、やっと感知の範囲に魔力の塊を感じた。とりあえずそちらに向かってみると、目的の足掛かりを見つける。


「お、人だ」

「ほんと!?」


 一気にいつものハイテンションガールに戻るアリーナ。私達って違う種族に会うの初めてだもんね。そりゃあテンションも上がるか。さてさて、指輪っかで単眼鏡宜しく『妖精魔法』でサイズアップしてみる、と。


「……あーでも、襲われてるねあれは」


 発見したこの世界初めての人間。目測100mぐらいの距離からだが魔物に囲われているのが見えた。荷馬車が一緒のところを見ると、商人かな?それにしては若い男だ。


 追っている魔物は……ベアウルフが6匹か。熊並みに大きい体躯の狼だから、威圧感はたっぷりだね。あのままだと確実に男が彼等の朝ご飯になるな。


「あ、アイドリー? アイドリ~?」


 それをハラハラしながら私に呼び掛けるアリーナ。分かってる分かってる。私もそうしたいと思ってたから安心して欲しい。


「見てるのもあれだし、助けて話聞いてみよっか。ね?」

「うん!」



 ということで、私はフードを被って走り出す。100m程度なら数歩で詰められる距離だ。数秒で荷馬車とベアウルフの間に割り込む事に成功。


 突然現れた私に、男は声を挙げて驚いた。


「え!? いつの間に!!? あ、冒険者かい!!?」

「違うけど、とりあえず助けるね」

「あ、ありがとう助かる!」


 私は向かって来るベアウルフに向かって四属性魔法を唱えた。


「吹き抜ける風よ、貫く槍となりて、我が敵を撃ち抜け!!」


 詠唱によって生まれた6本の槍が、高速で射出される。槍は真っ直ぐ飛ぶのではなく、読み難い軌道で迫り、見事に眉間を撃ち抜いていく。後方の最後の一匹だけがその槍を避け、こちらに飛び掛かってきた。

 他のベアウルフよりも若干身体が大きく、牙が長い。リーダーさんかな?



名無し(12) Lv.25


種族:ベアウルフ・リーダー


HP 245/245

MP 53/53

AK   128

DF   110

MAK  35

MDF  41

INT  13

SPD  220


スキル:俊足(D+)獣闘牙(C-)



 なるほど、スキルに俊足があるのか。スピードで翻弄するタイプだったみたいだけど、残念。それじゃあ私の攻撃は避けられないよ。


「ギャンっ!?」


 避けた筈の槍が、後ろから後頭部を撃ち抜いた事に疑問の絶叫を上げる。それでベアウルフ・リーダーは絶命した。なんてことはない。風の槍は軌道を変えて飛んだだけなのだから。



「もう大丈夫だよ」


 私は荷馬車の上に登っていた男に声を掛ける。男は恐る恐る顔を見せると、後ろで全滅しているベアウルフ達を見て笑顔になった。


「凄い、一人で倒してしまうなんて!! 冒険者じゃないって本当なのかい?」

「まず冒険者って何かな?」

「えっ!?」

「私は山奥の田舎から出てきたの。だから助けたお礼として色々教えて欲しい」


 男は数秒あっけらかんとした顔になった後、落ち着いた顔になって手を出してきた。


「わかった。お礼が情報なら僕でも役に立てる。僕は商人のパッド、よろしくね。ところで、どうして顔を隠しているんだい? 訳ありかな?」

「うん、よろしく。顔を隠してるのは容姿的に目立つのが苦手なの。だから触れないでくれると助かるかな」

「ん、わかったよ」


 私はその手を取って握手を交わす。物分かりも良いし好感触で知り合えた。最初の滑り出しとしては最高だね。というか、こんな感じで人と知り合うの初めてだ。何かゲームっぽくて楽しい。


 それからは荷馬車に乗って走りながら、私は彼の情報を受け取っていた。


「冒険者っていうのは、魔物を討伐したり迷宮を探索する人達のことを指すのさ。護衛や傭兵のような依頼もあるから、働くのには困らない職業だね。凄い人だと未開拓地に行ったりもするんだ」

「危ないけど身銭には困らないってことね。貴方のような商人は? 若い人でもなれるのかな?」

「そうだよ。冒険者もだけど、商人もギルドに権利を守られているからね。僕のような若者でも細々とやってられるのさ。どんな所にでも商売の”タネ”は転がってるってね。はは」

「なるほど」


 自虐気味に笑うパッドは、後ろの積み荷に手を入れて、覆われている布を少しだけ上げた。中には木箱がいくつも積み重なっている。


「これは?」

「野菜さ。近隣村からのね」


 木箱を開けると、私の知ってる野菜も知らない野菜も色取り取りと入っていた。なるほど、これが商品か。食材なら魔物にも襲われやすいだろうに。うん、良い香りだ。


(おいしそ~♪)

(後でお金手に入れたら買おっか?)

(あい~♪)


「どうしたの俯いて?」

「え? ああ何でもないないよ」

「というか、何で冒険者雇ってなかったの? 魔物に襲われたり盗賊が出たり、そういう可能性もあったと思うんだけど?」

「うっ……」


 パッドは静かに事情を話し始めた。いや、それを聞く必要私にあるのだろか?というのはこの際置いておこう。聞いたの私だし。


「元々冒険者に依頼を定期的に出してはいたんだ。この野菜も毎回全部売れてくれるしね。お金も余裕があったからそこそこ冒険者達も良いパーティを雇えてた。ただ最近、その冒険者達が違う依頼に駆り出されてて、こっちにめっきり来なくなってしまってね」

「それじゃあ他の商人も?」

「ああ、街から出られないって嘆いてるよ。ギルド長が今も領主に掛け合ってるんだけど、良い返事は貰えてないみたいでさ……僕のは生食だから、村の人達との契約もあって行かない訳には行かなかった。どっちにも生活があるしね。家族も食べさせなきゃならない」


 なるほどなぁ、これからその街に案内して貰おうかと思ってたけど、これはちょっと危ない空気かなぁ……まぁ一度は見ておかないとだし。パッドの様子を見る限り、外の人間にはあまり関係の無い話っぽいから良いよね?


「大変そうだなぁっという感じは分かったよ。で、本題なんだけど……ちょっと交渉」

「なんだい? 恩人だし、お金以外なら力になるけど」

「さっきのベアウルフあげるから、私とは出会わなかったことにして?」

「……はい?」


 何を言っているんだこの子は、みたいな顔をしてしまった。ちゃんと理由あるからね?


「貴方は、そう、誠実そうだ。だから私の存在を隠したい理由とかそういうのを何も言わず、聞かず、約束を守ってくれると初対面ながら信用することにした。っていう感じでいきたいの」

「あ、ああ……それは良いけど、つまりここから別行動ってことかい?」


「離れはするけど、どうせだから街に着くまでは護衛するよ。ただ、私は偶々後ろを歩いていた旅人で、貴方は村で偶々罠に掛かった魔物を持って街へ帰ってこれた商人っていう体でいきたい。私は身分を証明出来る物を持ってないし、貴方だってそれで兵士に怪しまれたくはないでしょ?」


 これは私の為でもある。ステータスも偽造しているし、アリーナの姿も見えないが、この世に絶対は無いのだ。一度怪しまれてしまったらそれがずっと続くことになる。巻き込まれる可能性も高くなる。リスクは極限までなるべく減らしたいというのが私の考えだ。

 

 ということでどうでしょうかアリーナさん。


「つまんない!!」

 一言で斬られたかぁ…けどアリーナ。安全は大事よ?

「だいじ?ならしゃあなし!!」

 華麗なる手のひら返し。流石です。


「ボソボソ言ってどうしたんだい?」

「ああ、ゴメンまたもやこっちの話。で、どうかな?」

「恩人の頼みだ。ベアウルフまで貰ってしまったら、断れないよ。ちょっと悲しいけどね。家で家族とおもてなしもしたかったし」


────キュピーンッ!!

「え!? 何か鳴った!?」


((おもてなし……人間世界の料理……))


 この瞬間、私達二人の心はシンクロする。


「追加要望」

「え? ん? あ、ああ」

「別れて街に入るけど、街の中で会っちゃいけないとは言ってない。だから、ご飯を御馳走してくれたらとっても嬉しく思う……どう?」


 その言葉に、パッドは喜色円満な顔を浮かべた。交渉は成立らしい。今度は私から手を差し伸べると、力強く握手を交わしてくれた。


「そうだ、聞きたいことがもう一つあったんだ」

「なんだい?」

「これから行く街に人間以外の人種って居る?」

「あ、ああ。勿論居るよ。けど、ほとんどは奴隷として扱われているけどね」

「………ぱーどぅん?」


 まさかまさか、そういう感じの世界なの?奴隷制度存在する感じなの?うわぁ……そういう感じの文化なのかぁ……


「あの、何でそんなに落ち込んでるんだい?」

「いや……ちょっとカルチャーショックを感じてるだけだから気にしないで。まぁいいや、後は自分で確認するよ。じゃ」


 そう言い残して、私は荷馬車から飛び降りた。



「しかし奴隷かぁ……そういう小説もあったけど。うーん……」

「どしたの?」

「んーいや、なんでもないよ。街、楽しみだね」

「うん!」


 今はアリーナで癒されよう……






 数時間後……


「やっと見えたね。感動……」

「おーでっかーい!!」


 目の前には高い門と、街を囲う壁。その前には幾つかの人が門兵の検査を受けながら街に入っていく様子が見えた。この分だとすぐに回ってきそうだ。


「はい次、身分証は?」


 私の番になると、一人の門兵が話し掛けて来る。義務感のありそうなキッチリした顔つきだ。


「山間の村から来たんだけど、身分証はこれから発行して貰うつもりなの」

「ほう、珍しいな。なら保証金を貰う必要があるが金はあるか? 銀貨3枚だが」

「うん、はいこれ」

「……随分古いな。まぁ良い」


 このお金は妖精郷を出る時テスタニカさんに貰った物だ。何でも旅に出ていた先代が残していった物らしい。誰も使わないお金だから、ほったらかしになっていたそうだ。そこまで多い金額でも無いので無闇に使えないが、自分で稼げるようになるまでは、ね。


「何で身分証を得るかは聞かないが、持ってくれば銀貨を返す事も出来る。覚えときな」

「ありがとう、必ず来るよ」

「どういたしまして。ようこそ、ハバルへ」



 初めての街。到達!!

「この野菜はなんていう名前なの?」

「ボルトコだよ?この国が産地なんだけど知らない?噛み応えがあって美味しいんだ」

「へぇ……こっちは?」

「ロトロだね。酸っぱ苦くて味のアクセントとかによく使われてるよ」

「……これ」

「リブルの実だよ。小さいけど甘くて瑞々しいのが特徴でね。偶に喉が焼ける

程辛いのが混ざってるんだけどね」


(異世界だなぁ……)

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