第76話 27日目 温泉は気持ちイイもの
「アイドリー様だ……」
「おお…アイドリー様……」
次の日、試しにアリーナ、レーベルと一緒に出掛けてみた。ん~良い場所だなぁラダリアって。国全体が巨大な森みたいなんだけど、空間がしっかり保護されてて眼に優しいんだよね。空気も妖精郷に似て美味しいし、国中が緑の絨毯なんだよね。近くにある巨大水車から聞こえる生活の音も素晴らしい。これは妖精達にも来て欲しい。
「ああ……なんて可愛らしい……」
「まるで女神様達だ……」
………うん。
「そろそろ現実逃避は止めても良いのではないか主よ?」
「おっとレーベルさん。私には何も聞こえてないから何を言っているのかまったくわからないなぁ~ははっ!!」
「いやしかしじゃなぁ……この視線はちと辛いのじゃ」
そりゃあね。私だって辛いけどね。お前等もうちょっと隠せって怒鳴りたいけどね。けどあの崇拝の眼差しを裏切る感じには行動出来ないよね。あーちくしょう。
そんな気持ちで居ると、ふとアリーナが手を握ってくる。
「アイドリー、妖精になろう?」
「……あー、その方がいっか。レーベル、私達消えるね」
「あっズルいぞ主達よ!?」
はい妖精になりました。妖精は見せようと思わなければ自動妖精魔法で消えるからね。後は2人でレーベルの被っていないフードの中から街並みを眺める仕事に勤めるのだ。
「ほら、レーベルGO~♪」
「ごー♪」
「まったく……」
暫く宛もなくレーベルは歩き続けた。一応ギルドの場所とか役場とか色々見て回ってみた。どこも建物はしっかりあったし特に問題も無かったけどね。
「お、あれは……」
1件の家を発見する。窓に幾つものカンバスが見えるのと、家の前に置かれた看板に『ルリビット絵画教室』と銘打たれていた。へぇ、絵の先生だったんだね。
「レーベル、あそこ行って」
「わかったわかった。だから耳を引っ張るでない」
玄関は閉まっていたので、裏に回ってみると、丁度何人もの子供や老人達に絵を教えているルビリットさんの姿が視界に入ってきた。凄いイキイキした顔してる。あれはまだまだ生きてそうだなぁ。
しばらくその光景を世界樹の蜜ジュースを3人で飲みながら眺めていた。皆絵が出来た者からルビリットさんに見せに行き、好評をしながらもアドバイスもしっかりされて嬉しそうに帰っていく。
そして最後に残ったのは1匹のウサミミ少女。女の子の前に置いてあるカンバスには、何の絵も描かれていなかった。
「どしたんだろうね?」
「行ってやったらどうじゃ?」
「よし、いっちょやったる」
アリーナと一緒にその少女の膝元まで飛んでいき、姿を現した。少女は眼を瞬かせて反射的に口を抑えた。大きな声を出したくなかったようだ。細長い耳だけがピコピコ動いている。明るい赤色の眼もウサギっぽい。
「よ、妖精さん?」
「そうそう、私はアイドリー、こっちは」
「アリーナ~♪」
「わ、私はラピスです」
はにかみながらアリーナの頭を撫でるラピス。間近で見た妖精に興味津々のようで。顔を緩めて可愛がる。アリーナもラピスの指をハモハモしたりとキャッキャと笑っていた。私?ラピスの兎毛に顔を擦り付けてたけど。素晴らしい肌触りでしたと言っておこう。
「さてラピス。私は偶々貴方を見つけたんだけど、何か困りごとかな?」
「え……えっと。描きたいものは決まってるんだけど。中々形に出来なくて…」
見るとカンバスは白紙という訳ではなく、何度も消された後のようで少し黒ずんでしまっていた。それに眼を向けたラピスは、また暗い表情になる。駄目だよ可愛い女の子がそんな顔しちゃね。
「よしアリーナ。私達でラピスを手伝ってあげよう」
「よっしゃっ♪」
「え、そ、そんな……」
「はい頭をちょっと失礼するよ~」
「きれいきれ~い♪」
私がラピスの頭の上に張り付き、アリーナにカンバスを妖精魔法を使って真っ白な状態にして貰う。さてさてこっちも『妖精魔法』発動。イメージは頭の中をクリアにしてより鮮明にする感じで。
「……わ、わ。凄い、どうなってるのこれ?」
「妖精さんの不思議パワーさ。さぁ、これで描いてごらん?」
「……うんっこれなら」
ついでに手も器用になるようにしておこう。器用にな~れ~器用にな~れ~将来綺麗なお姉さんにな~れ~
1時間後、そこには老人の兎獣人と少女の兎獣人が仲良く歩いている姿が描かれていた。どっちも後ろ姿だけど、横顔が笑顔の2人。手伝ったからかクオリティも高いな。
「ありがとう二人とも、私、これ見せてくるね!!おじいちゃん!!!」
居ても立っても居られなくなったのか、完成した絵を掴んでルビリットさんの下へ走るラピス。多分だけど、あれがルビリットさんの言っていたお孫さんなんだろうなぁ。
「おお、ラピス。待っておったよ。描いた物を見せておくれ」
「うん…これ」
おじいさんは信じられないという顔をしてラピスを見た。
「………これを、お前が描いたのかい?」
「私だけじゃないよ。妖精さんが手伝ってくれたのっ!」
ということでラピスさんの肩から登場しまーす。やぁおじいさん。充実した日々を送れるようになったみたいだね。
「お、お前さん……お嬢さんなのか。なるほど、ならこんな絵も頷ける。ラピス、良い絵を描けたな。というより、この絵を儂に見せる為に頑張ってくれたのじゃな……この前の奇跡といい、お世話になるのう……」
「フォルナの似顔絵で手を打つよ」
「おお、是非やらせてくれ。ついでにラピスとも友達になって貰おう」
「えぇ、フォルナ様と私が?」
それは非常に名案だね。フォルナには私から言っておくよ。そこにアリーナも加えておじいさんに絵を描いて貰おう。それは私の家宝にするので。
「本音を隠せ主よ。皆ドン引きじゃぞ」
さて、またレーベルに乗って歩いていると、今度は白い湯気が煙突から見える建物に到着した。え、マジで?銭湯やん。
「一般浴場ってあるんだね」
「ほう、皆で風呂とは豪華じゃな」
「アイドリーあれ~」
「ん?……ほぅ」
銭湯の前には何本かの旗が刺さっており、そこには『ラダリア名物ッ!!』と描かれていた。そういえばガルアニアにはなかったなああいうの。
考えてみれば、妖精って何故か知らないけど汚れないんだよね。代謝とかもしないし。汗とかは流すけど、ベタベタにならないしいつもフローラルな香りしかしない。香水要らずとか女ながらにすげぇとか思ってたよ。
「あれって城にもあるのかな?」
「あるよーレーベルと入ったぁー♪」
「……」
「おうこっち向こうかレーベル。詳しい話聞いてあげるよ」
はい、今夜は皆でお風呂に入ることにしました。フォルナとシエロと美香も呼んだら一発で来てくれた。何で皆緩んだ笑顔なん?
お風呂場は全体が白い壁に覆われており、全員が入っても泳げそうなぐらい広い湯舟だった。凄い、お湯出るところがライオンになっているよ。
本来なら湯気があって見え難いが、私には妖精魔法があるからね。例え頭が破裂してでも麗しい女達の姿をこの眼に焼き付ける所存である。ビーナスの彫刻を見るのと同じ気分だね。
「おー広いねフォルナの家の風呂」
「い、一応王様専用のだから……」
「皆でお風呂入るのって初めてです……」
「修学旅行が懐かしいよ……」
「ダイブっ♪」
「我もダイブっ」
「あー気持ち良いんじゃぁ~♪」というレーベルの声と「ふぃ~♪」とアリーナが背泳ぎでスイスイ泳いでいる姿を私は眼に収めながら身体を流す。あ~やっぱお湯良いわぁ。
「一般浴場も城も地下からの源泉を汲み上げてたんだけど、此処はラダリアとは違うし、どこから出てるんだろう?アイドリー知ってる?」
「え……さぁ?」
ああ、分からないのね。私も分からないんだけどさ。さて、お湯に入ってみると、乳白色だったことが分かる。わぁ~これは美肌トゥルットゥルだね。アリーナがトゥリーナになっちゃうね。きっとプルプルしているだろうからモチのようにコネコネしてあげよう。
さて、現在私はたわわチャレンジ成功しそうな3人と隣に入ってるフォルナの尻尾が私のお腹を撫でてるという事実に興奮を隠し切れない訳なんだけどさ。
「ふぉ、フォルナ……尻尾が、さ?」
「……」
返事は無いんだね。あ、ちょ、そっちは駄目よ?そこやられると私ヤバい声出ちゃうからね?
「ア~イ~ド~リ~~♪」
「はっはぁアリーナ。もう既に限界なんでそれ本当に、本当に駄目あ~やばいやばいやばい」
「ぎゅ~~ッ!」
そしたら前からアリーナがinしました。大好きホールドでアリーナのお腹と私のお腹にフォルナの尻尾が挟まれる。こ、これは……危ないやつだ!!ごめんなさい許してください!!
「あ、んんッ!」
「フォ、フォルナさんッ!?」
「んッ……」
「ぐほぉっ!」
尻尾の感触にアリーナまで悩ましい…声だと。駄目だ愛が爆発する。逃げなければ、
「どしたー主よ~風呂の中でもラブラブしとるのー♪」
なのに後ろから来たレーベルに埋もれました。湯の中で正座状態のレーベルに抱きかかえられてしまう。刺激が二つ増えたね。く、本気で逃げ出そうとすると危ないから身動きが取れない。
「く、レーベル離してっこら、くすぐろうとするひゃんっ!?」
「え、えへへ…えへへへへ……」
シエロが美人がしてはいけない顔しながら私の腰辺りに手を添えてくすぐってきやがったんだけど!?や、やめなさいこらっ、あひゅ、
「ふっふっふ…アイドリーちゃん……」
あ、ああ…美香が……美香が勇者なのに悪い顔してるッ!?何かを企んでいる顔をしているッ!!いや、私は信じてるよ。この天国と地獄の狭間から救い出してくれる気高き勇者であることをッ!!
「み、美香、勇者なら助けて!!私じゃこの包囲網は抜けられないッ!!」
……ニコッ
「み、美香…」
ガシっと、足裏を掴まれた。あ、やべっ
「ポンコツと呼ばれた恨みだよッ!!うりゃうりゃうりゃ~~~!!」
「あ~~~あははははははッ!!や、やめひぇ~~~~~ッッ!!」
美香の足裏への擽り攻撃である。復讐なんて勇者のやることじゃないよッ!!も、もう駄目……
「きゅぅ~……」
「「「あっ」」」
その後、妖精魔法で触手を作り出して出して全員くすぐり地獄の刑に処した。
「アリーナくすぐり超強いね…」
「にゅるにゅるする~♪」
「「「―――ッ!!」」」声にならない笑い声




