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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第六章 作ろう獣人の国
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第74話 25日目 奇跡を起こすには良い日だ

ただいま四章の方で非常に見難い文となっていたので修正しておきました。

ご迷惑御掛けしておりますが、これからもよろしくお願いいたします。

 目的地到着前夜。私が泊まっているテントに、ウサミミのおじいさん、ルビリットさんが紙束を持って入ってきた。兎獣人なのに眼がパンダみたいになってるし、所々に絵具が散っている。お、おじいさん一体何日徹夜してたのさ……


 足元がフラついているので、私はルビリットさんの身体を支えて座らせた。


「ちょっと。身体壊したら元も子も無いよ?お体は大事にして欲しいんだけど……」

「すまんすまん。久しぶりに楽しくての。時間などあっという間に過ぎ去っていったんじゃよ。だがそのお陰で……ほれ」

「………凄いッ!」


 前世で見たような絵画にも劣らないよこれ。へぇ、これがそうなんだね。どの絵も景観構成が完璧だし、何より色合いが凄まじく正確だ。私から見ても綺麗な絵だと胸を張って言えるよ。


「こんなに凄いの描けるんだねおじいさん。これならきっと良いのが出来るよ。次頼む時はフォルナの似顔絵だね。城のエントランスに飾らせたる」

「はは、その時を迎えられるよう長生きせねばな」


 私はおじいさんに報酬として金貨100枚を渡した。おじいさんは多過ぎると慌てたが、おじいさん。貴方のこれが、これから作る物の為の鍵なんだよ。だからこれは正当な報酬です。拒否は認めないよ。


 おじいさんは困った顔をしながらも、そのお金を受け取ってくれた。


「生い先短い老人にこんな大金渡してもしょうがなかろうに……儂は絵具さえあれば他に要らんし。孫に遺産として残しとくかのうぉ」

「え、お孫さん居るの?今度紹介して」

「おお良いぞ。可愛いぞぉ儂の孫は」


 そうルビリットさんは言って去って行った。これで準備は整った。便利なスキルも予想外で手に入れたし、きっと上手くいくことだろう。






 そして、アイドリー達は辿り着いた。


 後ろを見渡せばどこまでも続く草原。

 前を見れば見上げる程高い広大な森。


 ここが目的地であり、新しい出発点である。



「いやぁ、なんも無いね」

「当たり前じゃな」

「まっしろすた~と~♪」


 事前にナイトメーカーと水人形で周囲の魔物は一掃してあるので、御膳立ては済んでいる。


 私はフォルナに頼んで、出来るだけ獣人達に太いドーナツを作るように密集して貰った。理想としては、ガルアニアの城前広場の時ぐらいの密度で。


「え、っと。終わったけど。何をするつもりなのアイドリー?」

「何か話でもするの?」

「ふっふっふ………ふーふっふっふっふ」

「言わんのかい主よ」


 吃驚させたいからね。私は輪の中心に立つと、ルビリットさんに描いて貰った、ラダリアのあらゆる景色が描かれた紙を一枚ずつ並べていく。



 後は、私次第だ。



「アリーナ、『S.A.T』モード」

「はいなっ………っと。良いよアイドリー。私は何をする?」

「私の補助をしてくれれば良いよ。多分結果に対しての負荷でぶっ倒れるけど、アリーナが手伝ってサポートしてくれればいけるから。私の肩に手を置いといて」


 アリーナが私の肩に手を乗せたので、私は『同調』を使って概要の説明をした。


「………また凄いこと考えるんだねアイドリーは。そういうとこも好きだけど」

「私は年がら年中アリーナが好きだよ?」

「知ってる♪」


 二人して笑い合う。緊張する必要なんてどこにも無い。シエロと美香がアリーナの変身した姿に驚愕した表情だけど、今からもっと凄いことする予定なので顎を外さないようにね。私は、妖精魔法で声を拡大した。


「今から、皆が知っているラダリアの生活風景を思い出して欲しい。友達と遊んだ公園や、仲間と飲んだ酒場。買い食いした商店通りでも何でも良いから。それを、一心に思い浮かべて」


 アイドリーは妖精魔法を使った。イメージは、今この場に居る全ての獣人達の想いを、この絵の中に込めること。


 そして、次々にアイドリーの頭の中に、ラダリアの光景が余すところなく流れ込んで来る。木々の囁きも、人々の快活な声も、一人一人の暮らしの中で見せる笑顔も。心が騒めき、自然にアイドリーは涙を流してしまっていた……



 こんなにも素晴らしく、素敵な国が確かにあったのだと。



 妖精魔法が発動し、想いの欠片達が、アイドリーの手の平から落ちて絵の中に入っていく。絵はその度に光を発し、輝きを増していく。最後の一欠片が入ると、アイドリーはその紙を抱き上げた。


 まるで我が子を持つかのように……


「今、この絵の中には皆の想いが詰まってる。一つ一つの思い出が入ってる。私もそれを余す事なく見て、感じることが出来たよ。ラダリアってこんなに素晴らしい国だったんだって」


 歓声が上がった。自分達の国がどれほど凄いのかを称えるように。


「だからこそ、私はその想いを形にしたい。私は、フォルナの夢を、皆の夢を。実現させてあげたい。だから………」



 アイドリーは妖精になった。



 その光景を、中心近くに居る人々は息を呑んで見守る。自分達は今、とんでもないものを見ていると分かっていても、声を発してはいけないと無意識に口を噤む。


 妖精となったアイドリーは、そのまま空高く舞い上がり、地上に向かってその絵の一枚一枚を落としていく。




獣人の夢が、想いが、思い出が……彼女の妖精魔法に乗って――――顕現する。




 1枚目の紙が消えていくと、そこに門が現れた。

「おい、あれって……ラダリアの門か?」


 2枚目、街の中心、自分達が居る場所に落ちて消えると、商店街の広場となった。

「わ、私の家がある……」



 次々に消えていく絵達。そしてその度に出来ているラダリアの景色。獣人達は夢だと思った。これは自分達の想いを、妖精が見せてくれた一時の夢だと。



 しかしアイドリーは、夢で終わらせる気など毛頭無い。



(概念耐性が、まさか自分のスキルの負担さえ消すなんて思わなかったけど……上手くいったね。生物としての理からは完全に外れたっぽいけど…)


 アイドリーが危惧していたのは、何よりも妖精魔法の負担だった。大規模で使えば使う程、頭の熱が大きくなり意識を失うこの魔法を、概念耐性を取得したことにより完全に消すことに成功したのは僥倖だった。これでアイドリーはアリーナの変身状態と同じ状態で、常時負担無し無制限で妖精魔法が使えるようになっていた。

 それでも、妖精魔法によって生まれた結果に対しての負担は消せない。頭の激痛は加速するばかりだが、そんなものはノリと気合でどうとでもなると、アイドリーは紙を落としていく。



 街並みはいつまで立っても消えず。確かな質量として姿を現し続けてた。


 そして……最後の1枚は、ラダリアの象徴へと姿を変えた。



「城……私の、私達の家が………」


 フォルナは口を抑えて涙を浮かべる。自分がもう二度と帰れないと諦めていた場所。他の獣人達も同じく涙を流す。帰る場所が、何年も夢の中で思い描いていた理想郷が、そこに再現されたのだから。



 完全に、完璧に。



 全てを創り上げたアイドリーが空から落ちてきた。既に意識はなく、アリーナがそれを優しく包んで、手の平に乗せる。妖精魔法を使い、人化スキルを発動させて受け止めた。腕の中で寝息を立てる親友の頬を優しく撫でる。


「本当にアイドリーは……私の自慢の親友だよ」




 今日そこに、かつて消えた国が返ってきた。同時に永遠に歴史に残されることになる。『覚めない理想郷』と名高い新生ラダリア王国と、『奇跡の妖精』の名が……

「あ、アイドリーって本当に規格外だったね」

「……美香、私は新しき天啓を受けました。手伝って下さい」

「……え?」

「ほら、早く。時間は待ってくれません」

「え、ちょ、シエロ~?」

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