挿話 巫女と勇者の友情
すっかり入れ忘れていたお話になります。短いですがどうぞ。
通常の時間にも更新いたしますのでご安心下さい。
2人は星空の中、草原に腰を下ろしていた。アイドリーの水結界の範囲内ではあるが、空の星は良く見える。
美香はこの世界の星空が好きだった。あの世界に比べて、宝石のようないつまで見てても飽きないこの空が。
「呪い……無くなったんだね」
「……そっちも、異端者が消えたね」
「うん……アイドリーちゃん、本当に凄いよ」
2人して、アイドリーの無茶苦茶な解決方法に付いていけてなかった。というよりあまりにもあっけなく終わらせられてしまい、現実味を感じられなかった。
何とか此処まで辿り着いたが、その先のことなど何も考えていなかったのだから。
「ねぇ、シエロ」
「……うん」
「私ね。やっぱり神様は良い人だと思うんだ。剛谷君はあんなこと言ってたけど、じゃなきゃシエロにアイドリーの予言なんて見せたりしないと思う。もし神様が酷い人なら、大事なのは血筋だけの筈だもん。シエロ自身のことをどうにかしようなんて思わないよ」
美香の結論は在り得る可能性だった。朝比奈は確かに優秀だが、それだって推測の域は出ない。どちらかが本当だとするなら、美香は自分の出した結論を勿論信じたい。それはシエロも同じである。
「私は、私もそう思って……いたいよ。……ねぇ、美香?」
「なに?」
シエロは本気で勇者を信じていた。信じていたからこそ、色眼鏡を無くして彼等の所業を改めて見た時、とてもではないが同じ人間だとは思えなかった。
彼等のステータスはあまりに異常過ぎたし、その考え方も理解出来なかった。こちらの世界の理を全て無視するかのような振舞いにも恐怖を感じた。
そして、信じていた者からの暴挙。心無い言葉。そして自らに施された呪いという仕打ち。シエロの理想を破壊するには十分だった。美香が居なければ、とっくの昔に剛谷の好きなようにされていたことだろう。
「最初美香が剛谷の言いなりで私を連れ出して、けどその美香も呪いで言うことを聞かされてて……それでも私を此処まで送り届けてそのまま消えようとしてた。どうして、そこまでしてくれたの?同情だけ?」
美香はシエロに顔を向ける。シエロの眼は、美香の眼を真っ直ぐ見返していた。言い逃れは、出来そうにないと息を吐いて観念する。
「……私ね、勇者達の中で一番弱いんだけど、その所為か色んな男勇者に何度か言い寄られたの。お前は俺が守ってやるから、一緒に居てくれって。けど、皆状況に流される中で自分達の力を知って有頂天になって、その勢いでそんな事言ってるんだろうって最初はやんわり断ってた。向こうの世界でならまずそんなこと言わない人達だったし。けど……」
そこで美香はシエロの手を握った。思い出して辛いのか、手が震えている。シエロはそれを察してか、その手を両手で包んだ。
「ある日、数人の序列の高い勇者達に……襲われたの。使えない勇者は俺達の慰み者になって役に立てって。その時は他の勇者が止めに入ってくれたけど、私はもう限界だった。派遣先なんてどこでも良かったの。あの汚い連中から逃げられるならどこでも……けど、シエロと会えて、私は救われた」
一滴の涙が、美香の眼から流れ落ちる。
「覚えてる?最初貴方は私にこう言ったんだよ?『貴方は勇者でもあるし、人間でもある。重い荷を置いて休む時間があっても良い。何者にも休息は必要であり、それを差し上げられたら私は嬉しい』って。なんだこの聖女はって思ったよ。そんなこと言ってくれる人今まで居なかったから、一発で友達になりたいって思ったんだ。惚れちゃうぐらい好きになっちゃったんだよね」
「……うん、覚えてるよ。私も、そうだったから」
「お互い、自分の持つ称号に疲れていた部分があった。だから共感も出来た。それで剛谷君がやっていたことは、私にやっていたあの勇者達と同じことだと思ったから、従うフリをして助けたかった。友達に、同じ目に遭って欲しくなくてさ」
「そっか……えいっ」
「ふぇっ!?し、シエロ?」
シエロは美香の上に馬乗りになると、そのまま倒れて身体を密着させた。吐息が首に掛かって顔が真っ赤になるのを感じる。
「嬉しいよ。貴方は……怖かったのに、勇気を出して私を救ってくれたんだね」
「そう…なのかな?結局救ってくれたのはアイドリーちゃんだし……」
「ううん、それでも、最初に救ってくれたのは貴方よ、美香……貴方と友達になれて、良かった…」
しばらくそうやって抱き合うと、どちらかともなく、お互いコホンと咳払いした。その状況に今度は静かに笑い合い、気持ちを落ち着かせていく。
「とにかく、私達は猶予を得たわ。シエロが国を取り戻す為に動くと思って彼はレーベルラッドに戻っている筈よ」
「……けど、どうやって取り戻すの?剛谷君は勇者としての威厳で国民を掌握してしまったと思うし、ただ倒して終わりには出来ない…」
レーベルラッドは宗教国家だ。国のシンボルを倒したとなれば、国民達は間違いなく怒り狂うことだろう。更に女神より予言スキルを賜ったシエロがそれを成せば、間違いなく反逆者、異端者と見られるだろうとシエロは言った。
「アイドリーちゃんがどうにかしそうな気もするんだけど…」
「確かに、彼女ならそれも覆せるかもしれない……けど、私達だって何かしたいよ。任せてばかりになんて出来ない。それじゃあ、私を友達と言ってくれた彼女に申し訳が立たないし……」
「うっ…確かに」
ということで、どうしたらレーベルラッドを取り返せるか、2人は考え始めるのだった。




