第71話 1日目 絶対に許さないことにした
「……」
「……」
えー現在獣人の旅団は川辺での休息に入りました。私達も皆降りて川縁土手でお昼ご飯にしていた。んだけど……さっきから土手に2人して並んで座っているフォルナとシエロの空気が重過ぎて飯が喉を通らないんだよね。
気にせずパクパクしている二人が羨ましいよ。どうせ私のハートはノミの心臓『ないわ馬鹿者』……同調で否定しないでよ……
さっきまではシエロとオセロで遊んでたんだけど、着いてそうそうフォルナに呼び出された。「巫女と話をさせて欲しい」というものだったけど、聞く限りでは危害を加えることは絶対に無いからと押し切られた。
シエロもそれを了承したんだけど……
「フォルナ様……と、お呼びしても?」
「……はい。私もシエロ様とお呼び、いたしますね?」
「は、はい」
片や巫女の予言によって滅びた亡国の狐モフモフ姫。片や勇者に呪いを掛けられ未だ追われているという亡命のグラマラス巫女。共通しているのは、2人揃ってガチガチに緊張していることかな。よし、和ませよう。
「はいどーん」
「あ、アイドリー……」
「えっあ。妖精になられたのですか?」
2人の間に妖精状態で姿を現すと、さっきまでの空気が即座に霧散する。私はフォルナの手の平に乗せて貰い、胡坐を掻いて座った。シエロは見るの初めてだね。お、アリーナも来たね。シエロの手の平に乗せようか。
さぁ掻き回そう。
「可愛い女の子が暗い顔して座って黙ってるとか私が耐えられん。妖精は笑顔が好きなので認めません。ね、アリーナ」
「おうよっ♪」
「あ、あの方も妖精様なのですね?」
「様とか要らん!!私にもフォルナにも!!もっと軽くいこう軽くッ!!」
「え、ええ、けど「おん?」……ひゃい」
妖精の前に地位や権力なんてものは意味を成さない。過去の遺恨はそいうものを全てかなぐり捨てた先にあるんだよ。言葉でぶつかるか物理で殴り合うか好きな方を選ばせてあげよう。
「それでフォルナ、シエロになんて言いたいの?」
「あ、うん。……えっと、シエロ?」
「は、はい!!」
「私達は、貴方を恨んではいないよ?」
「……え?」
シエロは吃驚してフォルナの顔を見た。綺麗な笑顔のフォルナがそこには居た。私が手の平に乗ってるから勇気が出たんだね。
「確かに、巫女の予言によって勇者はラダリアを滅ぼした。けど、それはどっちにしろ成っていたことだよと。むしろ早く予言してくれたからこそ、被害がラダリアだけで済んだ。もしも遅れていれば、他の周りの国々も巻き込んでもっと沢山の人が死んでいたし、もっと獣人は世界中の人間から憎まれていたと思う。だから貴方は何も間違ってない。神に選ばれた血筋にまったく恥じる必要なんてない」
まさか擁護されるような言葉を言われると思わなったのか、咄嗟にシエロは否定の材料を探して口走ってしまった。
「け…けど……その後勇者達が貴方達を奴隷に……」
「それは勇者であって、貴方の責任じゃないでしょ?私達は勇者は死ぬ程嫌いだけど、巫女のシエロとは、出来れば友達になりたいって思う。私、今まで友達居なくて、最近アイドリー達と成れたばかりなの。友達が増えるのはとても嬉しいんだけど、どうかな?」
おっと、御者の勇者が肩をびくりと震わせたね。あっちも後で話を聞かないと。シエロと一緒に愛でたいし。戦力?いや、数えてないけど?
しかし、シエロはフォルナの差し出された手を……取れない。
「……無理です…だって……だってッ!!勇者が、あの人達が私の所為だって!!!私が予言をしたから、ラダリアに魔王が生まれて、滅ぼさざる負えなかったんだって!!!」
予言をしたから魔王が生まれた?……ああ、そうか。予言ってことは未来のことが分かるんだよね。見てしまったから未来が確定して魔王が生まれたってことを嘆いていたのかな。
「勇者が言っていたんです……『女神が巫女に見させたランダムな予言によって魔王は生まれる』って。それ聞いた時、私は巫女が世界を救う為の道標になるべき存在じゃなかったのかって……私が、魔王を生み出すトリガーだったなんて知ったらもう…そんな私に誰かと友達になる資格なんて……」
おそらく、誰も知らなかったことだろう。勇者と巫女、後は周りの人間だけの秘密な筈だ。シエロの慟哭。それは自分達の血筋が世界を壊し、再生させる礎として使われているということ。その一挙一動の苦しみが、神によって決められているということ。
けどね~……
「それは本当なの?貴方を騙している可能性は無いの?だって、じゃあ私を見せた予言ってなんなのさ?」
「それは……」
「それに、今回の勇者は今までの奴と違ってかなり狡猾みたいだしね。歴史書とか見たけど、勇者はいつの時代も正義漢だったみたいだよ?とても今世の勇者のような外道なことはせず、幸せに暮らして国々を助けてたみたいだし」
時代的に昔の日本人みたいだったしね。過去には戦車に乗っていた人も召喚されたって記述もあった。もし時代的に繋がっているんだとしたら、それも頷ける。
「それにシエロはシエロの信じる正義で動いていた筈じゃん。それを否定出来る奴なんて例え勇者だろうと許されないんだよ。よって、そんな言葉を信じる必要も無い」
「……」
「私もなりたいよ。貴方の友達に」
「………わたしも…グス…なりたいです……なって…くれますか?」
「「「よろしくッ!」」」
皆で抱きしめてあげました。サファイア色の瞳から宝石ような涙が美しいなぁ……これからはフォルナと良き友人関係を築いて欲しいね。それとレーベルラッド救い出してラダリアと友好国になって貰うんだぜ。やることがもう1つ増えたんだぜ!!
「まぁどっちにしろ私がブチ切れたんだけどね。本当だった場合は神も含めてボコボコにするし、違うなら勇者だけをボコボコにするで決定だね」
「「安直過ぎるッ!?」」
「諦めよ小娘達。そやつに通常の理屈は通じんのだ」
知らんね。まったく知らんね。神だ?勇者だ?はんっ!!全て纏めて丸っとボコして土下座させたるよ。大義名分を得たからやる気出たわ。どいつもこいつも可愛い女の子を泣かしやがって、愛でるのがジャスティスに決まってんでしょうが。
「まずシエロ!もう悩むな!辛いこと苦しいことは相談しろ!!抱えるな!!全部纏めて面倒見てあげるからもう泣くな!!!返事ッッ!!」
「ひゃ、ひゃぃ~」
「うむ可愛い!次にフォルナ!貴方の国は私が全力で手伝うから覚悟するように!!」
「わかった!!」
「よしケモミミ最高だ!!最後にアリーナ………踊るぞッ!!」
「れっつぷれ~い♪」
指を鳴らして途端に流れて来る軽快な音楽。ノリよ、私はやってきた。
「立てよ国民ッッ!!!!私が作ったケモミミ音頭を聴けぇぇえええーーーーーーーーッッ!!」
「「「うぉぉぉおおおおおッッ!!!!!!!!」
妖精魔法により全ての獣人達に声を届けたのだよふっはっはっは。はいはいステージ作って浴衣になって美人と可愛い子も全て妖精魔法で浴衣にして躍らせましょう~ね~♪
「どっから出て来んじゃ貴様等!?そして何故踊っておるんじゃ我等は!?!?」
「というか話全部聞いてたの皆!?」
「もうなにがなんだかわかりませ~~ん」
音頭は休憩時間終わりまで続きましたとさ。
夜。私はシエロを呼び出して……こら、フォルナとアリーナを離しなさい。え?友達居たことないから今離れると寂しくて泣く?私を抱きしめて良いから我慢しろ。
ということで、シエロ達が乗って来た馬車の中で密会。
「はい、今からシエロの呪いを消します」
「え……出来る…のですか?」
「出来ます。妖精魔法は皆の味方だから出来ます」
「り、理由になってないですよ~…」
とうことでイメージ、こう何か黒くてモヤモヤしてて邪な感じを消す。よし、発動。
…………あ、ヤバいこれ結構頭にくるやつだ。
「………あっつい」
「え、ちょ。アイドリーさん凄い熱いけど大丈夫!?」
あ、綺麗な顔が目の前に……っは。駄目だ耐えろ。チューは駄目だいたいけな女の子に耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ……よし、熱引いた。
「もう大丈夫だよ。ほら、ステータス見てごらん?」
「は、はい……………本当に……消えてる」
「そゆこと。さぁ明日に向けてねyおわっち」
あーっと。見事なホールドを受けました。泣き虫巫女め。頭も背中も撫でてあげるさ私は。グスグスと泣く顔が上がっていくと、月明りに照らされた瞳が煌いている。私が男だったら今すぐ押し倒す美しさだった。
「ありがとう…アイドリーさん」
「どういたしまして、シエロ……これから、まぁ、よろしくね?」
「……はいっ」
「良かった……」
美香は安堵していた。これでシエロは安全になっただろうと。弱い自分と比べれば遥かにあの人達は強いと彼女も感じていた。なので、厄介者の自分は早く去ろうと考えたのだ。
なので闇夜に紛れてその場を去ろうと「ガシッ」「ひゅいッ!?」
「逃がさないよ?」
「ひ、ひぃぃぃぃいッッ!!!」
残念、妖精からは逃げられない。
「大丈夫、質問に答えてくれる勇者は良い勇者だから。うふふふふふ♪」
「怖い怖い、答えなかったら殺すって顔してるってッ!!話すから助けてお願いますッ!!」
「殺しはしないよ。オークの巣に投げ込むだけだから」
「尚酷かったッ!?」
思わず素の話し方に戻った美香。




