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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第五章 繋がっていく手と手
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第68話 アリーナの布教活動

 新境地に向けて残り数日の頃、アリーナはアイドリーにおねだりして、ある物を大量に徹夜で作って貰った。その際全てを持つのにレーベルがアイテムボックスの指輪も貸してくれたので、ニッコニコ顔で王都の街中へ出掛けて行く。


 二人の顔は、そりゃあもうデレデレに満たされていたという。


「こんにちわー!!」


 アリーナは商人ギルドに来ていた。目的は勿論登録する為である。元気一杯な少女の登場に、生暖かい目線が注がれる。受付窓口の男は優しく話し掛けた。


「こんにちは可愛いお嬢さん。御用はなんだい?」

「登録してください!!」

「……えーっと。どういう商売をするのかな?」

「物売りッ!!」


 周りは思った。「ゴリ押しするつもりだこの子…」と。男は苦笑いで商人規定を話し始める。


「えっと。商人の初級ランクは、一定の売り上げが無いとすぐにカードを剥奪されてしまうし、一度剥奪されたら一年は再度登録出来ないようになってるんだけど…本当に良いのかい?」

「うんっ!」

 その笑顔に押され、男は仕方が無く事務的にアリーナの登録をした。一時期の子供の戯れだと思ったからこその大人の優しさである。


「ありがとうございましたーッ!!」 

 滞りなくFランクと書かれたギルドカードを渡されたアリーナは、笑顔のまま風のように去っていった。男達も皆笑顔だった。




 広場に、一人の少女が山の様な何かの板と駒、後はシートやその他色々が積まれている。そして一台の机と二つの椅子、一枚の大きな薄い板の看板が数枚立て掛けられていた。更にその横には10の長机と椅子が置かれていた。用意したのは、



「いらっしゃいませー♪」

 言わずもがなアリーナである。



 人々は物珍しさにそれを見ていたのだが、看板に書かれている内容を見て目の色を変えた。その内容を考えたのはアイドリー、作ったのはアリーナだった。



『この少女にゲームで勝ったら金貨10枚、負けたら戦ったゲームの商品一個を銀貨一枚でお買い上げ!!』


 そして、いくつかのゲームの内容とルールが書かれていた。金貨10枚とは、つまり1000万円である。負けても銀貨一枚の損だけだ。


 一人のおじさんが、ルールを数分見て少女の前に座る。


「お嬢ちゃん。金貨10枚ってのは本当か?」

「はいっ!!」


 笑顔で金貨10枚を机の上に並べたアリーナ。おじさんニヤリと笑みを浮かべた。

「なら嬢ちゃん。俺はこのジェンガで勝負をするぜッ!!」


 周りがザワつき始めた。他のゲームは身体や頭を使うが、このジェンガはある程度運が絡むと見られたゲームだと判断し勝負を挑んだおっさんに息を呑んだ。このおっさん、只者ではない…と。


 しかしアリーナは笑顔を更に輝かせるのみである。

「ばっちっこいっ♪」

「っふ、金貨は貰ったぜ!!」


「「勝負ッ!!」」



10分後。


「負けたぁぁーーーーーッッ!!!」

 大きく揺れたジェンガが、机の下まで散らばり落ちて行く。周囲から歓声が上がり、敗者のおっさんは屈辱のジェンガ拾いをし、銀貨を1枚払ってそのまま持ち帰った。その際の「嬢ちゃん……次は負けねぇぜ?」という捨て台詞も添えるという完璧振りである。


 早速1個売れたアリーナは以前としてニコニコ顔。掛け声にもテンションが上がる。

「いらっしゃいませー!!」


 数分後に、1人の奥さんが一枚の銀貨を持って少女の前に座った。年齢は20代前半といったところだ。黄色いバンダナを頭に巻いているのがチャームポイントである。


「お嬢さん、私とオセロで勝負よッ!!」

「おっしゃー♪」

「「勝負!!」」



30秒後。


「いやぁぁーーーーーーッッ!!!」

 瞬殺である。数手目で全ての色を白に染められた奥さんは、顔も真っ白に染めて「私の一年分のへそくりが…」と背中に哀愁を漂わせ、左手にオセロボードを持って帰っていった。


 しかしアリーナは笑顔を絶やさない。非常に楽しそうである。

「らっしゃっしゃーいッ!!」



 それから一時間、色んな人がアリーナに挑んでは負けていき、机の横に置かれた銀貨が少しずつ増えて行く。更に、


「おい、ちょっとこっちで遊べるみたいだ。勝負する前に練習しようぜ?」


 長机の方にゲームの道具が置いてあったので、続々とその机に人が座っていき、これからいける!!と思った挑戦者達がアリーナに突撃し、そして玉砕されていくようになる。練習の方で楽しくなってしまい、相手と真剣勝負をし始めてしまう人も出て来た。


 どんどんゲームは重ねられていく。どんどん机の横に銀貨が溜まっていく。どんどんアリーナの笑顔が輝きを増していく。大盛況となり始めてしまったアリーナの店は、その繁盛振りがどんどん広がって行く。長机を勝手に置き始める人も出始め、アリーナもそこに道具を置いて行く。広場は机で埋まった。


 囲碁、将棋、チェス等、あらゆるゲームで挑まれるアリーナは、色んな人とゲームで繋がれる喜びで一杯だった。



「「たのもーッ!!」」



 そこに真打登場。アイドリーとレーベルである。アリーナの事が心配で心配でしょうがない二人は、客として来てしまった。武闘会のヒーローが来たことにより、机を囲んでいた物達から歓声が上がる。


「『猛火烈風』と『桃源郷の氷華』だッ!!こいつはすげぇ勝負になるぞッッ!!!」


 アリーナまでの人ごみが割れていき、不適な笑みでその中を進んでいく二人。アリーナは今日一番の笑顔で迎える。


「いらっしゃいアイドリーッ!!レーベルッ!!」

「アリーナ、今日の私達は心を鬼にして本気でいかせて貰うよッ!!」

「覚悟することじゃなッ!!」


 二人は高らかに勝負するゲームを宣言した。


「さぁ、私達二人とッ」

「『ツイスターゲーム』でッ」

「「勝負ッ!!!」」


「「「うぉぉぉおおおおおーーーーーーーッッッ!!!!!」」」




30分後……


「「おぉ…」」」

 観客達は皆その勝負に息を飲んでいた。三人の一挙一動を見逃さんが為に、瞬きすら忘れていた。その中心では今、三人の女達による仁義無き戦いが繰り広げられていたのだから。



「ふ…ぬ…んんッ…」

「く…あんっ…あぁ」

「んーしょ、んーしょ、右足アカー」



 三人の美人美少女が、身体のあちらこちらを擦らせては悩ましげな声を上げながら必死に動いている姿がそこにはあった。男達は総員鼻から尊さを流し、女達は頬を赤らめて見ていた。



「ぐっぬぬ…我これ以上は身体が……折れッ(ぼきゃっ)ぐげっ!!」

「あ、馬鹿レーベルそこに倒れたごきっひぎっ!!」


 鳴ってはいけない感じの音が二人から鳴り、白目を向いて倒れる。


『決まりましたぁぁあああ!!勝者アリーナ!!ガルアニアのヒーローを倒してしまいましたぁぁーーーッッ!!!強い、強過ぎるぞアリーナーーーッッ!!』

 そして何故かいつの間にかセニャルが司会を始めていた。その顔からは無論のこと愛が溢れている。ヤスパーがその横で苦笑いをして立っていた。付き添いらしい。


 口々にアリーナを讃える観客達の仲、何事も無かったかのように立ち上がるレーベルとアイドリー。



「っふ、流石アリーナ。今回は君に勝ちを譲ろうじゃないか」

「だが忘れぬことだ。我等はどこ居ようと挑戦を仕掛ける。寝首を掻かれぬよう気をつけることじゃっ!はーはっはっは!!!」


 そして不適な笑みを浮かべながら銀貨を2枚置き、ツイスターゲームを2つ持って去って行った。同じパーティなのだからどこに居ても一緒なので挑戦を仕掛けられるのは当たり前である。



「ありがとうございましたーーッッ!!!」

 アリーナの笑顔と高らかな声だが、広場に響いていった……



 その後も様々な者達がアリーナに挑戦した。8歳ぐらいの背中と頭が盛り上がっているローブを着た少女や、威厳溢れる顔をした老人や、二人の冒険者カップル、果ては城の知識人達も押し寄せ始める。


 そして、その全てにアリーナは勝利していった。




 更に午後になった頃、遂に最強の刺客が現れる。


 迎えた最後の一人、魔法騎士団団長バルナ・リンダース。彼はこの国で最も思慮深く、一年中知識に埋もれている男である。


「まったく、部下達に連れられて来てみれば、小娘とゲームをしろとはな…」


 図書館から無理やり引き摺られて来たバルナは、不機嫌で頭に青筋を立てて少女の前に座る。板に書いてあるルールを流し読みすると、適当にその中から一番簡単に終わりそうだと思った物を選んだ。


「小娘、この将棋でやるぞ」

「はいっ!!」


 そして、静かに頂上決戦が始まった。



5時間後……


「「……」」


 2人は、一言も喋らず盤面を見ていた。アリーナからも笑顔が消え、真剣そのもので何億という読みの中で指している。周囲は2人の盤面を他で再現し、ここからどう動かすああでもこうでもないと言い合いながら見ているが、最早2人が見ている世界に誰も着いていけなくなっていた。


「……むぅ」


 夕暮れ近くになってくると、何人かの冒険者が魔法で広場を明るくした。もう勝負は終盤に差し掛かっており、バルナが追い詰められていた。一手あれば持ち返せるのだが、その一手が途轍もなく遠く、思考の波に埋もれ過ぎて眩暈すらしていた。


(こんなにも頭が痛くなるのは初めてだ……)


 賞賛されるべきは、初めてのゲームでアリーナにここまで勝負を長引かせたその思考の柔軟性である。なんせ勝負の有利不利を判断させる為に国王すらその場に馳せ参じたのだが、次元が違い過ぎてあっという間に匙を投げるくらいなのだから。


 そして大勢に見守られている中で、遂にその時が訪れた。




「………………ない…な。小娘、参っただ……名は?」

「アリーナですッ!!ありがとうございましたッッ!!!!」




 夜の空に大歓声と拍手が鳴り響いた。バルナは無言で手を差し出し、アリーナはその手を取った。


「次は勝つぞ、アリーナ」

「うん、私もまたおじちゃんと指したい!!」


 バルナは口元に笑みを浮かべ、将棋盤と駒を買って去っていった。その背中には健闘を讃えた拍手が止むことなく続くのだった……



 今日ここに、新たな伝説『ゲームマスター・アリーナ』の名が生まれた。



 次の日、山盛りの銀貨を孤児院に寄付したアリーナは、商人ギルドからCランク昇格を受け、王様からは謎の感謝状を貰ったとか。

今回アリーナが儲けた金額:銀貨1025枚

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