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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第五章 繋がっていく手と手
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第67話 レーベルの大冒険 マダルコスの森

 その日、王都の冒険者ギルドは一人の女性が来た事により騒然となっていた。


「我はさっさと討伐に行きたいと言っているじゃろうがっ!」

「だから、せめてランク昇格試験だけでも受けて下さい!!」


 『妖精の宴』パーティの1人、レーベルだった。彼女はアイドリー達と別れた後、すぐに冒険者ギルドで常時依頼を受けようとしていた。王都の横に隣接している森で彼女は狩りごっこをしたかったからだ。

 しかしレーベルのランクを聞いたギルドは慌てた。なんせレーベルのギルドランクは未だにFと最低ランクなのである。武闘会での活躍を見ていた彼等にしてみれば何の冗談かと思われる事態だった。最低でもレーベルはバンダルバと同等のSSランクの強さだと誰もが思った。


 だがランク昇格試験など面倒だったレーベルは精々Dランクぐらいで良しとしていたし、何よりまだ何の依頼も受けていなかったのだ。実績が無ければランクを上げられない冒険者規定を破るつもりも無かった。


「だから離さんかっ!!我は森の魔物共を蹂躙したいんじゃ!!」

「せめて、せめてギルド長ぐらいには会って下さい!お願いですから!!」


 そして先程からレーベルを引き留めている女性は、なんと獣人だった。クマ耳のボンボン尻尾の可愛らしい幼女体形だが、れっきとした成人女性である。


「マーブルさん。どうされました?」

「あ、ギルド長良いところに!!」

「む、代表者か。我は試験などというまどろっこしいものは受けとうない。どうにかせよ」


 ギルド長と呼ばれた老年の男は、そのやり取りを見て微笑ましそうに見ながら話し掛けてきたが、レーベルのぶっきら棒な物言いに苦笑いしてしまう。


「おっと、貴方がレーベルさんですか?武闘会ではご活躍見させて頂きました。いや、素晴らしい強さをお持ちですな。それで、今のランクはどこなのですか?」

「ギルド長、この人べらぼうに強い癖にFなんです!!」

「良いじゃろ別に!!今日魔物をしこたま狩ってやるからそれでDにでもしておけ!!」

「それじゃあ冒険者の皆さんが納得しないからって言ってるじゃないですか!!」

「そんなもん知ったことではないわと言っておるだろうがッ!!」


 お互い一歩も引かなかった。ちゃんと実績を作ってランク昇格した方が良いと思っているレーベルと、とっととランクを上げさせないと他の冒険者から上げさせろと蹴り上げられると思っているマーブルでは、決して意見は合うことはないだろう。


 ギルド長は暫し考える仕草を見せると、マーブルと剥がしてレーベルに待ったをした。


「こうしましょう。今日一日でレベル50~60のバベルスパイダーという魔物を100匹以上狩ってきてください。それが出来たらSSランクに昇格ということで。森の奥に進めば巣を張ってますので、簡単に見つかりますよ。確か2位の商品は指輪型のアイテムボックスだった筈ですし、問題はありませんよね?」


 それを聞いたレーベルは、実績とランク上げが同時に出来ると思ったのか気を良くする。しかし周囲の人間は「ギルド長ひでぇ…」と聞こえないように呟いていた。確かにそれなら冒険者規定に引っ掛からないが、バベルスパイダーの巣の討伐はバンダルバでも不可能だったのだ。


「それで良いのじゃな?」


 確認の為にレーベルが同意を求めるが、ギルド長はにこやかに笑って頷いた。確認の取れたレーベルはこれ以上はすること無しとギルドを出て行く。顔を青くしたマーブルは、何故あんな試験にしようとしたのだとギルド長に詰め寄ろうと思ったが、


「あ、そうそう。マーブルさん。来月貴方は新しく出来るギルドに異動になりますので、荷物を纏めてくださいね」



 マーブルの顔は青から白に染まった。




 マダルコスの森。100mを超える高い木々で覆われているそこは、魔物達が多く出没し、また、通常よりも頻度も数も多く強い。素材も他国から重宝される程武器防具に転用し易いことから、冒険者にとっては正に稼ぎ場だ。

 今日もそこは冒険者達で溢れ、いたるところで冒険者の叫び声や魔物の断末魔が木霊していた。


「さぁ~て。バベルスパイダーじゃったか。どこにおるかのぉ~」


 そんな森をズンズン歩いてドンドン暗い方へ進んで行くレーベル。片手にハルバードを持ち、道すがら遭遇したモンスターを一撃で首を落としながら進むその姿は、見掛けた冒険者からしてみれば理不尽の塊だった。


 これまでにビッグマンティス、グレイヴリザード、バーサクアント、ロックホークなど色々と出て来たが、どれもレーベルを満足させるほど強くは無いし、レベルも上がらないので首だけ落としさっさと指輪のアイテムボックスに仕舞っていく。


 その内冒険者を見掛けなくなった頃、レーベルの眼前で、森がその様相を変えた。長く生い茂っている木々の枝草は更に日の光を遮り、ほとんど夜のようになってしまう。


「ここら辺……かのう?炎よ、照らせ」

 魔法で明かりを点けると、それは姿を現した。


「……おぉっ!?」


 見渡す限りの木々に張り巡らされている巨大な蜘蛛の巣に、そこを大量に行き来してい人の2倍は大きい蜘蛛達。そして巣からぶら下がっているのは、糸でグルグル巻きにされて吊るされた数多の獲物達だった。姿形は縦長の雲だが、とにかく顎がデカい。


「はっは~ん、あれがそうじゃな。今は丁度飯時だったと見える。揃いも揃って数百匹といったところかの。これは良い運動になりそうじゃな」


 余裕を欠片も崩さないレーベルは、ハルバードを回してバベルスパイダー達が自分を囲うのを待つ。一定の数が来たところで、レーベルはその大群に突っ込んだ。



「っふ」



 1匹目を縦に真っ二つ。2匹目も斜めに真っ二つ。それから次々にあらゆる角度からバベルスパイダーを真っ二つにしていきマジックボックスに即時収納していくレーベル。

 あまり死体を増やし過ぎると、それで山を築いて素材が潰れてしまうと判断したので、なるべく散らばらないようにして戦うのを選んだ。


「はっはぁっ!!どうした蜘蛛共よ。もっともっと掛かってこんかぁああーーー!!」


 テンションがハイになっていくレーベル。人間状態で武器一本で大群戦をするという縛りの為か、笑いながら武器を振るい敵を瞬く間に蹂躙していく。バベルスパイダー達はその光景を見てレーベルから一度退却しようとするが、レーベルが早過ぎて逃げられない。


 しかし、無双をしていたレーベルに次の攻撃が始まった。


ベチャッ

「ぬぉッ!?」


 いきなり上空から放たれた糸の粘液が身体当たったのだ。粘液は絡み付き、レーベルの動きを阻害する。上を見上げてみれば、こちらに尻を向けたバベルスパイダーの部隊。あそこから粘液性の高い糸を射出し、レーベルを封殺する気でいるようだった。


 レーベルは部隊行動をする魔物という物を初めて目にし………笑った。



「あっはぁ♪」



 ハルバードが赤熱し始める。耐熱服の素材にも使われている糸がドロドロと溶ける程の高温がハルバードから放出されていた。バベルスパイダー達は次々と糸を射出するが、レーベルは身体が超高温に達し、触れた部分から全て溶けていく。


 周囲が歪む程の熱量になると、レーベルの姿が陽炎のように揺らぎ……消える。


シャンッ


 最初に10匹のバベルスパイダーが焼き切られ絶命。見えない一撃が揺らめきと供にバベルスパイダー達を両断していく。一振りで数十匹が屠られていく。理不尽な力の奔流に、成す術なく絶命していく蜘蛛はなりふり構わず逃げ出すが、


 数分後には下で蠢く魔物は一匹も残らずアイテムボックスの中に消えていた。


 静寂に染まる下の様子を見て恐怖したバベルスパイダー達は上を目指して逃げ始める。高い場所ならばあの冒険者は上がって来られないと判断しての逃亡だが、


「おやおや、そんなに慌ててどこへ行くんじゃ蜘蛛共?」


 いつの間にか自分達の上空に出現していたレーベルに。思わず恐怖を抱いて無駄な威嚇をする。だがもはや攻撃も糸による拘束も出来ないと知った彼等に、他の選択肢は残されていなかった……



「む~何匹倒したのか覚えとらんが、とりあえず終わったのぅ……おん?」

 今までで一番大きな威嚇の声が聞こえて来た。振り向くと、周りの木を身体で折りながらこちらに向かってくる1匹の魔物。


「ほぉ~初めて我の体格に見合う者が現れたではないか~♪」


 レーベルが三日月のような笑みを浮かべながら振り向くと、バベルスパイダーをそのまま20倍程大きくした魔物だった。もしもこの場にアイドリーが居たなら、おそらく逃げていたであろう程見るに堪えぬ姿だった。



名無し(857)♀ Lv.1355

固有種族:クイーンバベルスパイダー(古代種)


HP 6万1002/6万1002

MP 8463/8463

AK   2万3489

DF   5万4504

MAK  4万2110

MDF  2万7810

INT  60

SPD  1600


【固有スキル】豪糸 猛毒 再生


スキル:体格差補正(A+)



 レーベルでは分からないが、クイーンバベルスパイダーの強さはレーベルに迫る程強かった。だが鈍重な為、レーベルには付いて来れない。試しに身体を無数に斬ってみたが、


「ほう、再生スキル、しかも猛毒もかっ!!」


 飛び散った体液が猛毒となって木々に降り掛かる、そこから腐っていき、あっという間に折れて倒れた。斬られた箇所も即座に傷が塞がってしまう。


「人間の攻撃では無理か。毒も浴びれば我でも死ぬかもしれんな……だが」


 レーベルはその場で元の姿に戻っていく。レーベルとクイーンバベルスパイダーの目線が同じになった。



『これならば関係あるまいッ!!消し飛べッッ!!!」


 シュボァッ


 瞬間、レーザーの如きブレスが、クイーンバベルスパイダーの顔を巨大な下顎ごと消し飛ばした。ブレースはそのまま空へ向かい伸びていく。


 ブレスが当たった場所だけポッカリと穴が空き、その周りは一瞬で炭になった為、火か燃え移ることはなかった。レーベルは人間の姿になってその屍の前に立った。


「ふむ、流石に頭が無くなれば死ぬか。生物の基本じゃな。だがどうするかのう、こやつ。持って帰っても出せんかもしれん……まぁ良いか」


 レーベルはそれもアイテムボックスに入れると、また遭遇した魔物を狩りながら王都に向かって歩いていった……




「という訳で討伐してきたぞー」



ざわ……

「ん、なんじゃい」

「ああ……レーベルさん。早かったですね?」

 2時間程で戻って来たレーベルに、皆疑問の視線を向けて来る。だがまったく意に介さず堂々と受付窓口まで行くレーベルの元に、ギルド長が現れた。


「何百匹倒したか分からんし、最後にデカい奴が居たから、とりあえず全て狩って来た。どこに出せば良いんじゃ?」

「デカい……?まぁ沢山倒したというなら、倉庫の方に来て頂きましょう。付いて来て下さい」

「うむ」


 実際ギルド長も半信半疑だが、数十匹ぐらいは倒したのではないかと予想はしたので、倉庫の方で出させることにした。もしかしたら他の魔物も一緒に出してくるかもしれないとも。

 その後ろを、他の冒険者達も付いて来る。皆、噂の準決勝まで登り詰めた女の成果が気になって仕方が無かったのだ。


 そして案内された倉庫は、ギルドの裏にあった。仲は広く、レーベルがレッドドラゴンになっても丸々3匹は入りそうだった。


「それでは此処に1匹ずつ出して頂けますか?」

「うむ。わかった」


 レーベルは1匹ずつ並べるようにしてどんどん出し始める。10匹、20匹と出て来るバベルスパイダーに一同感嘆の声を上げていくが、




「おい……いつまで出て来るんだよ」


 バベルスパイダーの数が100を超えた辺りで、声は感嘆ではなく畏れに変わった。まだまだ出て来る蜘蛛に、ギルド長も茫然としてしまう。そして、400を超えた辺りで、ようやく全てのバベルスパイダーが出終わった。


「……人間?」

 疑わずにはいられなかった。これが2時間で仕留めた数だと言うのだから。


「こ、これで……全てでしょうか?」

「ん?いや、まだデカいのおるが、そいつはこいつらを片付けねば此処に出せんぞ?」

「……」

 言葉に出来なった。彼の冒険者時代も含めた人生の中で、そんな大きい生き物は眼にしたことが無い。しかし見てみたい好奇心もあったし、それ以上に素材として一体どれだけの金額になるのか知りたくなった。


「……では、数日後にまた来て頂くということでも…よろしいでしょうか?」

「うむ。これらの解体は全て任せる故、終わった頃に来る。金はその時くれい」

「承りました…これは総出だな……」


 ギルドの方に去っていくギルド長を見送ると、レーベルは集まっていた冒険者達に目を向ける。皆レーベルの視線とその絶妙なスタイルに釘付けになった。




「お主ら?ちょっと我と飲まぬか?我の泊まっている宿屋で」

「「「行きます」」」


 それから3日間、アグエラの宿屋で飲み潰れる冒険者が続出し、また数日間冒険者ギルドと商人ギルドが地獄の忙しさに見舞われることになった。

「店主よ、客じゃ。酒と飯を頼む」

「「「お願いします姉さんッ!!」」」


「……お、おぉ…」

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