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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第五章 繋がっていく手と手
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第61話 人と妖精

 私が話し合いたいこと、聞きたいことは大まかに分けて2つあった。


・勇者と国の関係

・獣人の奴隷待遇について


 このことについて、王様は包み隠さず全てを話してくれた。


 戦争に参加した各国がハーリアに多額の税を請求されていること。そしてハーリアを実質支配しているのは勇者であること。税の補填を獣人を奴隷にして働かせることで補わせるよう強制されたこと。近年勇者達が各地の国に派遣されていること。そして、ハバルの件は勇者が手を回していたということも……



「こんなところだな……私個人として、すぐにでも獣人を奴隷から解放してやりたいが、彼等の暮らす場所はもはや更地同然だ。今や誰も帰りたがらぬだろう」

「……ちょっと相談させて」

「?わかった」


 私は魔道具を使ってテスタニカさんとすぐに繋いだ。そして今知ったことを知らせると、


『なるほどね。そういうことだったのねぇ……そっかぁ。それでアイドリー、直接聞いた貴方はどう思うの?』

「私としては……うん、言って良い気がする」


 信用は出来る。彼等は冒険者である私達にしっかり対応し願いを聞き届けてくれた。言葉通りの人数で魔道具も一切付けず紳士に。護衛の騎士団長は居るけれど、彼女も終始雰囲気は良かった。宰相さんも悪い感じはしない。


 何より王様は、アリーナの頭を撫でている。撫でる事が出来ている。超純粋生物であるが故に、邪心があると泣いてしまう妖精に触れているという事は、最低でも本心から物事を言っている。なら……問題無いよね。


 それを伝えると、テスタニカさんの声色も明るくなる。


『なら良いわよ見せちゃって? 前にも言ったけど、貴方が信用、信頼に値する国と思うなら何も言わないわ』

「わかった。後何かある?」

『大丈夫よ。あ、もし王様が知ってたらだけど、『アルドレイク』っていう人知ってるか一応聞いてくれる?』

「了解。それじゃあね」


 よし、確認終了。勇者だけが外道だと分かったのでこの国は白という方向でいこう。



「審議の結果、私はガルアニアを信じることにしたよ」

「ま、誠か?」

「それに伴って、まず聞きたいんだけどモンドールさんって国の歴史には詳しい人?」

「それは勿論だとも。幼き頃から教育の一環として教わっている」

「じゃあ『妖精の盟約』については知ってる?」


 紅茶に口を付けようとした手が止まった。モンドールさんは信じられないような顔をしてこっちを見る。


「……今、なんと申した? 『妖精の盟約』だと?」

「王よ、それはなんなのだ?」


 マイネンは初めて聞いた単語だったみたいで、首を傾げてモンドールさんに聞いた。テスタニカさんの言う通り、王族の人なら知ってるんだね。


「……それは、とてつもなく古い。神話の時代から受け継がれる唯一の物だ。王族の、それも王になる人間にのみ教わることが許された歴史の1つの筈だ。そしてそれは、神話の中の話だと私は思っていた……アイドリーよ、何故それをお主が知っているのだ?」

「見て貰った方が早いけど、まずはこの書簡を読んでくれないかな?」


 背中からテスタニカさんから預かった書簡を取り出し、モンドールさんに渡す。モンドールさんはその書簡の精工な作りに驚きながらも、丁寧に開いて内容に目を通し始めた。数分間、室内に静寂が訪れる。



「……これは誰に渡された物か、聞いてもよいか?」

「今世の妖精女王」

「妖精!?」

「なんとっ……」



 マイネンさんとベルモールさんが2人揃って絶句し、モンドールさんは「やはりか……」と天を仰いだ。どうやら書簡の中身と関係あるみたいだね。


「アイドリー、これを見よ。これは我の持っている歴史書に書いてある妖精の紋章と同じ物だ。これを知っているのも王族のみ。他に知っている者が存在するとすれば、それは同じ王族の人間もしくは、本人ということだ」


 書簡の最後の方に、妖精が3人絡んだ紋章が押されているのが見える。内容に関しては妖精に協力して貰えるようなものだって聞いたけど、どうなんだろう。


「もしも本人だと言えるならば、何か証拠となる者が居る筈なのだ。それを……見せては貰えぬか?」

「そのつもりだったよ。アリーナ『人化』解除しちゃって。姿も見せて良いよ」

「うい~♪」



 一瞬光って、アリーナの姿が消失する。テーブルに乗っかったフードでモソモソするアリーナ。その光景を、王様勢は生唾呑み込んで凝視する。


 ぴょこ、と顔を出す。手の平サイズのアリーナが羽を出してパタパタと飛んだ。モンドールの前に置いてあるお菓子の前に着地すると、大きめの包み紙のお菓子を渡してきた。震えた手で受け取ると、アリーナはまた飛んで私の頭の上に乗っかった。


 こらこら、髪を引っ張って「はっしんッ!」とか止めなさいて後でやってあげるから。ウィーンウィーンしてあげるから。



「「「……妖精」」」



 その一連の行動の中、皆揃ってアリーナ目に穴が空くぐらい見ている。そこに私達も爆弾を打ち込むのだよ。インパクトは大事。



「私も妖精だよ」

「我は古龍を始祖とするレッドドラゴンじゃ。そして従魔でもある」

「「「……えっ?」」」



 すいません、3匹とも人間じゃないんです。けど早めに言っておかないといけないと思ったんで許してね?


「……防音機能のある部屋で本当に良かったぞ。今のがもし吹聴されていたら国中が大混乱になるところであったわ」


 マイネンさんがため息を吐きながら机に突っ伏す。後ろのマゼンタさんもウンウン頷いていた。モンドールさんは気を取り直して質問を再開する。


「それで、お主達妖精は何が目的なのだ?」

「うん。妖精が住処にしている世界樹っていうのが各地にあるんだけど、ここ数年新たな妖精を生んでなくてね。その原因を探る旅をしてたんだよ。その予想の1つが『魔王』だった。世界樹が止まる理由は、世界の崩壊に備えて、ていう話だったし」

「なる、ほど……魔王が居なくなっても変わっていないという事実を知り、他の可能性を探るべくこちらに接触を図ったのじゃな?」

「結果的にはそうなるね」


 そこで出て来るのが外道勇者達だ。彼等はこの世界で好き勝手やり過ぎている。召喚された次期と妖精が生まれてこなくなった時期が重なる辺り、ビンゴじゃない? とも思っていた。それにモンドールさんも同意する。


「だが、本当の目的が何なのか、それは今も分かっておらぬ……原因を知る糸口があるとするなら」

「ハーリアに行くしかない、か……」


 それはつまり、国として協力は期待出来ないのと同義だった。一時期の脅威は去ったとはいえ、ガルアニアは未だハーリアの傘下である。それが表立って動けば必ず目を付けられるだろう。まぁそれは良いんだよ。


「そっちは後からどうにかするから良いよ。問題は獣人の方。彼等をこのままにはしておけない」

「ぬぅ……それは」


 現在経済を支えているのは奴隷である獣人達の力が大きい。それを失うことは、つまり国の滅亡を早めるということに繋がってしまう。だからこそ一時の情に流されて奴隷解放なんて事は言えない。そんなことは分かってるんだよ。


「勿論、獣人にだって生活環境が必要だから、奴隷の状態の方が安全って意見もあると思う。最低限暮らさしてはいるんだろうし。けどそれはいつまで続くの? 10年? 100年? 世代が変わっても? そんなことしたら……獣人は家畜と一緒になるよ?」


 荷車を引く馬とか、鳥小屋の鶏のようなものだ。それを人は決して呼ばない。


「だから、私はそのお金を奴隷解放に使いたい」

「ベルモール、どうだ?」

「………その元々無いお金をどこから出すかが問題です」

「それは獣人達に働いて貰えば良いんだよ」

「なんだと?」


 私は提案した。これが最善だと信じさせるように。



「新しい獣人の国、作ろう」



 話はこうだ。私が妖精魔法を使ってそこら辺の土地にノリで国の土台を作るから、そこで一から生活を開始してもらうのだ。魔道具に独自の技術があるから、それでとりあえずの間凌いで貰って、後は代表者と協力して色んな事業を展開していこう。素材は幾らでも見つかると思うし。


「そんで、ダンジョンにある神代級の魔道具を研究、解析して貰って複製して売ろう。他国に」

「それなら利益は出るだろうが、そう簡単に出来ることじゃありませんよ?なにせ時間がありませんし、どうやって魔物だらけの土地を一から……もしかして」

「私達でやるから問題無いね。最初に生活基盤さえ整えば後はどうにでもなるし」


 見回りはレッドドラゴンになったレーベルに飛び回らせればまず魔物は寄って来ないしね。


 次に神代魔道具だけど、それも私がしばらく国を様子見した後、ダンジョンに潜って取って来るつもりだ。研究施設だけは提供して貰う必要があるけど。


「で、どうする?」

「……今すぐ、という訳にはいかぬ。各地へ早馬を走らせることは出来るが、無条件で奴隷を開放するという者は少ない。何かしらの補填も必要だ」

「それも獣人が作った複製神代魔道具を渡せば済むよ。他国に売れば大きな利益になるんだから。後、建築用の木は近くで伐採するし、食料は現地調達で十分賄える。後お金の足しになるか分からないけど、こんなの売ろうと思う」


 私は、色んな種類のボードゲームを机に並べた。


「こ、これは……駒?」

「盤の上で駒を使ったボードゲームって代物だよ。色んなルールがあるから後で説明書渡すけど、作るの簡単だから是非売りたいんだよね。多分貴族も国民もこぞって買うから」


 唸りを上げてそれ等を見つめる3人。どれも妖精魔法で作った物だが、人の手でも作れる程度の物だ。



「なるほど…特定のマス目を使っての駒取りということか。これは検討しておこう。細かいところは詰めるとして、アイドリーよ。とりあえず後1つ、それを成し遂げる為に聞かねばならんことがある」

「なにかな?」

「最大の問題点、勇者についてだ」

アイドリーの『妖精の眼』の前では虚言は全て看破されるので、嘘はありませんでした。

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