第60話 賞金と賞品と交渉とおじデレ
次の話から新章になります。
表彰式は異例のこととなった。優勝はアイドリーだったが、そこから準優勝と3位をどう決めるかが問題になったのである。
準優勝になる予定だった勇者は誘拐、脅迫、それに伴うルール違反の罰則、そして王都滅亡を企てた罪としてアイドリーが縛っている間に奴隷の首輪を付けた。これによって勇者達は行動を大きく制限され、スキルの発動は愚か、許可された行動以外を取れないようにされ城の牢屋へ。
なのでそこにはレーベルが繰り上げ準優勝となる。
「納得はせぬがのぉ……次は勝ちたいわい」
「ふぁいとっ!!」
(次やったら相手の胴体真っ二つだろうなぁ……)
次に3位、こちらはモリアロ以外のアレイド、ビアル、ゲンカク、ヤスパーがモリアロの現状を知って全員辞退してしまったので、自動的にモリアロになった。しかしモリアロが自力で来ることは不可能だったので、代わりにスビアが受け取り、モリアロに渡すことになる。
スビアは最初その申し出に躊躇したが、アイドリーに受け取って自分の手で渡してやればきっと喜ぶと言われ、渋々応じた。
そして表彰式は城の謁見の間にて行われることになっていた。謁見の間には、アイドリー、レーベルと別件で呼ばれたアリーナ、モリアロの代わりに出席したスビア、そして上級貴族や近衛騎士が、王座にはモンドールが座っていた。
「こういうの物語の中でしか知らないからすっごい楽しみだったんだよねぇ……♪」
「権力者のお集まり会など何が楽しいものなのか分からんがのう……」
「きらきらしててきれいなの~~♪」
「……こほんっ」
「「「おっと」」」
3人が何の躊躇も無く普通の声量で話しているので、モンドールはわざとらしく咳をして静かにさせてからは話し始めた。
「此度、トラブルが多々あった。私自身それに加担せざるを得ない状況だったとは言え、諸君には大いに負担を強いて悪かったと思う。が、無事終えられたことを嬉しくも思う。そして、凄まじい戦いを勝ち抜いた其方達に、その位に応じての褒賞を送ろう」
王は立ち上がり、傍に仕えさせている騎士から巻物を掴み広げる。
「まずは第三位、水魔法の使い手モリアロの代理として、スビア、前へ」
「は、はい!!」
緊張でガチガチのスビアに苦笑いしながら、モンドールは内容を述べていく。
「金貨300枚、そしてレブナント鉱石10キロを授ける。本人はこれから大変であろうが、挫けずに強く生きよと伝えい。よいな……?」
「は、はい……ありがとう、ございますッ」
「うむ。次は準優勝の者、猛火烈風のレーベルッ」
「うむッ!!」
威風堂々と言った様子で前に出て来るレーベル。繰り上げだが本人は満足そうだ。
「金貨500枚と神代魔道具『指輪型アイテムボックス』を授ける。其方の戦いの上での清廉潔白さは、正しく武神と呼べる者であった。これからの活躍、期待しておるぞ」
「任せいッ!!」
「では最後に。優勝者『妖精の宴』リーダー、桃源郷の氷華アイドリーッ」
「はい」
アイドリーは普段の調子で前に出る。妖精のノリも今は完全に治まっていたので、周りに居た貴族は『本当にあれが決勝で戦っていた少女なのか……?』と多少疑いの眼で見る。同時にそのあまりの浮世離れした愛らしさに心を奪われ掛けてもいた。
「金貨1000枚に何でも一つ……いや、今回は例外として3つ叶えよう。其方の活躍は、闘技場の中でのみにならず、この国の根幹に潜まんとする闇を打ち払った功績がある。叶えられる範囲のことを言ってみよ」
これは私にとって思いがけないチャンスだった。というか、何か私の思っていた感じと違う。本当なら勇者を犯罪者に仕立て上げたことでもっと周りから睨まれているんじゃないかと思ってたのに、実際に来てみたら生暖かい目で見られてるんだけど。なんなの、どうしたの? 孫のように可愛いってか? じじ馬鹿なのか?
話が逸れた。とにかく願いが3つになったから、交渉とかする必要が無くなったね。後は叶うかどうかだけど、1つずつ確認していこうそうしよう。
「ではまず1つ。私達『妖精の宴』3名は、王様と王様の信頼出来る側近の方と個人的に面談がしたいのです」
「……うむ、よかろう」
これは通った。王様一人に絞ったら間違いなく警戒されるからね。数人居る方が見極めもし易いだろうし。
「それでは2つ目。国々を自由に出入り出来る国境の通行手形が欲しく思います」
「それも容易じゃな。後で渡そう」
これもオーケー。じゃあ最後の問題にいってみようか。
「最後に3つ目。王立図書館への立ち入りをお許し下さい」
「ほう……冒険者にしては珍しい頼みじゃが、許そう。本の損傷に気を付ければ問題は無い。そちらの入館許可書も後で渡す。以上で良いな?」
「……はい、ありがとうございます」
ありゃ、もう少し渋られると思ってたんだけどな。全然通ってしまったよ。もしかしたら過去に魔法使いの優勝者が願ったこともあるのかもね。私が下がると、王は側近を下がらせる。
「ではこれにて表彰式は終了とする。スビア、先に下がるがよい」
「はい、失礼いたします……」
スビアを帰らせると、王はアリーナの前に立った。例の別件か。
「さて、待たせてしまって申し訳ないな『妖精の宴』のアリーナよ。其方を今回呼び出したのは、幾つかの謝罪をしたかったからだ。1つ目は勇者の暴挙について、もう1つは、賭け金のことについてじゃ」
王様は周りの貴族達にもよく聞こえるように、心持ち大きめな声で話し始めた。
「まず今回の誘拐の一件について。誠に、申し訳なかった……」
そう言って頭を下げた王様に、周りから騒めきが上がるが、王が一括して黙らせる。
「許せとは言わぬ。我々が勇者を招き入れ、止められなかったのだからな。だが、我はあのような恥知らずで在りたくはないのだ。謝罪を受け取っては貰えぬか?」
多分これ以上無い程最上の謝り方だった。一国の王が自分の私情を優先し、威厳を捨ててまで一人の冒険者に謝ったのだ。アリーナは私を見たが、同調を使って『好きにしていいよ』と言うと、笑顔で頷き、王様に近寄った。近衛騎士が止めようと動いたが、それを王様は眼光で制止させる。
アリーナは王様のすぐ前まで来ると、そっと頬を撫でて顔を上げさせた。二人の顔が、至近距離になる。
「全て、許します。おじちゃんは、良い人ッ!!」
「おじっ!?」(ズキューン)
煌く笑顔で王様をおじいちゃん呼びしてしまったアリーナ。私とレーベルはその言葉で王様を完全に信用することにした。アリーナの見立てに間違いは無い。呼び方については後で直させないとね。後何かが撃ち抜かれた音がしたね。王様が震えてるよ。
「……そうか……感謝するぞ」
「えへへ……♪」
ちょっと、なんでアリーナの頭撫でてるのよおじいちゃん。レーベルに殺されるよ? ってレーベル、ハルバード出すな。それは我の特権とか言うんじゃない。元々は私の特権だよ。
しばらく撫でて満足したのか、次の件に移る。ふぅ……
「して、賭け金の件なのじゃがな。こちらで計算してみたところ、国の年間運営資金を1000年分を優に超える事がまず分かった」
「「「ッ!?」」」
国の年間運営資金とは、言葉通りだろう。貴族達が治める領地からの税や貿易による収入。それを1000年も超えるという事態に、貴族達は顔を引き攣らせる。そりゃあそうだ。そんなお金どこにも無いのだから。
「誠に申し訳ないのだが、これについてはまず賭け金を丸々返そう。そして、残りは借金とさせて欲しいのだ。毎月冒険者ギルドに金は入れる故、それで許して頂きたいのだが……どうか?」
「えっと……ちょっと相談!!」
三人で円となり『妖精の宴』会議開始。
「どうする?丸々戻ってくるなら、我としては問題無いが」
「私もかな。アリーナは?」
「全部寄付っ!!」
「「そうきたか」」
それはちょっと待って欲しかった。出来れば話をしてから決めさせて。それによっては全額寄付も許すから。元々無いお金だから痛くないけど、寄付って言うなら交渉を一つ増やさなきゃならなくなる。
なのでお金に関しては、私が代理をすることにした。王様もそれで了承する。
「お金についての話は、先程の私の願いの一つが叶えられている最中に話しましょう。決して悪いようにはしませんが、難しい問題になる可能性があるので。それでよろしいでしょうか?」
「構わぬ。こちらがお願いする立場なのだからな。ではお開きにして場を移そうぞ」
案内されたのは、王族が使うという会議室だった。部屋にある高そうな長机の椅子に座り、その対面に王様と、王様が信頼出来る者達が座った。
「では、この場に居る者達で自己紹介をしていこう」
「そうしましょう」
同意を示すと、まず王様側から始まった。
「まず我が現在ガルアニア王国を治めているモンドール・ビルテラ・ガルアニアである。そして我の右に座っている者は財務に詳しく、そしてお主を知っているという者じゃ」
「ベルモール・ベイーテロ財務局長です。カナーリヤの件では主人と娘ががお世話になりました」
「ほえっ!?」
まさかのアステル伯爵の奥さん登場である。王都で働いているとは聞いてたけど、まさかこんなところで出会うとは思わなかったよ。
「娘さんは元気ですか?」
「ええ、手紙でいつも貴方の事について話してましたよ。とっても可愛らしくてもの凄く強い冒険者さんだって……」
そう言ってクスクス思い出し笑いをするベルモールさん。うん、容易にどんな内容が書かれていたのか想像が付くよ。
「おほん、そのまた右にいる者がこの国の宰相を務めている者だ」
「お初にお目に掛かるアイドリー殿と御二方。儂はマイネン・ベアランド侯爵というものだ」
「あー、はい、よろしくお願いします」
下顎にワイルドな髭を生やした50代ぐらいの男の人だ。侯爵ってことは、王族の家系の人だよね。
「儂のことは空気とでも思っておいておくれお嬢さん方」
以外に気さくな人なのか、髭をワシャシャしながら軽く笑うマイネンさん。
「そして最後に、我が左側に立っている者が、王立騎士団長だ」
「初めまして、私はマゼンタ・ナイルズ伯爵だ。一応という事でお呼び出しされているが、基本話しには参加しないので安心してくれ」
伯爵はそう言って壁際まで下がっていった。騎士の恰好じゃなくて貴族服だったから分からなかった。というか女性の貴族っているんだね。ステータスは……わお、って感じ。
次は私達の番だね。私が代表して自己紹介をする。
「私の名はアイドリー、両隣がレーベルとアリーナです。私達は3人で『妖精の宴』パーティとして活動しています」
3人で立ってお辞儀をし、4人が頷いたので座る。ようやく話し合いの始まりだ。モンドールさんが一人称を変えて話し出す。そっちが素なんだろうか。それとも公務じゃなく個人的な話、だから同じ目線で居てくれるのかな? 嬉しいね。
「では、アイドリーよ。まず其方は私とどういった理由でこのような場を望んだのか聞いてもよいか? ああ、口調は崩して構わん。ここに居る者はそういったことを気にはせんからな」
ああそう? じゃあ遠慮なくさせて貰おう。レーベルとかが喋ったら口調どころじゃないし。
「私達はある事が目的で旅をしてきたのだけど。その目的の為に国の代表者と個人的に面談をする必要があって、信用、信頼が出来る人達であれば、書簡ととある人物に遭わせることになっているの」
「なるほど……ではまず、私達はその信用、信頼を勝ち得ねばならぬ訳だな」
「そういうことになる……うん、なるのだけど……うん」
「……もぁ~?」
さて、一体どうなることやらだが……とりあえずアリーナ。さっきから出されたお菓子をモヒモヒしながらひたすら頬に詰め込まないで可愛くて話に集中出来ないから。レーベルも止めろ、もっと菓子を持って来いとか言ってんな。そして宰相はデレデレした顔で自分の分を差し出すな!!
「なんか……すいません」
「いや…こっちの者もすまぬ……」
「ほれアリーナ殿。私の菓子もやろう」
「まみまもーッ!!」もひもひもひもひ
「そこな騎士よ。菓子が足りぬからもっと持って参れ」
「アリーナ、これあげるからゆっくり食べな。レーベル、ちょっと口チャックしなさい」