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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第58話 ノリの力

ノリは全てを呑み込んでいく。

『来てしまった……来てしまいました。数多冒険者が戦い散ってきたこの戦場の上で、今日ッ!!最強がどっちなのかが決まります!!』



 今日一番の暑さが王都、闘技場内に降り注いでいた。今日が最後ということで、見回りの兵士以外スッカラカンで、観客席の人達は全員立ち見をせざるを得ない程の人口密度になっていた。


 それをグルリと見渡したセニャルは、満足そうに微笑んで先を続ける。


『今日、私達は歴史の立ち証人になる筈です。勇者とは絶対無敗の称号なのか。それとも、それを凌駕する者が存在するのか。出て来て頂きましょう!!最強を名乗り、勇者に挑戦した我等がアイドルに、……はい皆さんご一緒にッッ!!』



「「「アイドリィぃぃ~~~ちゃぁぁあ~~~~~んッッ!!!!!!!」」」



「は~いっ!!♪」



 アイドリーは今日、全てをぶち壊すつもりでいた。アリーナの最凶の応援により、ノリの枷が外れてしまっていたのである。



『うぉぉおお~~~~?!?!?!? アイドリーちゃんが、アイドリーちゃんが、ヒラッヒラの、ヒラッヒラのワンピースだぁああああああ~~~!!!!』


 ピンク色に白のフリルがこれでもかと付いており、頭の髪飾りには改造したピンクの宝石を持った妖精を付けられていた。背中には大きいリボンの装飾があり、足は白いニーソックスと超絶に短いスカート部分の間で絶対領域が生まれていた。最後に赤いリボンの付いた靴で地面をトントンと叩くと、観客に笑顔を振りまいて手を振る。


 王様、唖然である。彼女は一体何しに来たのかと周囲で騒ぎ始めたが、セニャルはまったく気にすることなくアイドリーにインタビューを始めてしまった。しかしあまりにも可愛いアイドリーに、セニャルの緊張はMAXだった。


『あ、あの、あの、アイドリーちゃん?今日は決勝なのですが? その恰好、は一体「あ、借りるね?『み~んな~こーんにーちわー♪』「えっちょ!?」


 観客達からは爆音の如き返事が返って来る。耳を澄ませる振りをしてウンウン頷くアイドリー。


『今日は、本当の私を告白したくて来たの、だから、少しだけ私に時間をくれませんか?』


 一瞬で静まり返る闘技場。全てアドリブである。


『私、本当の自分を隠して今日この日を迎えたけど、もうそんなの嫌なの!!だから、本当の自分を今日、皆に見て欲しい!!!』



 アイドリーは一瞬で白いローブを着てフードを被り、声のトーンを落とす。


『ある時はフードで顔を隠してさすらいの旅をする謎の女……』


 フードを取って剣を構える。


『ある時は戦場に身を置く可憐な女剣士……しかしてその実態はッッ!!』


 グルグル回ってローブを脱ぎ捨て、姿を現す。




『超次元魔法美少女アイドル、アイドリーちゃんですッッ!!!』


アリーナ:大興奮で周囲の観客と一緒にアイドリーコール。

レーベル:耳を塞いで全てを見なかったことにした。

王様:真っ白に燃え尽きた。



『どうして今日はこんな告白をしたのか…それは、私の親友を攫った悪い勇者さんを倒す為なのです!!!』


 そして早速爆弾を落とし、観客が騒めき始める。「勇者って俺達を救った存在じゃなかったのか?」「アイドリーちゃんに恐れて人質を取ろうとしやがったんだ!!」「なんて酷い、それでも勇者なの!?」と口々に言い始め、それが電波していった。可愛いは正義である。



『けど、聞いて下さい!!私は仲間と協力して、見事勇者から親友を取り戻しました!!! 来て、アリーナッッ!!』



 アイドリーは空間魔法と妖精魔法を複合、小規模の水色の煙を爆発で出して、アリーナ現れた、何故かアイドリーと同じ服の色違いで。観客が更に沸いた。


『アリーナ♪』

「アイドリー♪」


 二人が感動の抱擁をすると、女性陣からホロリと涙が流れ拍手が巻き起こった。可愛い少女が抱き合えば、それは兵器である。そも、2人は妖精。尊さで言うならばこの時代の人間には一切の耐性が無く、その状態異常とも呼べる愛しさの発露は全ての感性を凌駕する。


 ここでレーベル、嫌な予感がして闘技場から逃げ出したが、時すでに遅かった。



『そして最後に、私に力を貸してくれた力強く美しいお姉様に登場して貰います!! レーベルお姉様~~~~!!!』

「おかぁさ~~ん♪」


「やっぱりなッ!! そう来るだろうと思っとったよ我ッ!! もうなんでもきやがれってやつじゃ!!!」



 今度は赤い煙と供に登場したレーベル。いつも着ているドレスがアイドル風にチューンアップされており、谷間の見えるドレスワンピースになっていた。女性の完成された肉体美を見せつけるような恰好に、男連中は鼻血を流しながら凝視。女連中は涎を垂らして目がハートになっていた。



 2人で顔が真っ赤なレーベルの頬にお礼のキスをし、腕を組んで手を振る。やはりノリである。



『これが私のパーティ、『妖精の宴』ですッ!!』



 本邦初公開。王都の冒険者ギルドに一度も顔を出していなかったので、彼女達が3人パーティだということを初めて知った冒険者達は驚愕した。


『そして、私の親友を攫った勇者さんの登場っ!! 』


 空中にタンスが現れ、ステージの上に落ちる。衝撃でパカッと割れると、中から光輪で簀巻きにされた日野が現れた。既に目は覚めていたらしく、突然の状況に頭の上でハテナマークを立てる。


 そして自分に向けられているバッドコールの嵐に晒され、ようやく事態を悟った。今現在、詰みの真っ最中だということを。必死に弁解をしようと試みるが、アイドリーの声と観客の声で全て掻き消されて届かない。


『皆準決勝でレーベルが勇者さんに負けちゃったのを覚えてる?あれも、勇者さん達に仕向けられたものだったの!! 私、皆に嘘の勝負を見せたくなんてなかった!神聖な闘技場を汚すようなこと、したくなかったの!!』


 嘘は無い。実際にレーベルは試合を楽しんでいたし、不正を嫌っていた。八百長をしたのも脅迫の結果だ。どちらにしろ負けたが、誇張表現は自由である。


『だから今日は、本当の勇者との闘いで、私が強いってことを見せちゃうんだ!! 皆……応援してくれる?』


 応えは割れんばかりの声援とアイドリーコール。アイドリーは涙を拭う真似をして笑顔で『ありがとー、皆大好きだよー!!』と叫ぶ。何度も言うがノリである。


 そして全ての御膳立てが済んでしまったので、魔道具をセニャルに返す。ちゃんと返し際に『ありがとうセニャルちゃん♪』と満面の笑顔で買収。セニャルは「あ、アイドリーちゃんに名前呼ばれた!!」と、だらしない顔で受け取って司会を再開。





「あー最高の気分。今日あの目障りな奴をグチャグチャに出来るのね。向こうの世界じゃアイドルなんて面倒そうだと思ってたけど、いざああやって夢中になられると悪い気はしないし……私達が味わった苦しみに比べれば、軽いものよね……」


 控室で呼ばれるのを待っていた高坂は、これから自分に待ち受けてる地獄など知る由も無く、(妖精魔法で控室を事前に防音にしてある)自分の注がれるであろう称賛と名誉を想像してウットリしていた。

 自分は間違っていない。自分達は間違っていない。そうであって当然、そうあるべきだと信じて疑わない。彼女も彼も、そうでなければ自分を保ってはいられないのだからと……



『次は勇者彩音選手の入場です!!』


 これ以上無い程最高のタイミングで妖精魔法の効果が切れ、高坂は自分の名前を呼ばれてしまった。観客用の笑顔を顔に張り付け、聖剣を発動した状態でステージに顔を出すと、


「……え?」


 そこには、勇者に向かって最大級のバッドコールがされ、ステージの真ん中には、自分と同じ勇者である筈の日野が簀巻きにされて転がっていた。高坂の頭の中は大混乱に陥る。


(なにこれ、何であそこに攫った筈の奴とグチャグチャにした女とピンクのやつがアイドルの恰好して立ってんの? 何で日野が捕まってバッドコールされてんの? え? え?)


 思考がフリーズ仕掛けているところで、観客達が高坂の姿を見つけ、そちらの方にも罵声の限りをぶつけ始めた。



「おいてめぇー!!アリーナちゃんを人質に取って八百長なんざ勇者の風上にも置けねぇ屑が!! この偽勇者!!!」

「そうだっ!! この偽勇者!!」

「……はぁ?」


 あらん限りの偽勇者コールに、高坂は頭がどうにかなりそうになりながらも日野の元に歩いて近寄る。たかが冒険者に負けた不名誉な勇者に話し掛ければ自らの罪を認めるようなものだったが、今の高坂には正常な判断など不可能だった。


「あ、あんた……失敗したっていうの?」

「……」

 その問いに、日野は無言で返す以外の逃避が出来ない。沈黙を肯定と受け取った高坂は、即座に日野を蹴り飛ばして退場させた。そして、この事態を止めようとしないモンドールに対して殺気の籠った眼を向ける。


「ざ……ざっけんな!! おいモンドールッ!!! あんたこんなことしてタダで済むと思ってんの!?!?! このふざけた声をとっとと治めなさいよッッ!!! 私達がこの世界の為にどんだけしてやったと思っているのよ!!! 許さないわよこんなの!!?」


 勇者の憤怒の一声で、バッドコールが止んだ。しかしモンドールはその問いに対しては答えず、アイドリーの方をただじっと見ているだけ。2人はしばし見つめ合っていると、モンドールは1つ頷いた。


「……信じるぞ」


 王は静かに高坂の方に振り向き、威厳を持って言葉を紡ぐ。


「貴様等を……金輪際勇者とは思わん!! この守銭奴共め!!!! 例えどれだけの功績があろうと、それを笠に着て暴虐が許されると思うな!!!」


 その表情に恐れはなく、覚悟の決まった顔をしていた。



「……馬鹿じゃないの?」


 今まで散々自分達に頭を下げていた男が、此処に来て自分達を裏切った。その事実に、高坂の怒りのボルテージが振り切れる。



「ああ……もう良いや。滅ぼそう、この国」


 

 聖剣にこれまで吸収し、溜め続けた魔力を開放させた高坂。その力は全てステータスへと還元していく。その波動で空には雷雲を発生さえ、空気が振動し始めた。


 試合など関係なく皆殺しにしようとしていると判断したアイドリーは、セニャルに向かって叫ぶ。



「セニャルちゃん! 今すぐ開始の合図して!!!」

『はいッ!! 超次元魔法美少女アイドル、アイドリーちゃん対偽勇者彩音!!決勝戦開始~~~~~~~~ッッッ!!!!!!』




 人類の枠外で、武闘会最後の戦いが始まった。

『もう戻れないや……』

『逝って来い主よ』

『アイドリーカッコいいよ~ッ!!』

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