第56話 アリーナ救出戦② 妖精&レッドドラゴンVS勇者
『限定成長』後のアリーナの強さ
アリーナ(103) Lv.97
種族:フェアリー(疑似覚醒) :限定成長状態
HP 547/547
MP 3420/3420
AK 68
DF 2038
MAK 1184
MDF 3254
INT 10500
SPD 530
【固有スキル】妖精魔法 顕現依存 限定成長
スキル:隠蔽(SS)複数思考(S+)
アリーナの戦力は子供の状態と変わりはない。その代わりとして、『妖精魔法』を使いたい放題である。ある程度の限界はあるが、基本的には何でもアリのインフレ状態だった。
彼女が願ったたった一つの祈り。それにのみ特化した『妖精魔法』は、あらゆる理を捻じ曲げ、自分の想いの総量でその現象の有無が決まる。勇者の持つ女神から与えられたスキルが生み出した領域を支配するという事は、彼女の想いがそれを超えている事に他ならない。
それが意味する所を、この時点で知る者は居なかった。
「まずはそこの目障りな奴からだ!!」
日野が最初に狙ったのは、やはりステータスで圧倒的に劣るアリーナ。だが、それをさせる程レーベルは甘くない。
「ぐっ!? 貴様ッ!!」
「分かり易くて大変結構じゃのう小童」
ハルバードを日野に向かってぶん投げたレーベル。日野がそれを聖剣で弾くと同時に、頬を殴り飛ばされた。だが聖剣状態である日野のステータスもまた10倍まで上がっている為、ダメージはほとんど無い。
だが一撃で鉄が砕けるほどの力で殴られれば、その衝撃が消えようと恐怖は増すばかりである。何より彼女には傷付く事を恐れない狂気があった。
「やはり普通に殴っても固いのう!」
「クソが、だったらお前からだ!!」
「レーベル!! 固くなって!!!」
日野がレーベルに狙いを移し攻撃をした瞬間、今度はアリーナが動いた。妖精魔法によりレーベルの周囲の空間が歪み、透明な壁を作り出す。
鈍い音と供に、聖剣はそれに当たって跳ね返った。オリハルコンすら真っ二つにする剣を。
「――――ッッ!?!? そ、そんな馬鹿な!?」
「ほれ、余所見しとる場合か?」
「な、おごっ!!」
そこにレーベルの蹴りが顎にクリーンヒットし、咽返りながらまた吹っ飛んでいく。2人はハイタッチしながら戦いを楽しんでいた。すぐに起き上がりその光景を目にした日野は、理解出来ないやり取りに一瞬キレそうになる。
「ぐっ……なるほど、水色の方は厄介なスキルを持っているようだな。なら、これならどうだ」
日野の居る空間が歪曲し、日野の姿霞の如く消えた。レーベルは直ぐにアリーナに走り寄って背中を合わせる。
「聖剣のスキルか……恐らくは指定した範囲に自分の空間を作り出す能力なんじゃろうな」
「それに加えて、空間内をどこにでも繋げられるんだと思うよ。時間は掛かるみたいだけどね、だからッ!!」
「ちぃっ!」
アリーナは真上に顔を動かして空間を歪めると、そこから日野が出て来た。そして突き出された聖剣をまた弾かれると、姿が消える。
「と、こんな感じになるんだね」
「頼もしいのう……だが、あまり時間も掛けたくない。アリーナよ。自分を守りきれるなら、我は勝負に出る。良いか?」
「アイドリーから何か勇者対策して貰ってるんでしょ? あの子なら絶対にやる」
「良く分かっておるな。では……『超同調』発動」
瞬間、レーベルの身体が巨大なレッドドラゴンに戻った。アリーナはそのままレーベルの傍を離れる。『妖精魔法』をオートで発動させているので、彼女は不意打ちをされても全て防ぎきる自信があった。
『さて……』
レーベルは『龍魔法』を発動する。ドラゴンの能力は、龍魔法の精度でも大きく変わる。レーベルのスキルランクならば、それは途轍もなく鋭敏となり、感覚を嗅ぎ取れば、どこに居ようが、違う位相に居ようが関係無くなる。
ましてや、今の彼女はアイドリーのステータスを借りている状態である。
『………そこじゃッ!!!!』
AK8000万越えの尻尾の一撃が、空間が歪曲し始めた位置に向かって全力で振るわれた。日野のDFは聖剣の力込みで40万少々、どう足掻いても即死である。だが、それが当たる瞬間、レーベルはアリーナにギリギリ止められた。
『何故止めたアリーナッッ!!』
『アイドリーがその人を必要とすると思うから殺しちゃ駄目!! 私が妖精魔法で縛るから、瀕死ぐらいで抑えて!!!』
『ぬぅぅううう!!!』
軌道の逸れた尻尾の一撃を見て、日野が驚愕する。自分の居場所を見切られたこともそうだが、何故か言葉を喋るドラゴンが出現していたのだから。
「人間ではなかったのか!? だったらそのステータスにも納得が出来る。貴様、本当にあのピンクの女の従魔だったとはな」
『そういうことじゃ。この姿になったからには貴様に勝ち目は無い。大人しく投降すれば9割殺しで勘弁してやるぞ?』
「馬鹿め、聖剣の力は魔族以外でも、龍に最もその効果を発揮するのだ!! 命乞いをしたところで許さんぞ!!」
そしてレーベルの後ろに回り込むと、聖剣による一撃がレーベルの尻尾を捉えた。しかし、
ガキィィィッ!!
「んなッ?!?!」
聖剣は、鱗を貫くどころか弾かれた。自分の攻撃の反動を逆に喰らい、手に痺れを感じさせる。
「聖剣で貫けないだと!?」
『その剣がどれだけの力を備えていようと、今の我には効かぬよ。こちらにはアリーナが居るからのう』
アリーナは遠くから妖精魔法を行使してレーベルを守っていた。見れば、微妙にだが、鱗が全て形を変えているのだ。形状変化と聖属性を付与したことにより、今のレーベルはただのレッドドラゴンではなかった。
白く、白く。聖剣よりも尚白い純白の鱗が広がり、目の前に白銀の龍が現れた。
『今の我は、限定的に聖龍になっておる。その聖剣で攻撃するなら。純粋なステータス勝負になるが、貴様のステータスと我のステータスではそれが覆ることは絶対に無い。諦めることじゃな』
それを聞いて、日野は一度逃げることを画策したが、
今度は聖剣の特性が発動しなかった。
「な、なぜ…っ!?」
「私が半径100m以内の空間を全部支配下に置いたからだよ。もうこれで、貴方は何処にも行けないよ」
無茶苦茶なことを言いながら現れるアリーナ。彼女は日野がレーベルに集中している隙に、逃がさないように空間の掌握を行っていたのだ。
「……」
日野は詰んだ。唯一逃げる手段は走って2人を撒くことだが、ドラゴンの機動力から逃げ切れるとは到底思えない。倒そうにも、勝てる手が無い。そもそも、ステータスでこちらを超えられる事が初めての経験だった日野にとって、自分が立てた計画が如何に無謀だったのかを思い知る。
どうしようもなくなった日野は、破れかぶれに攻撃を繰り出そうとしたが、
『それが答えか、では眠れいッッ!!!』
「げ、ぎゃぁああああッッ?!?!?!」
ギリギリ力を抜いた尻尾の一撃は、日野の上半身と下半身をお別れさせてしまったが、ミンチだけは免れた。絶命一歩手前の断末魔を上げながら大岩にぶつかり、白目を剥いて倒れ伏す。
アリーナは激痛で失神した日野の身体を『妖精魔法』でくっ付けて光輪を出して縛った。レーベルはそれを心配そうに見てくる。
『そんな光輪如きで縛れるのか?』
「この光輪は特別性だよ。相手の魔力を根こそぎ吸い取ってどんどん頑丈になっていくから、気が付いた頃にはスッカラカンでまともに動けないと思う」
「な、なるほどのぅ……」
(めっちゃ恐ろしい効果じゃのう……)
容赦の無い物言いである。アリーナはその光輪で日野を簀巻きにすると、寂しそうな顔をしてレーベルにお願いをしてきた。
「レーベル、私この状態だとアイドリーとまだ上手く同調出来ないみたいなの。だから、貴方が変わりに伝えてくれないかな?」
『任された』
レーベルの連絡が終わった後、私は勇者をレーベルの足にロープで括り付けた。
『出来たか?』
「うん、帰ろっか」
『うむ。主はきっと吃驚するじゃろうなぁ』
「あはは、私もそう思うよ」
私はレーベルの背中に乗ると、2人で空の散歩をしながら王都の近くまで飛んでいく。勿論私が妖精魔法を使ってレーベルを見えなくしているから安心だよ。
夜、王都付近で降ろして貰い、レーベルは元の人間状態に戻った。けど、何で縮んでるの?体形がアイドリーよりも小さくなって、5歳くらいの女の子になってるね。
「我にもよく分からんが、多分スキルのクールタイムじゃろう。明日には元に戻ると思う。それより、隠蔽を使って早く中に入ろうぞ。さっきから主の声が頭に響いてくるのじゃ……」
「うん、行こう。あ、私はサプライズってことで!」
「そうくると思ったのじゃ」
勇者を袋に押し込んで、私は隠蔽スキルと妖精魔法を複合した。これで三人一緒に入っても門兵にはバレない。夜は明日の決勝戦について、どこもかしこも話題で持ち切りだ。アイドリーはやっぱり皆の人気者なんだね。
しばらく歩くと、アグエラさんの宿屋が見えた。外には、白いフードを被った女の子がずっと立って待っているのが見える。私はその人に近付いて声を掛けた。私の最高の友達に……
「ただいま、アイドリー」
「…………えっ? アリーナ……なの?」
一瞬誰だか分からなかったのか、私の髪色で判断して名前を言うアイドリー。私に対してそんな呆けた顔するの初めてじゃないかな?
なので、私は少しおどけて答える。
「そうだよ。吃驚した? っとと」
返事の代わりに抱きしめられた。私も抱きしめ返すと、お互いの体温がゆっくりと浸透していく。ああ、帰って来れたんだなぁって実感する。
「よがっだ……本当によがっだぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”、う”あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”~~~~~!!!!!」
そして、アイドリーはそのまま泣き出してしまった。大号泣である。
普段のクール振りがどこへやら、全力で感情を表現するアイドリー。私は「可愛いなぁ……」と心の中で呟きながら、綺麗なピンク色の髪を撫でるんだけど、するとアイドリーは更に泣いてしまう。
ああ、どうしてだろう。どうしてこんなにアイドリーが愛おしいのだろう。私の心は、何時だってこの子の事しか考えていない。何をしていても、この子を思いながらしてしまう。けどそれ以上に、私自身がこの子を大好きだと思ってしまう。私という存在が”私の心”よりもアイドリーを求めている。
だからアイドリーにずっと笑っていて欲しいのだ。その心の想いに殉じたいのだ。
「心配掛けてごめんね、アイドリー。助けてくれてありがとう……大好きだよ」
「わだじもだいずぎぃぃぃいい~~~~」
私達はお互い強く抱きしめて、無事を祝った。
「……我も居るんじゃよ?」
じゃあほら、おいでおいで。
『限定成長』したアリーナは負担無しで妖精魔法を使える為、INT依存の妖精魔法同士の戦いの場合、アイドリーは素のステータスでアリーナに負けます。アイドリーが妖精魔法を使いINTにステータスを全振りした場合はもっと恐ろしいことになりますが。