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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第55話 アリーナ救出戦① アリーナの本気

 アリーナは、自分が狙われる存在になる可能性を王都に入る前から感じていた。アイドリーやレーベルが目立つ行動を取る以上、誰かに目を付けられるのは確実だったからだ。だが、普通の人間が二人に敵うことはまず無い。


 しかし、それならば、アリーナならばどうにか出来ると考えるのが普通である。アリーナはステータスはある程度高いが、それでも人間の中では上の下だ。戦闘もアイドリーの手伝いで何度も戦っているが、自分一人で行動はしたことが無い。


 だから、自分が一人になった時の想定を、アリーナは将棋をしながら永遠と繰り返していたのだ。捕まった時。気絶させられた時。一人で襲われた時。あらゆる事態を想定して……




「……どこだろう?」

 意識が戻って起き上がると、見渡す限り何も無い場所だった。そこには不定形ともいえる空間だけが広がっている。地面もブヨブヨと反発するだけ。気持ち悪い模様が絶えず動いているが、衝撃や混乱といった物は無かった。


 分かっているのは、自分が捕まってしまったという事実だけ。だが相手の正体も、捕まった理由も、これからどうなるのかすらも、今の彼女は既に分かっていた。


「アイドリー……」


 だが自分が思っていたよりも早くその時が来てしまった為に、アリーナは少しだけ不安を抱く。だが、どれでもアリーナのやることは一つだった。


 捕まった時の対抗策を講じるならば、今だと。


「アイドリーなら……レーベル、行かせる」


 アリーナはレーベルと同調で繋がっているのを今も感じている。だが言葉を交わす事が出来ないのを考えると、この空間に遮断されていると考えられた。

 次、アイドリーがどうするかを考えると、アイドリーには空間魔法がある。レーベルがこちらの位置を同調で分かっているだろうから、空間魔法でレーベルの本体を飛ばしてくる筈だと読んだ。


「後は……タイミング」

 

 自分が攫われた理由は、アイドリーとレーベルが武闘会で目立ったから。それを一番気にするのは、アイドリー達よりも先に演出を行った勇者である可能性が高く、自分を攫った相手も勇者であると思っていた。

 とすると、自分を人質にして試合で負けることを脅迫してくる可能性が高い。棄権では不自然だし、勇者と戦って健闘した果てに負ければ観客が盛り上がるからだ。


 そうなると、レーベルが準決勝で勇者に負ける必要が出て来る。そして準決勝は明日行われるだろう。アリーナはその間ここで一人だが、それは耐えられる。


「……うぅ……ぅううぅぅ~~~~~~……っ」


 ただし、レーベルが勇者にどんな仕打ちを受けるのかと思うと、アリーナはそれだけで泣いてしまった。


「ぐす……ずずずぅぅ~~~……ふー……よし」


 だが、アリーナは鼻を啜って耐える。今やるべきことは、ただ待っていることではないんだと自分に言い聞かせて、アリーナは立ち上がった。


(イメージ……イメーージ……)


 だからアリーナは、アイドリーに内緒で自分を守ってくれる存在を妖精魔法で作ろうとしていた。この一ヶ月余りの間ずっと。イメージし続けていた。


『妖精魔法は本当に便利だね。負担を考えなければ、どこまでも自由に使える。自分の心次第で、どこまでも夢を広げられる……なんだって出来ちゃう……』


 アイドリーがいつか、修業時代にそんなことを口走っていたのをアリーナは思い出す。



「私を守れるように……私自身が、強くなる為に!!!」


 アリーナの頭が急激な勢いで熱を発し始めるが、それを精神力で抑える。自分に必要なものを片っ端から構築していく。自分に必要な『者』を頭に思い描いていく。


 アイドリーにとって、理想の自分に成れる対等の存在を……







「なんじゃ、ここは……?」


 レーベルが宝石状態でアイドリーに『転移』させられて辿り着いた先は、不定形がどこまでも広がる亜空間だった。

「これは特性で出来た空間か?なるほど、此処にアリーナを入れて持ち歩いた、ということじゃな。なら、」


 同調で声を繋げる筈だ、とレーベルはアリーナに呼びかけた。


『アリーナ、居るか? 居るならば返事をせよ。アリーナ!!』

『…………………ん? レーベル?』

『おお、おったか!!』

 声の届いた先に向かって、レーベルは走った。すぐに自分の見知った顔がそこに居てレーベルは安心した顔を見せるが、どうにも違和感に気付く。



「レーベル、大体予想通りの時間に来たね。怪我は無い? 大丈夫?」

「う、む……? お、おいアリーナよ……お主、そんなに身長が高かったか?」



 アリーナの身長が、レーベルと同じぐらいの高さまで成長していたのだ。顔も大人びており、何より身体付きが違う。喋り方も、子供のたどたどしいものではない。大人の落ち着いた女性を思わせる優しいものだった。


 まるで少女を大人にした姿がそこにあった。


「レーベルは準決勝が終わって来たところ、だよね?」

「そうじゃが……一体何が……その状態は主の入れ知恵で何かしたのか?」

「違うよ。これは私が妖精魔法を最大限使えるように編み出したものなの。『限定成長』っていうスキルなんだけどね」



 そう言って、アリーナはスキルの内容を話し始めた。『限定成長』は、アリーナのINTの高さを利用して妖精魔法により作り出された固有スキルだった。


 効力は単純。発動すると、一日の間だけアリーナは100年精神が成長した自分を呼び出せる。その状態の自分は妖精魔法を限りなく負担0で使えるというものだった。


 ただし、このスキルのクールタイムは2日と長く使える場面はかなり限られてくる。



 以上の説明を受けたレーベルは、内心で一つの謎にぶち当たった。


(……妖精とは精神年齢が上がる生き物じゃったか?)


 本来アナスタシアの様に数百年生きていても、元々ある妖精の精神は変わらない。何故なら妖精達がそう振舞うのは、それが”ごっこ遊び”だからである。所詮は演技の延長戦でしかない。根本が変わらないのなら、扱う妖精魔法もそのままなのだ。


 だがアリーナの状態は、言わば”大きくなったアイドリー”と同じなのである。根本も含めて。その構造がどうなっているのかまではレーベルには分からなかったが、少なくとも雰囲気は

かなり酷似していると感じていた。


 という疑問を、彼女は「ま、どうでも良い事じゃよな」と数秒で切り捨てる。


「では今のアリーナはその状態なのじゃな。使って今どのくらいじゃ?」

「まだ10分くらいだよ。そろそろレーベルが来る頃だろうと思ってたもん、えへんっ♪」


 笑顔は昔のアリーナのままだが、レーベルはこの少女の評価を大きく見誤っていたことに、自分を情けなく思っていた。


「我はてっきり……お主が泣いて助けを待っているかと思っておった。だが、自分で何とかしようと……お主も、頑張っ…て…おったのじゃ、なぁ」


 レーベルはアリーナを我が子のように愛でていた。まだ数週間の付き合いだが、レッドドラゴンである自分に恐れることなく友達だと言って接してくれるアリーナが大好きになっていたのだ。

 だが、アリーナは弱く、自分が守ってやらなければなどと思っていたのに、アリーナがこんなにも急成長を遂げ現状を打破しようとしていたことに、感涙してしまった。


「あーもう、レーベル泣かないで? 助けに来てくれてありがとう。ほら、さっさと二人で此処から出よ?」

「う、うむ。そうじゃな……そうじゃな……」


 頭を撫でられながらレーベルはもう決して離してなるものかと、アリーナの手をキュっと握りしめるが、



「そうはいかない」


「「ッ!?」」



 空間が歪曲し、中から一人の男が出て来た。恰好は勇者に似ているが、鎧は軽装で、聖剣も形が多少異なっている。片目が髪に隠れており、黒い瞳が不気味に二人の姿を映していた。


 もう一人の勇者、日野である。


「まったく、中に誰かが入ったもんだから慌てて来てみれば、何でお前が此処に居る? 試合で高坂から無残にやられたと聞いていたが……どうやってここに入った?」

「言う必要があるのか? 腐れ外道が」

「勇者に言う言葉じゃないな。ここは俺の場所だ。家主の家に勝手に入ったら、理由を言うのが筋だろう?」

「それは人間の理屈じゃな。我には通じん。何よりそちらは誘拐犯じゃ」

「誰も知らず、気にもしなければそれは犯罪じゃないさ。お前達は冒険者。全ての損害は自己責任、だろう?」

「誠その通りじゃな。では全力で貴様に被害を被せてやろうぞ」


 レーベルは炎を体中から放出させ始めた。漸くアリーナを攫った相手に対面出来た事に、心の中で燻っていた怒りが溢れ出したのだ。だが手を握られているアリーナにその熱がまったくこない。



「馬鹿が、此処は俺の場所だと言った筈だz―――」

「もう違うよ。貴方の場所じゃない」

「「……は?」」



 アリーナは手を翳すと、一瞬で世界がファンシー一色のピンク世界に早変わりした。



 レーベルと日野が二人揃って目をひん剥く。今さっき怒りに打ち震えていたレーベルは素っ頓狂な事態に付いて行けず、同調でアリーナに話掛けた。


『い、一体何をしたんじゃアリーナ!?』

『この世界その物があの勇者の聖剣の特性みたいだったから、妖精魔法で無理やり空間を作り替えただけだよ。私達が外に出れば、また制御を奪われちゃうけどね』


 とんでもないことを言い出していた。アイドリーよりも滅茶苦茶なことをやりだしたアリーナに、レーベルは頭を抑えて唸る。「妖精魔法……ぶっ飛び過ぎだろ」と。



「書き換えてる途中で特性を見させて貰ったけど、この空間内なら貴方はほぼ無敵みたいだね。けど今は私が掌握したから、ここから私達を出さないと貴方負けるよ?」


 それを日野も分かっていたのか、アリーナを強く睨み付けながら聖剣を発動させた。

「……くそ、止むを得えないか。放出!!」



 二人の視界に太陽が映った。場所を確認すると、いつか見た草原である。アリーナはこの場所を覚えていた。


「ハバルの……草原?」

「なるほど、短期間でこんなところまで来るとはな。聖剣を発動しながら走ってきたな?」

「ふん、もっと遠い場所で捨てる手筈だったが、これは予想外だった。だけどまぁ……問題無い」


 日野もまた、光の下に出て来て武器を構えた。ここで自分の正体を見られ邪魔された以上、殺すことは確定。アイドリーも武闘会後に殺すことを決めていた。


「勇者に逆らい、あまつさえ牙を向くとはな。余程死にたいというなら、今ここで殺して魔物の餌にしてやるよ。お前達は……勇者の邪魔だ」




 もう逃げるという選択肢はお互いに無かった。どちらも確実に勝つと思っているのだから、逃げようという事自体勘定には入っていないのだ。


 一つは、何物にも負けない力を携えて。

 一つは、何もかもを守れる祈りを籠めて。


「アリーナ、やれるんじゃろうな?」

「当然、その為の力だよ」



「………始まった、かな。頼んだよ、レーベル……」

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