第6話 相棒のレベル上げ
私達はノルンさんと合流し、場所を移して王座の間に来ていた。事は妖精郷の一大事だそうなので、他の妖精達には聴かせたくないんだってさ。
アリーナ?さっきからニッコニコして私の腕に抱き付いているよ。うん、付いてくる気満々だね。微塵も私が拒否することを予測していない。それだけに断れない!!これは無理だ!!
それを分かっているのか、テスタニカさんは苦笑いしながらも説明を始めてくれた。
「世界樹から生まれた妖精達の中で、今アリーナより若い子は居ないわ。同時に、アリーナと同い年の子も居ないの」
「ここ数年で世界樹から生まれたのはアリーナだけってこと?」
「そうよ。通常はね、1年に何匹かは妖精が生まれるのよ。世界樹の化身は一定期間で生まれるようになってるから。それが無いっていうことは、人間で言えば子孫繁栄が途切れている状態ってことよ」
詰まるところ、種族絶滅の危機ということらしい。世界樹から妖精が生まれなければ、いずれ絶滅するまで自然に還るのみって、本当にピンチじゃん。
「そんなに世界樹に元気が無かったの?」
「触ってみた感じ、来るべき時に備えて力を蓄えているって感じだ。その所為で妖精が生まれ無くなってるんだ」
(みた感じってところは無視するべきなのかな?)
「来るべき時っていうのは?」
「考えられるのは、何かとても大きな脅威に晒されているって可能性よ」
「正確には分からないんだ」
「そりゃあね。何百年か前に生まれた魔王が原因で、十数年妖精が生まれてこなかったっていうこともあったから。今回もそれに類似するものだと思っているのだけれど……」
魔王か。世界樹にまで影響与える存在って、そんなのに勝てる人居るのかな?私も馬鹿みたいに強くなっちゃったけど、勝つのは難しいと思うし。今のところ戦う気も無いけどさ。
「で、それがアリーナを連れて行くのとどんな関係が?」
「あら、貴方私よりも強いんだから、人間の世界に行ってもまず勇者以外には負けないと思うわよ? そんなに強いなら、アリーナ1人連れてっても問題無いじゃない」
「そりゃあまぁ……けど、アリーナの存在が人にバレる可能性もあるでしょ?」
「ああ、そっか。貴方は知らなかったわね。大丈夫、人間には通常妖精は見えてないわ」
「マジですか」
なんと、それは新事実だ。リアル透明人間出来るね。
「私達は自然に近い存在だからね。特別な眼を持つ……例えば魔眼の類を持っている人になら見える程度よ。だから、妖精が自分から姿を現そうと思わない限りは平気よ」
「へぇ……」
私自身が妖精だからまったく自覚が無かった。幻とか伝説の存在とか呼ばれてそうだね。というか、そういう人に出会う可能性もあるんだから危険に変わり無いのでは……?
「まぁ心配なのは分かるけど、アリーナのステータス見てみなさいな」
「へっ?」
アリーナ(3) Lv.5
種族:水妖精
HP 85/85
MP 210/210
AK 23
DF 34
MAK 56
MDF 73
INT 12
SPD 65
【固有スキル】妖精魔法(水) 顕現依存
スキル:隠蔽(B)
「何で『隠蔽』持ってるの? しかも地味に高いんだけど!!?」
「アリーナはかくれんぼで最後の方まで残ってたのよ。アリーナの次がノルンだったし」
「いえ~す♪」
お、おぉう……隠れた才能ってやつかな? 私が思っているよりも、アリーナさん実はハイスペックを秘めている可能性があるの? 大器晩成型なの?
本人はフンスフンスしながら自信満々な表情である。むぅ……ほっぺコネコネしたる。
「あぶぉ~~♪」
「あ、駄目だ可愛い」
「で、本題なんだけど。旅の間、世界の情勢を報告して欲しいのよ。これ渡しておくから」
テスタニカさんは二本の細長の丸い棒?みたいな物を渡してきた。大きさは手の平サイズ、中心に妖精文字が刻まれていて、その周りに細かな細工も施してあった。材質は木、というか世界樹かなこれ。
「それは先代の女王が作った通信の魔道具よ。世界樹を削って作ってあって、同じ物を持っている人とやり取りが出来るわ。端末同士が離れる程使う魔力が加速度的に増えるけど、私と貴方ぐらいの魔力があれば、少なくとも私は30分ぐらい持つわね」
おお!! この世界で限定的とはいえ、携帯電話っぽいものを扱えるとは。多機能が無いのは辛いけど、文明の利器にはやはり愛着があるよね。
「で、こっちの方も持ってってね」
「これは?」
何かの巻物のようだ。こちらも細工が入っているが、素材が金で出来てるみたい。見た目に違わず重量がある。
「これは貴方が信用出来そうだと思った人間の代表者に渡して欲しいのよ。この世界の王族には、古い歴史を遡れば妖精との【盟約】が存在するの。だから、これを渡せば協力者になってくれるわ。これはその書簡」
それも初めて知ったよ。妖精相手に盟約……よっぽど何かあったんだろうね。ただ、それを知っているのはごく限られた人間だけらしいので注意が必要のこと。うん、気を付けよう。
「渡す人にだけ正体をバラせば良いの?」
「貴方は人間の状態でも良いわよ。アリーナを見せれば一発だと思うし」
「なるほど、アリーナは大使役か」
「たいし~?」
「妖精代表ってこと。シンボルさんだね」
「おぉ~、まかされたし~♪」
確かにアリーナは妖精そのものって感じだものね。私だと人間っぽいとこ出ちゃうから信用されるの難しいだろうしね。逆にノリに任せたら酷い事になりそうだ。色々な意味で。
「期限は特に設けないけど、なるべく早い方が助かるわ。この周辺の魔物もどんな影響を出してくるか分からないし」
「うん、なるべく留まらないようにするよ」
さてさて、なら相棒の準備を始めないとね。予定が押してしまっているし。
「さぁアリーナ。旅に同行するのは認めるけど、旅に出る前にすることがあるよ」
「なにー?」
「それは……レベル上げさ!!」
「おぉ~」
アリーナの安全を保つ為に、私は彼女のレベルを底上げすることに決めた。具体的には、アリーナに一撃入れさせて、その後私が瞬殺していくスタイル。近接戦闘ではなく、遠くから石投げさせたり妖精魔法で攻撃させるのに留めるけど。
「上げたら着いてっていーい?」
「勿論、この世の果てまで連れてってあげる。大冒険の準備ってワクワクすると思わない?」
「おぉぉ!! するー!! やるー!! 大好きアイドリー!!」
「よし、結婚しようアリーナ。チャペルはどこが良い?」
「おい待て馬鹿者」
おや、ノルンさんじゃないですか。どうして私の首筋に剣を?
「妖精なのに結婚の概念を求める馬鹿が居るか」
「愛の形は妖精それぞれでしょう!?」
「泣くほどのことか馬鹿者……旅に出る前に、お前、人間の服や最低限の装備は準備したのか?」
……っは!
「その顔の様子だとしていなかったようだな。なら話は早い。ある場所へ案内しよう」
着いて行った先は倉庫だった。ここには干し肉や野菜、穀物類が貯蔵されてるのは知ってるけど、何故ここに? って、ノルンさんが箱の一つをどかしたら、床面に隠し扉が現れた。そこを開けて、備え付けてある階段で地下へと降りて行ってしまう。
「ここには、過去にこの周辺で亡くなった冒険者達の装備が入れてあるんだ」
「何でそんなことを?」
「コブリン達との物々交換に使える。彼等はドワーフとも繋がりを持っているからな。そういった物を売ってたりもする。剣や鉄防具は溶かせば素材として使えるし」
その代わり、妖精には香辛料や珍しい食べ物、ちょっとした嗜好品等を提供してくれるらしい。私達は身体が小さいから、樽一つ分の香辛料でも数年は暮らしていけるぐらいだ。
「コブリン達もかれこれ五年は来ていない。それなら人化出来るアイドリーに使って貰っても良いと思ってな。気に入った物を妖精魔法で加工するぐらいお前なら簡単だろ?」
「そりゃあまぁ…」
それでも、死んだ人の装備使うとか拒否感あるよ流石に……
「ちょっとした物かと思ってたけど、凄い量だね」
下に着いてみれば、そこは上の倉庫よりも広い空間が広がっていた。地下室のところせましに並ぶ様々な防具や武器。どれも年期が入っていて、中には使え無さそうな錆びたり腐ったりしている物もあった。
「これ、古いのはどのくらい前の物なの?」
「形が崩れてしまっている物や化石化している物もあるしな。大体数千年前じゃないか?私も多くは把握出来ていないさ」
そらそうでしょうね。アリーナはおっきな兜に入って飛び回ってるけど、こらこら危ないよってうおいっ!!?
「あら~?」
「アリーナ!? その禍々しいフォルムした兜でこっちに突っ込まないでぇえ!!」
「ありゃりゃ、そーりー」
なんて自由な…正しく自由奔放な妖精のあるべき姿だよまったく。
「………いいなぁ」
「ノルンさん?」
「え、あ、んんっ!! さて、さっさと『人化』して選んでしまえ。気に入った物はどんどん空間魔法で仕舞って良いからな」
やはり妖精の本能には逆らえきれないのか。ノルンさんでさえウズウズしてしまっている。これは急いで選んでしまった方が良いようだ。我慢させるのも悪いし。
「とっとと終わらせて、三人で遊びましょうね?」
「う、うむ……」
さて、私はぶっちゃけ軽装備でまったく問題無いから、皮製にチョコチョコ金属を引っ付けてそれっぽくしようか。さてさて、無事なやつは~っと。
「……お、あった。適当な鉄は~こっちかな。うん、適度に品質も良さそう」
そうやって私はどんどん必要な部分を選んでポイポイ空間魔法で仕舞っていく。因みに空間魔法とは別にアイテムボックスという固有スキルもあるらしいが、容量は比べるべくも無い、と思う。広過ぎて限界まで入れた事無いや。ドラゴン入ったぐらいでとりあえず止めたし。
「って、そうだよ。魔物の素材とかって使えないのかな?」
折角強靭な魔物の素材があるのだから、それで防具を作ろう。主にアリーナのを。私は皮でも布でも、結局攻撃が通らないと思うから問題無い。
(ってことはアリーナのスリーサイズを測るというイベントが発生する?おっと鼻血が)
愛が溢れそうになるのを抑えながら、私はアリーナの装備に使う素材とデザインを考えながら、二人の所へ戻って行った。
ああ、ノルンさんがアリーナと一緒にきゃーきゃーやってる。
「ノルンさん、終わったよ」
「あっ……うむ」
「遊ぶ時ぐらい素でも良いんだよ?」
「いや、あれだ。ごっご遊びばかりしていたから、どっちが素か自分でも分からなくなってしまって……昔の自分に戻ると恥ずかしく思ってしまって……」
「ノルンさん、重婚って知ってる?」
「どういうことだ!?」
いや、駄目だね。ノルンさんギャップがヤバいね。恥じらう乙女だね。普段は騎士風の鎧でキリっとした佇まいだし、言動の一つ一つも洗練されていて、正に騎士役に心の底から徹していているのだ。しかも強い。
そんな人がアリーナと同じように遊び出してしまうのだ。しかもそっちが素なのだ。子供のように無邪気なのだ。
「これでテスタニカさんもギャップ萌えさせてくれたらアリーナと合わせてハットトリック達成だね。全員私が幸せにしてみせるよ!!」
「沸いているのかお前は!?正気に戻れ!!」
「にゃはー」
「アイドリー、なんでアリーナを脱がす?」
「アリーナの装備を作る為だよ。そう、これは必要なことなのさ!!」
「ういー」
幸せな一時を得て、私はアリーナの防具と武器を完成させた。前世の私よ、よくぞバイトで内職の裁縫をやっていた。今、美少女の服を作るという貴方の願いの一つは達せられたよ。
「痛いところとかキツイとことか無いかな?」
「だいじょーぶ」
その場で一回転したり、色んな動きをしてるが、特に問題は無いようで安心した。
アリーナに使った装備は色々な魔物の素材を使用した。伸縮自在のブロウサーペントの皮を使って服を作り、ドラゴンの鱗を加工して防具を作り、牙でナイフを拵えた。我ながら良く出来たと思う。だってそんな知識まったく無いし。妖精魔法が便利過ぎる。
それと、後から気付いた。装備によってステータスも多少変動するらしい。
アリーナ(3) Lv.5
種族:水妖精
HP 85/85
MP 210/210
AK 643(+620)
DF 431(+397)
MAK 56
MDF 310(+267)
INT 12
SPD 50
【固有スキル】妖精魔法(水) 顕現依存
スキル:隠蔽(B)
AKとDF、MDFが凄まじく上がっていたのだ。やはり良い素材使うと結構違うものなのかな?私はこれまで鉄の剣しか武器として装備してなかったし、余りにも微々たるものだったから気付かなかったんだよね。何にしろ、これからも良い素材が手に入ったら随時アリーナの装備をカスタマイズしていこう。
「よし、アリーナ。改めてレベル上げをしに行こう」
「おーら~い」
二人で妖精郷の外に出た。私は人化して作った服と鎧を身に着ける。こっちは簡素な皮と鉄の防具と、ちょっと良さげな剣を装備。材質は鉄だが他のより切れ味も良かったので持ってきた。折れても予備でまた別の鉄の剣使うし。
「れっつごー」
「おー♪」
最初に見つけたのは、大きくて毛深い魔物だった。息荒いなぁ……
名無し(17) Lv.34
種族:レッドベア
HP 653/653
MP 55/55
AK 313
DF 527
MAK 3
MDF 240
INT 3
SPD 389
スキル:獣闘拳(C)獣毛(C)火の息吹(D)
見た目は熊、ただし赤い。初めて見る魔物だけど、こいつは防御特化のようだ。けど熊なのに息吹攻撃するの?
「ガァアアア!!」
レッドベアはこちらを見つけると迷わず突っ込んで来た。口の隙間から火が見えるから、突撃しながら火の息吹をするつもりか。若者よ、判断を誤ったね。
「アリーナ、私が水の膜を張って火の息吹を防ぐから、上から水系の妖精魔法で攻撃よろしく!」
「あいさー」
アリーナが飛び上がっていくのを見て、私は即座に四属性魔法を唱えた。
「吹き上げる水しぶきよ、全てを防げ!!」
地面に手を付け詠唱すると、地面を割って水の壁が生成される。丁度そこにレッドベアの息吹が当たるが、蒸気が出来上がるだけで、壁を突破出来ずにいた。というかメッチャ楽しい。詠唱とか戦闘時にするとか普通自殺行為だからね。こういう余裕がある時言っておかないと!
そしてレッドベアが足を止めたところに、
ズッドンッ!!
「ガァッ!?」
アリーナの水球が高い轟音を上げて直撃した。頭に当たった為、レッドベアはバランスを崩して転ぶ。そこに私が飛び込んで、首に向かって剣を振るった。難なく骨ごと断ち切り、レッドベアの首が飛んでった。
私が現れた瞬間直ぐに迎撃態勢取られたのは驚いたけど、私の方が速いから間に合わなかったね。
「お疲れ~中々凄い威力だねアリーナ」
「がんばった!」
にぱーっとしながら私の肩に止まり、顔を擦り付けて来るアリーナの頭を指で撫でながら、私はレッドベアを空間魔法で収納した。この調子ならすぐに終わりそうだ。
「それじゃあジャンジャン狩ろう」
「ういー」
数時間後、アリーナのDFとMDFが1000を超えたのでレベル上げを終えることにした。レベルは100いかないぐらいだけど、不足の事態には十分対処出来るだろう。
「一杯狩ったー♪」
「そうだねぇ。お肉も沢山手に入ったし、今日はまた皆でお祭りかな?」
「やったー!!」
色々あったけど、これで本当に旅の準備が整った。後は残り少ない時間、妖精郷で心行くまで楽しもうと思う。感慨深い思いが流れるけど、アリーナが付いて来るって言って、本当は凄い嬉しかった。
いくら強くなっても一人で旅に出るのは不安だったし、他人に騙されたり傷つけられたりすることも沢山あると思った。そんな時、支えてくれる存在が居れば頑張れるから。
私にとってこの世界で最初の友達であるアリーナは、正しくそういう存在になっていた。
(私も感傷的になったなぁ……前世の昔はあんな血も涙も無い子だったのに)
思い出される前世は酷かった。友達も親友も頼れる家族も愛する恋人も居なかったから。そんな私が人を大事に出来るか分からないけど、少なくとも守りたいと思える感情があるのだから捨てたものではないだろう。
「さぁ、帰ろうアリーナ」
「はいなー」
「しかし、アリーナだけ過剰装備ではないか?」
「私としても本当ならウエディングドレスを着せてあげたかったんだけどね……」
(本当に連れてって大丈夫なのか……?)