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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第54話 友の為に

『さぁ、今日は最も気になっていた一戦の一つ、レーベル選手隊勇者彩音選手の戦いです!!これまでまったく相手を寄せ付けていない同士の戦いであり、どっちから勝つか、実際のところまったく予想の付かないことになっているのです!!!!貴方はどこまでやってくれるのか!!!人間の限界を見せて下さい。レーベルお姉様!!!!』



 

「…あのメッセージは見てくれたのかしら?」

「おう、見た。大人しく従えば、アリーナの命は奪わんのじゃな?」

「約束は破らないわ。その分貴方は死ぬ一歩手前まで八つ裂きにするけどね」

「構わんよ。仲間の為じゃ」


 これから自分が切り刻まれるというのに、レーベルはまったく動じない様子で高坂を見ていた。その瞳に宿るのは怒りでも諦めでもなく、余裕だった。しかしそれに気付かない高坂は、多少訝し気になりながらも、さっさと気持ちを切り替えた。


(やけに物分かりが良いわね…まぁ仲間は見捨てられないか)


『準決勝第一試合、開始ぃぃぃいいいい!!!!』



「「ッ!!」」


ガッゴッガガガガガッッ


「はっ、ちょ、嘘でしょ!?」

「その程度か勇者ぁぁああああああああッッ!!!!!!!」

 

『レーベルお姉様凄い!!!勇者の猛攻撃に全て対応しきっています!!』


 レーベルは最初の数分間、本気で勇者を殺しに掛かろうとしていた。本当に殺すつもりは無かったが、自分も少しは発散したかったし、こんな気持ちで戦いなどしたくなかったというのが本音である。


「あ、あんた分かってんでしょうねぇ!!」

「ちゃんと負けてやるわッッ!!だが、少しは付き合って貰うぞ小娘!!!」

「私はもう成人よこのおばさん!!聖剣発動!!」


 高坂は重過ぎるレーベルの攻撃に耐え兼ね、聖剣を使った。全てのステータスが10倍まで跳ね上がり、一気に形勢が逆転する。今度はレーベルが押され始めた。


「今までの雑魚とは比べ物にならない化け物ね。けどこの状態の私には絶対に勝てないわよ。ほらほらほら、どうしたのさっきの威勢は、もっと吠えなよおばさん!!!」

「ちぃぃいい!!」


 レーベルは空中に跳び、巨大な炎の玉を生み出した。そこから炎の光弾が雨になって勇者に向かって振り注ぐ


「サンシャイン・レイ!!!」

「あんた本当に人間!!?けど……無駄よ!!!」


 高坂が一度剣を振ると、勇者の周りだけ光弾が当たった瞬間消失していく、いつか見た、モリアロ戦の再現だ。レーベルはそれを見ながら、高坂の聖剣の特性を見破った。


「なるほど、魔法吸収がその剣の特性か。安心したぞ勇者よ」

「聖剣を知ってる!?だとしても、あんたに勝ち目は無いわ!!」


 炎の光弾が全て降り注いぎ終わると、レーベルは下に降りてハルバードを構えた。未だにその顔には笑みが浮かんでいる。



「我の魔法が効かんのは分かった。後は肉弾戦のみよ。さぁ、血沸き肉躍る死闘をしようではないか、勇者ぁあああああああッッッ!!!!」



 レーベルは勇者と打ち合い続けた。頑丈な肉体であっても、聖剣によるダメージは龍鱗の効果を貫通してしまう。だが体中から血を流しても、足の健を切り裂かれても、手首の先を斬り捨てられてもレーベルは戦いを止めない。


 観客席からは悲痛な叫びがあり、もう試合を止めろと叫ぶ声もあがるが、その度にレーベルは眼で試合終了の宣言を止めた。高坂はそれに気を良くしたのか、好き勝手に切り刻み、最後には膝を付いて両腕を無くした血だらけのレーベルが居るだけになった。




「はぁ…はぁ…タフ過ぎよ……」


 流石の高坂も剣の振り過ぎで息が上がっていた。ここまで食い下がってきた者は魔族の中でも居なかったのだ。


そしてレーベルは聖剣の強さに感嘆を抱いていた。古くから聞かされていた伝説を相手に負けて、ご満悦な表情である。



「……やはり、聖剣は強い、のぅ…」

「当たり前よ……魔王を倒せる力が、たかが人間に負けてなるものですか」

「ふふ……そうじゃな。もう良いのか?」

「……殺せないんだからしょうがないわ。後はもう一人で解消させるわよ」

「……そうか」

「なーんてね!」


 

 高坂は振り向いてその場を去ろうとした瞬間、回し蹴りでレーベルを壁まで吹っ飛ばした。そのままレーベルは、微塵も動かず壁の中で停止してしまう。


『もう決着です!!攻撃は終わり、終わりですから!!!!早く、早くレーベルお姉様を回復してッッ!!!!!』


 あまりにも一方的になってしまった試合に、騒然となってしまった闘技場内。夥しい量の血からステージのいたるところに付着していて、さながら惨殺現場だった。転がっている腕や足が更にそれをリアルに感じさせてしまう。


「え、アイドリー選手?」


 いつの間にか、埋まっていた筈のレーベルを抱き抱えて座っているアイドリーが居た。手には紅い宝石を握っており、レーベルの頬を静かに撫でていた。表情はフードを被っていてよく見えない。


「レーベルは私が回復するからいいよ。回復魔法使えるから」

「え、あ……」


 答えを聞く前にアイドリーはレーベルを背負って控室に向かってしまう。その後ろ姿を回復魔法士達は茫然と立ち尽くして見送った。



 控室に辿り付くと、私はレーベルの『皮』を収納した。手元にはレーベルの『本体』だけが残る。そこに私が魔力が注ぎ込んでから、次元魔法で『転移』させ、アイドリーはまた静かに歩きだした。


 握りしめ過ぎて割れた拳は、妖精魔法で治した。




『続きましては準決勝2試合目!!一閃一撃のゲンカク選手と、昨日はなんだか怖かった。アイドリーちゃんの登場です!!』


「この場で戦えることを感謝するぞ、アイドリー殿」

「そうだね。私はちょっと今トラブってるけど、貴方との勝負でそれは挟まないよ。それより、私が勝ったら、一つ教えて欲しいことがあるんだけどさ……勝ったら教えてくれる?」

「いいぞ。私も聞きたいことがあるからな」


『この戦いもどっちが勝つのかまるで予想がつきません!!ゲンカク選手の神速の一撃がアイドリー選手を切り裂くのか、それとも圧倒的力でアイドリー選手が粉砕するのか!!!試合開始ですッッ!!!』



「やっぱり動かないんだね。まぁ、『居合』って本来そういうものだから分かるけどさ」

「ッ!!……」

 何故知ってるって顔したけど、またすぐに居合の型で止まった。申し訳ないけど、今回は勝負を楽しむことは出来ないんだよね。だから、


『アイドリーちゃん、普通に歩いて近付いていきます!!ゲンカク選手の攻撃範囲が怖くないのでしょうか!!』


 私は自分の剣に高純度の魔力を濃縮して流しながら歩いていく。妖精魔法で動体視力も限界まで強化した。そして、射程範囲の後一歩手前で歩みを止める。ゲンカクから3m離れた位置である。



 私はその位置で構えて……………踏み出す。


「―――ッ!!」


ガキキィィイイン………・・・



「…………は、はは……それは想定外だ、アイドリー殿」



 ゲンカクの見えない一閃は、私の全力の一振りで叩き折った。刀の先はゲンカクの後方ステージに突き刺さり、ゲンカクは振り抜いた状態で停止している。


「貴方の一撃は確かに早い。なら、純粋に剣と刀の勝負をする他無かった。それだけだよ」

「そうか……私の負けだ」


 折れた刀を鞘に納めると、ゲンカクは私にお辞儀をした。私もそれに倣うと、会場から拍手が起こった。


『正しく一撃の勝負!!一瞬の攻防!!!それを制したのは、可憐美少女、アイドリーちゃんです!!!決勝進出おめでとう~~~~~!!!!』



 私は刀の先っぽを引き抜いてゲンカクに渡すと、さっきのことを控室で話そうと言ってついてきてもらった。


「それで、拙者に聞きたいこととは?」

「簡単な話なんだけど、貴方の故郷への行き方を教えてくれない?私旅をするのが目的の冒険者だから、いつか貴方の国にも行ってみたいの」

「なんだそんなこと、是非とも教えさせて欲しい」


 ゲンカクは私の用意した紙と羽ペンで、ワドウまでの道のりを書いてくれた。それを受け取ると、ゲンカクは故郷に帰るらしいので、来る時は私のところを訪ねて欲しいと言い残し去ってい「待って」「ぬ…?」


「ちょっとちょっと。ゲンカクさんも私に聞きたいことあったんじゃないの?」

「むぅ……しかし、私は負けてしまった。その資格は」

「いいよ、よっぽどのことじゃなきゃ答えるからさ」


 ゲンカクは渋々納得し、頭を下げた。

「……かたじけない。では聞くが、お主はヤマタノオロチという魔物を知っているか?私はそれを探して旅をしていたのだ」


 え、それって日本の神話に出て来る怪物じゃん。この世界にもあるのそういうの?っていうか実在するの?うん、ごめんね。全然分からないや。


「いや、私は聞いたことないかなぁ……」

「そうか。まぁそうだろうな……ではな」


 ゲンカクは今度こそ去って行った……





 夕方頃、宿屋で今か今かとその時を待っていた。


「あっ」


 私は『超同調』が切れたことを確認。そして…………そっか。



「………良かったぁ……」



 ホッと胸を撫で降ろすと、私はベッドにダイブして足をパタパタさせる。





その夜、聞こえて来た『ただいま』は、2人分だった。


次回は裏側の話になります。

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