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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第53話 準々決勝② ブチ切れた妖精

「こんにちわ、お嬢さん」

「……ほえぁっ?」


 観客席でレーベルの応援をしていたアリーナは、不意に隣から一人の男に話掛けられていた。黒い髪、黒い目、どこかの誰かを彷彿とさせる顔だった。


 しかし笑顔で挨拶をされたので、アリーナは応えることにした。基本は人を信じて人を憎まず。妖精ポリシーは純度100%で今日も稼働中である。


「お~こんにちわー♪」

「はい。確認なのですが、貴方は『妖精の宴』のパーティに所属している方ですよね?」

「うん、そだよ?」

「実は出場しているアイドリー様からお呼び出しがありまして、良ければ控室の方に来て頂けると助かるのですが」


 アリーナは暫し考えるように素振りを見せると、一言でそれを叩き折る。


「やだっ!!」

「えっ」


 アリーナが行ったのは、『同調』によるアイドリーへの確認だった。アイドリーは即座にその場から逃げるように指示、アリーナは拒否をしてその場から離れようとしたが、



「行かせないぞ小娘。寝ていろ」

「──ッ!? ……あい、ど……り……」


ぱたっ


 立ち上がろうとしたアリーナの鳩尾に拳をめり込ませる日野。そのまま聖剣の効果により、アリーナを消した。隠蔽スキルを使うことによってその行動は周りの観客には一切見えていなかった。日野は何事もなくそこから歩き去っていった。


 それを知っている存在に気付きもせずに。





『アリーナ、アリーナッッ!!!!』


 『同調』していたアリーナの視覚を借りて男の顔を見て、私が逃げるように指示した瞬間、アリーナとの『同調』が切れたことに私は混乱した。

 同調が切れたということは、アリーナが意識を失った、もしくは同調の届かない距離まで運ばれたということだ。だが2人の同調限界距離は、この国全土に及ぶ為、考えられるのは前者である。


『レーベル!!アリーナと同調出来る!!?』

『どうしたいきなり、そりゃあ勿論出来るが…ん?何故アリーナは眠ったまま動いておるんじゃ?』


 よし、レーベルなら従魔契約でよりアリーナと絆が深い。これなら追える。


『今アリーナがどこら辺に居るか分かる?』

『場所か? ……これは……闘技場の外じゃな。まさか主よ』

「……やられた」


 おそらく相手は何らかの方法、おそらく隠蔽を使ってアリーナを気絶させた現場を見させずに攫ったのだ。あの髪と瞳の色からして間違いなく勇者だ。まさかこんな堂々と仕掛けて来るとは思わなかった。


『同調が出来てるってことは、アリーナは生きてるんだよね?』


 確認で聞くと、レーベルは唸りながらもそれを肯定した。


『そうじゃな……向こうの狙いはこっちの退場か、もしくは見せしめか。あれだけ煽ったしのう…』

『レーベル。相手は勇者なのは確定だけど、どっちかがアリーナを救い出しに行かなきゃならない。大会中である以上私達は大っぴらに動けない……分かってるよね』

『そうじゃな。だが、何か方法はあるんじゃろ?』

『あるけど……レーベルが危ないかも、しれなくて……』

『そのぐらい幾らでも付き合ってやるわ。早よ話せ』

『うっ……ごめん』


 私が計画を話すと、レーベルは二つ返事で了承した。同時にもっと良い提案もしてくれたので、私はそれも組み込んで計画を立てる。


『それなら確実にアリーナを救えるのう。後は我次第か』

『そこは、今夜また私が本気で妖精魔法使うからなんとかして欲しい』

『任せい。ではまた後で』

『うん』


 ……私達に直接何かやってくるなら正面から対応したのに。まさか、よりにもよって、私の宝物に手を出すなんて愚かな行為に走るとは。余程”死にたい”らしい。これがルール無用の野良試合なら散々体中をグチャグチャした後アリーナに土下座させてから殺すところだ。


 だけど、もっと良い方法がある。勇者の名を地に堕とし、この国で終わらせる。


 もう手加減はしない。お遊びも無しだ。私は完全に、完璧にブチ切れたよ。




 アリーナ……ごめん。明日までどうか無事でいて………



「アイドリー選手、出番です!!」

「……わかった」




『ゲンカク選手!! 準決勝進出です!!! やっぱり負けちゃいましたねぇヤスパー選手、来年頑張って!!』

「一々一言多いんだよ馬鹿野郎!!!」


 担架で運ばれていくヤスパーは、ゲンカクの居合の一閃で足を持ってかれていた。なんとか間合いに入ろうとしたのだが、結局一撃で終了してしまう。



『さぁ次は準々決勝最後の組み、ご存知『桃源郷の氷華』アイドリーちゃ……―――ッッ!!!!!』




 背筋を、【死】がなぞった。




 セニャルはそれを錯覚した瞬間、身体の震えが止まらなくなってしまう。音声拡大魔道具も落としてしまい、両手で自分を抱きしめて訳も分からず腰を抜かしてしまった。


 観客達も同じようなものだった。冒険者達は辛うじて耐えていたが、命の危険信号が鳴りやまず、今すぐこの場から逃げ出したいと思う者が続出する。それほど、この濃密な殺気が闘技場内を支配してしまったのだ。


「……」


 それを振り撒いているのは、一人のアイドリーと呼ばれていた非常に愛らしい少女だった筈の者だった。姿形は何も変わっていない。顔は真顔だがそれだけだ。しかし、纏っている雰囲気が物理的な圧力となって周りの精神を無意識に押し潰そうとしていた。殺意は物理的な重力を伴うかの様に広がり、器用にも勇者にだけはそれを知られない様にしていた。



 見ていたくないのに、目線が外れない矛盾。眼を背けた瞬間殺されると思えてしまう根源的恐怖の津波。



 アイドリーはそのままの状態で腰を抜かしてしまっているセニャルに近づく。セニャルは短く悲鳴をあげながら何とか後退りしようとするが、


 ふと、その重圧が消える。荒いを息になる彼女を気遣う様に微笑んだ。


「ごめんね。もう大丈夫だから」

「は……はい……」


 セニャルの頭をポンポン叩いて撫でる。しばらくすると、セニャルは立ち上がれる程にリラックスし、改めて魔道具を持った。それを見てアイドリーはステージの所定の位置へ戻って行く。



『えっと。ちょっとしたハプニングがありましたが何もありません!! 皆さんご安心を!! ではアレイド選手も入場したので、試合、開始ですッッ!!!』



 すぐに試合は開始されたが、アイドリーはアレイドに近づいて、立ったまま動かないアレイドの背中を撫でる。


「大丈夫……ゆっくり、静香に深呼吸をして? そう……その調子」

『え……?」

「……すー……はー……はぁ……ふぅ~~」


 アレイドもまた、セニャルと同じような状態だった。アイドリーが介抱すると。顔に血の気が戻り、呼吸も正常になっていく。緊張も解けると、杖に体重を預けて額の汗を拭った。歳年の功か、あれだけの殺気を至近距離で浴びていたにも関わらず気を失わなかったことにアイドリーは感心する。


「まったく、なんという殺気を出すのじゃ。危うく死ぬとこじゃったぞ?」

「それは、ごめんなさい……それで試合の方なんだけど」


 アレイドは首を横に振って「無理じゃ無理無理」と苦笑いになる。


「棄権するに決まっとるじゃろ。殺意だけで相手を殺してしまいそうな相手、冗談ではない。何か訳有りのようだから何も言わぬが、もう少し抑えることじゃ。お~い、儂は棄権するぞ~!!」


『あ、はい。アレイド選手の棄権により、アイドリー選手準決勝進出です!!』


 歓声は一声も無かった。アイドリーは闘技場を後にした数分後に、ようやく全員の緊張が解け、ざわざわと騒ぎ出すのだった。




「今日のあれ、我にもビリビリきとったな」

「ちょっとだけね。発散しておかないと爆発しそうだったから」

「お主はどこか達観しているからのう。もっと我儘になることじゃな」

「へんだ。アリーナが無事だったらそうさせて貰うよ。多分、めっちゃ泣くし」

「それは……ふむ、楽しみかのう」


 夜、私とレーベルは宿屋の部屋に閉じ篭っていた。アリーナの座っていた観客席に手紙が置かれていたのをレーベルが発見し、それを二人で確認していたのだ。



『返して欲しければ、勇者との試合で負けろ』、それが手紙の内容だった。実に分かり易い脅しだ。



「見せしめが目的だったのが不幸中の幸いじゃな。これならアリーナの命の心配は無さそうじゃぞ」

「うん……良かったよ」


 あの時、もし勇者の姿が見えていれば私は全てを放り出して殺そうとしたことだろう。結果的に王都が更地になろうともだ。それを踏み止まって無意識に出していた殺気を抑えられたのは、目の前で自分を恐れて泣いていた司会者セニャルの姿を見たから。


 相手が誰であろうと、出来ることなら人は不殺で生きていきたい。魔物の命を奪っても、それを無駄には絶対したくない。私にとって命を奪う事は、私自身の自殺にも等しい行為だから。


「妖精のノリに最近身を任せ続けてたのか分からないけど……あんまり正常な判断が出来なくなってたかもしれない。アリーナを、無理やりにでも妖精の状態でいさせるべきだったのに……その所為でレーベルにも危険なことをさせなきゃならなくなったし、さ……」

「それは違うぞ主よ。この旅が始まっている以上いつかはあったのじゃ。今は原因を責める場合ではない。元より従魔契約をした身じゃ。我に一切の遠慮をするでないッ!!」


 レーベルはドンっと胸を叩き、自信満々な顔で笑ってみせる。


「主に惚れた我を、主の為に使って何が悪いんじゃ。我もアリーナには笑っていて欲しいのじゃ。その為の障害の排除は、我よりも主の方が似合う。それにもう誓ってしまったではないか?」

「あれはノリで……いや、もうノリでは済まさないけどさ。本当に良いんだね?」

「構わん。我が許す」


 私は頷くと、レーベルの胸に手を当て妖精魔法を発動した。すぐに強烈な熱を頭に感じた後、すぐに意識を落とした……・・・





「……眠ったか」

 我に妖精魔法を行使して意識を失うとはのう。やはり相当の負担が掛かったか、と。自分のステータスを見ていて思うのじゃ。


レーベル(1653)♀ Lv.1024

固有種族:レッドドラゴン(古龍):人間状態


HP 3万8543/3万8543

MP 1万9666/1万9666

AK   5万0427

DF   8万2934

MAK  12万7640

MDF  13万0004

INT   2000

SPD   25万5444


【固有スキル】龍鱗 炎獄 超同調


スキル:龍魔法(S)火属性魔法(S+)体格差補正(A+)



・超同調

『5分間、従魔契約者との同調率を高め、ステータスを借り与え出来る。クール時間中、契約者との同調が使用不可になる』



 我が勇者に確実に勝つ為のスキル。他人に固有スキルを付与するなど、普通の妖精ならまず考えつかぬ事じゃ。我を生み出したあやつでも不可能じゃしな。それをやってのける主の頭が可笑しいのじゃ。


(実際にこうやって妖精魔法を使われるとよく分かる。これは魔法ではない……魔法とは、呼べぬ……この世の理とは思えんスキルじゃ)


 魔力を消費しない魔法ならまだ分かる。獣人にもそういったスキルを持つ者もおると聞いたことがあるかのう。だが、こんな自由性の高過ぎる魔法など無い。もっと他の何かじゃ。

 我の龍魔法とて、固有スキルじゃが魔力を消費する。それにそこまで自由には使えん。どう考えても妖精という種限定の馬鹿げた力じゃと勘繰れるが……


 そもそも妖精はこの世で最も弱い種族。ゴブリンやスライムにすら蹂躙される様な存在。全世界でそういう共通認識であった訳じゃしな。突然変異や最上異種でもドラゴンには及ばぬ。妖精の価値とは力ではなく、その在り方なのじゃから……



「……神様はきっと、妖精だからこそ、その力を与えたのじゃろうな」



 静かに眠る我が主の頭を撫でながら、我は朝まで警戒を続けておった。明日のアリーナ救出作戦、頑張らねばな。

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