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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第49話 本選第2回戦 ②

「スビア、久しぶりだな」

「モリアロ、そっちも変わりないようで。勝った方が次の勇者と戦うと思うと、憂鬱じゃないか?」

「確かに、だけどそれは俺達の間では関係の無い話だ。そうだろ?」

「その通りだ……楽しもう、存分に」


『続きましては3組目、スビア選手対モリアロ選手ですが。仲良く2人で入場してきました!!この二人はこれまでも武闘会で戦い合った仲であります。もはやその戦いは戦友の挨拶のようなものなのでしょうか!!?非常に羨ましい戦場カップルです!!!滅びろ!!!』


 観客達からの激しいブーイングに二人してやれやれと首を振ると、それぞれ武器を構えて離れ、所定の位置についた。


『しかし試合の中ではそんなもん関係ありません!!試合開始ぃぃぃいいいい!!!』



「まずは挨拶からだ。衝撃となって撃て、ウォータボールッ!!」

「随分な挨拶があったもんだなッ!!」


 水球が猛烈なスピードでスビアに向かって撃ち出された。剣で受けると危ないと判断したスビアは、次々と打ち出されていく水球を体捌きで避けていくが。


「うぉっ!?」


 その内の1発が足に命中すると、当たった衝撃にしてはやけに重たく、足に吸い付く様に取られてしまった。そこに水球の軍が襲い掛かって来るが、冷静な判断力で全てを剣で受け流した。多少手が痺れたが、気にせず握り直す。


 モリアロはそれを嬉しそうに見ていた。


「準備運動にはなったかな?」

「十分過ぎる程さ。次はこっちの番だッ!!」


 スビアは素早く腰からナイフを取り出すと、即座にモリアロへ向かって投げた。目で辛うじて捉えられる程の速度に舌を巻く。だが内心ではスビアもまた同じ気持ち。

(去年より早いッ! 腕を上げたなスビアッ!!)

(魔法の精度が途轍もないっ! やるなモリアロッ!!)


 戦友が強くなっていることに内心喜びを覚えながらナイフを何とか躱すと、その間に走り迫ってきたスビアが攻撃を繰り出そうとしていた。


「くらえッ!!」

「受け流せ、アクアプロテクトッ!!」


 風を切り裂く鋭い突きを、半円に展開された水の盾により辛うじて受け流す。スビアはそのまま追撃しようとするが、モリアロが瞬時に水球を生成し、腹に喰らわせ吹っ飛ばした。


「けっほ……ふぅ。仕切り直しか?」

「そんなとこさ。だが一瞬だ。溢れろ水よ!!敵を惑わせろッッ!!!」



 モリアロが水魔法で壁を生成、それをスビアの周囲に展開したのだ。するとその水の中にモリアロの姿が幾つも見えて来た。そして、


「くぁッ!! ……これはまた、魔力消費の多そうな大技だなモリアロッ!!」

「だろ? だが、効果は十分だッ!!」


 スビアは突如後ろからモリアロに斬られた。振り向いても既にモリアロは水の壁の中へ消えてしまう。スビアは壁から抜け出そうと、するが、スビアが動く分だけ壁が移動し、中に閉じ込めてくる。


「これは……ッ!? だが、そうそうやられはしないぞ!!」


 スビアは全力で上に飛び上がった。壁は上まで覆ってないからこその選択をしたスビアは、上からモリアロの位置を確認し、落ちるまでの間にナイフを数本投げる。モリアロは数歩後ろに下がってそれを避けるが、同時に壁も動いてしまった。モリアロは壁の反対側に着地したスビアの姿を見失う。


「やるね、解除!! ……ッ!? どこにっ」

 スビアを視認しようと一度水の壁を解除したが、そこにスビアの姿は無かった。モリアロは辺りを見回すが、姿が見えない。そこで自分に影が差していることに気が付き、上を見上げると、


「いつからピョンピョン飛ぶのが癖になったんだい!?」

「今さっきだよッ!!」


 スビアはモリアロのすぐ真上から落ちて来た。モリアロが水の壁に目を向けた瞬間にスビアはモリアロの立っているだけあろう場所に向かって飛び上がったのだ。案の定モリアロはその場から動いていなかった。

 スビアは既にナイフを投げた後であり、その上からレイピアを突き刺そうとする。


「簡単には終わらせない!! 押し流せ水よ、アクアプロテクト!!」


 ナイフが現れた激流の盾によって軌道を外した。だが、そこから更に繰り出されたレイピアの刺突までは防げなかった。盾ごとモリアロの腹を貫く。


「おっ……ぐ……っ、まだっだ!! 撃ち、抜け……アクアランス!!!」

「ごはぁっ!?」


 腹を刺されてもモリアロは諦めず、空中で制止したスビアに水の槍を至近距離で撃ち放ち腹を貫いた。スビアは口から血を吐き出すと、力無く倒れる。モリアロも腹を押さえながら何とか立っている状態である。


『勝敗は、最後の最後まで戦いを諦めなかったモリアロ選手に微笑んだぁぁあ!!! 試合終了、モリアロ選手、準々決勝進出だぁああああッッ!!!!』



「まったく……君とは毎回……これだな……スビア」

「はは、こふっ……けど。また負け、た。また、来年やろう……モリアロ」

「……ああ、来年も楽しみ、だよ」


 仲良く担架で運ばれていく二人は、恋人でもなければパーティメンバーでもない。二人が会うのは一年に一回この闘技場の中だけである。だが、その絆は何より固く結ばれている。






「水の幻惑を利用しての攻撃か。あの男だからこそ抜け出せたのじゃろうが、初見じゃったら対処法見つける前にやられそうじゃな」

「モリアロの魔力がそんなに多く無いみたいだから、上まで覆って持続させることが出来なかったんだね。あれで上まで覆ってたら凶悪だったと思うよ。スビアの抜け出し方もモリアロをよく知っていなきゃ出来ない動きだからね、本当にギリギリだったよ」


 ああいう手に汗握る感じが本来観客が求めているものなんだろうと思う。ハラハラさせられる展開や、逆転劇っていうのはこうでなきゃ。


「私もああいう戦い出来たら良いんだけどなぁ……」

「我と前にやったじゃろうに」

「剣飛ばしてただけだしなぁ……アリーナさんは?」

「……」

「ほ、放心状態だがどうしたんじゃ?」

「ん、んーこれはアレだね。同じ水魔法使いとしてリスペクトしてる感じだね」

「あ~なるほどのう。良いぞアリーナ。ああいうのを覚えて遠慮なく我とやろうぞ」

「ん~? ん~ふふふ~~♪ ういな~~♪」


 さて、この分だと次の試合はすぐ終わるだろうし、午前中には終わりそうだ。私としては勇者が勝つのは分かってるし、もう帰っても良いと思ってるんだけど。


「主よ、勇者の聖剣の特性を見ておかなくて良いのか?」

「なにそれ?」

「勇者の固有スキル『聖剣』はの、発現した勇者それぞれで効果が変わるのじゃよ。ステータス10倍はそのスキルが発動した際の副次効果でしかないのじゃ、と祖父は言っておったぞ」

「本当に貴方の家族は何でも知ってるね。なら見る必要はあるのかな?」

「元来奴等の聖剣スキルは、それこそ理外を超える神の力に匹敵するらしいからのう……」


 所謂チートっていう感じのやつか……うん、見とこ。油断ダメ絶対。




『さぁ、本日最後の組となりました!! 皆さんお待ちかね!!! 勇者彩音様の入場です!!!』

「「「アーヤーネ!! アーヤーネ!!」」」


 彩音コールの中、勇者は既に聖剣を発動した状態で現れた。光り輝く剣を見て更に観客達の歓声が巻き起こる。三人とも周りが五月蝿くて碌に話せないので『同調』を使っていた。


『勇者彩音様の操る聖剣、SSランク冒険者を一瞬で屠ってしまうその力を、余すことなくこの目に焼きつけ、後世に語り継ぎましょう皆さん!! 続いてラルゴ選手の登場です!!!』


 こちらはバルディの2倍はありそうな巨人の様な男が、大剣と大楯を持ち分厚い鉄板の鎧を来て登場した。人間…?人間だよね?大剣も大楯もあれ何トンあるんだろうか。


『ラルゴ選手は巨体から繰り出される一撃必殺が売りのSランク冒険者です!! ラルゴ選手の攻撃が当たれば、勇者の無敵の強さにも手が届くかもしれません!!! 是非とも頑張って頂きたいです!!』


 ラルゴに向かっての声援が上がるが、ラルゴは微塵もそれに応えることなく、目の前の小さな勇者を睨んでいた。自分が勇者にとっての噛ませ犬扱いだということを彼は血管が破裂しそうになるぐらい遺憾だったのだ。自然に武器を持つ手に力が入り、殺すつもりで剣を振るうつもりだった。


「……」


 高坂はその眼を無表情で見つめ返すだけだった。彼女にしてみれば、今日はただの作業でしかない。戦いを長引かせる気も微塵もなかった。


『それではいってみましょう!! 試合開始ですッッッ!!!!!!』



「一撃で終わらせてやるわぁああ!!!!」

 巨大な大剣、当たればステージが吹っ飛ぶ一撃が勇者に振り下ろされる。



 ガキャァアアンッッ!!!


 ラルゴは当たった感触に違和感を感じた。ステージに当たっているなら砕いて破片は舞う筈だ。だが大剣は空中で何かにぶつかって止まっている。幾ら力を入れても大剣はそれ以上下に下がらなかった。


 そして密かに、ラルゴにだけその言葉が聞こえた。聞こえてしまった。



「……かるっ」



 止まった大剣の下から、その呟きが聞こえたラルゴは背筋が凍る。高坂はそのまま聖剣で大剣をぶち上げ、ラルゴはその衝撃で仰向けに倒れた。


 そこに空からラルゴに向かって飛来する何か。それが勇者であるなど分かり切っていたが。ラルゴは叫ばずにはいられなかった。


「うぉぉおおおおッッ!!!」

 大楯で空に向かって防御姿勢で吠えるラルゴ。に、無慈悲な剣戟が光る。


「……白刃」


 高坂は一度だけ聖剣を振るった。そこから現れたのは白い刃の斬撃。レーベルとアイドリー、そしてもう一人の勇者以外誰にも見えなかったその攻撃により、ラルゴの大楯は紙の様に斬り裂かれ、そのまま左手と左足を切り落として着弾した。


 ステージに夥しい量の血が流れていき、更に白刃の衝撃でステージも真っ二つになる。


 巨体が鈍い音が響かせて倒れると同時に、狂った様な爆音の歓声が上がる。



『圧倒的!! 圧倒的大勝ぉぉぉぉぉぉおおおお利っっっっ!!! ラルゴ選手の一撃必殺の攻撃をいとも容易く跳ね除けた上に、眼にも止まらない斬撃で大楯ごと一撃粉砕してしまったぁああ!!!勇者彩音様、準々決勝へ進出ですッッッ!!!!』




『あー……ステータスに差があり過ぎて特性を発動すらさせられんかったな』

『もしかしたら物理相手だと意味が無いってのもあるかもね。まぁ次の相手は水魔法を使う人だし、その時に見せてくれるかもしれないよ? さぁ、出入り口が一杯になる前に出よう。アリーナ、午後はどこに行こうか?』

『湖で釣りー』

『王都の景色を見ながらの釣りか……最高の贅沢だね。よし、行こう』

『……妖精じゃなぁ』


 その後、私とアリーナは釣り竿を持って湖に一直線。釣った傍からレーベルに焼いてもらって昼飯にした。セネガルって湖で釣れたんだね。パッドさんの家で食べたムニエルを思い出すなぁ……

「塩焼きもいけるねこれ」

「うまーふ♪」

「しかし足りんの。主よ、ちょっと潜ってきて良いか?」

「ブレス吹かなきゃいいよ」

「……ッチ」


 初めて魚が好物に含まれたレーベルであった。

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