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妖精さんが世界をハッピーエンドに導くようです  作者: 生ゼンマイ
第四章 王都ガルアニアの武闘会
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第46話 本選第1回戦 ③ 挑戦者

 次の日闘技場に来てみると、観客席にほとんど人が見当たらなかった。まぁそりゃあそうなるよね。勇者が勝つって誰もが思ってる訳だし、態々他の出場者の試合を見る必要なんて無いんだろうさ。昨日は出ていた屋台も今日は出て無いし、悲しいなぁ……


「これはまた露骨じゃのぅ」

「今日戦う人達の誰が決勝に上がっても勇者に当たる予定だしね。誰も期待しなくなっちゃったんだろうなぁ」

「おう、我は勝つ気じゃからな主よ?」

「わかってるよ、期待してるって」

「ならよいのじゃ!!」


 レーベルの強さだと、聖剣を発動した勇者に素のステータスじゃ勝てないけど、固有スキル含めれば耐久性で勝るからね。聖剣はそれを上回るらしいけれど、こっちの攻撃を当てればワンチャン有る筈だし。


「それに本気で攻撃出来る相手じゃからな。本来の姿になれないのが惜しいが、文句は言うまいて。勝っても主がおるしな」

「それが本音か…」

 まぁもしも勇者を倒しても決勝で私だしね。レーベルにとってはどっちに転んでも美味しいよね。


「まぁ、誰も見てないなら見てないでいいよ。こっちはこっちで順調に勝たせて貰うだけだし。私の倍率がどんなものか分からないけど、勇者に勝った時この国の経済が終わるぐらいだと私は嬉しいし」

「恐ろしいこと言うのう……」


 いやだってさ、お金って交渉の上ではとても素晴らしい材料になると思うんだよ。ちゃんと国公認のお金だしさ。私が今考えていることはこの国の転覆じゃないけど、なるべく大きなインパクトを与える必要があった。

 最大の目的は世界樹についてだけど、その原因はさっぱりだからね。歴史に深い関わりを持つであろう人物には片っ端から話を聞きたいのだ。私の旅の邪魔にならない範疇で。


「そういえばアリーナよ。先程大会の係員に呼ばれていたみたいじゃが、何だったのじゃ?」

「えっとねー? お金のお話だった感じ~」

「金? 賭け金か」

「ほら、昨日勇者の件で一回払い戻しされたじゃん? アリーナの賭けた金額ヤバいから、本当にこれで良いのか言いに来たんだよ。優しいよね」

「で、アリーナはやはり?」

「アイドリーにぜんぶ!!」

「って事ね。彼等は可哀想な物を見る目で帰っていったとさ」

「ぶぅ……」

「怒るな怒るな。アリーナだけが信じてくれてれば私は良いから」

「うい……」

「ベタ惚れじゃのう……羨ましいわい」


 アリーナはこの世界で、私にとって最も大切な人だもの。そのアリーナに嫌われでもしたら私は多分生きていけない自覚がある。この子の純粋さと私を一番近くで見てくれている笑顔が、私の心をどんな事からでも守ってくれている気がするのよね。


 だから私は何にも負けない。私を私足らしてめくれる”二人目”の存在だから。


「それじゃあ私は控室の方に行ってくるよ」

「うむ、健闘を」

「がんばっ!!」


 手を振る二人を背にして、私は控室に向かった。中に入ると、ドンヨリとした空気が漂ってくるのを肌で感じる。うん、見事に意気消沈してるね。動じてないのは侍っぽい人と王国騎士団の人ぐらいだ。


 それから係員に呼ばれるまで、誰もそこから動かなかった。まるで今日の曇りの天気のように暗い雰囲気だったけど、私は元気です。




『えー二日目です、はい。未だかつてここまで人が少ない闘技場を誰が見たでしょうか? 私もテンションがダダ下がりですよ~。ということで今日はBブロックの1回戦となります。えーでは、1組目の方々どぞ~~』


 適当にも程があるセニャルの司会振りに、闘技場に僅かに来ていた観客達も盛り下がっている。まぁこんなに少ないんじゃそうもなるだろうけど、ちゃんと仕事はしようよ……


『それでは紹介に入りますね。えーピッソン選手はレイピア使いの男爵家になります。今回は傍らにやっていた冒険者としての出場となりました。ランクはBと中々強い方です。強くて貴族ならベイーテロ伯爵ですが、それに劣らぬ強さと聞きます』


 貴族らしく格式高い甲冑を来た青年が入場するが、その顔には覇気が無かった。


『続きまして、ゲンカク選手。遥か彼方の国からやってきました。ワドウという国の出身です。侍、という職業らしく、こちらで言うところの冒険者と同じ役職のようですね』


 刀を構えたゲンカクと、ただ突っ立っているだけのピッソン。ゲンカクには、ピッソンの戦う気を感じられず、少々顔を顰めていた。


『それでは、2回戦1組目、試合開始です!!』



「棄権する」

「なんと……っ!?」


『え? あ……ピッソン選手の棄権により、ゲンカク選手2回戦出場です!』


 まさかの即棄権により、ゲンカクは抜こうとしていた手が震えていた。顔が真っ赤に染まり、怒りを露にする。

「ふざけるなっ!! 勝負を愚弄するのかお主!!!」

「愚弄? もうされているではないか」


 ピッソンは意に返さず、周囲を見渡して言う。


「私達は既に敗北者だ。全ての喝采を失い、誰に見られることなく消えていくだけのな。そんなものにどんな誇りがある。私も暇じゃない。早々に立ち去ることにするよ」


 にべもなくステージを降りて行ったピッソンの背中を、ゲンカクが鬼の形相でただ見つめているだけだった。それを見ていた今日の出場者達の半数以上は、そういう気持ちがあったのだろうと彼にも理解は出来るが、それでも男が勝負を自ら放棄するなどありえない。それが彼の持論だっただけに、怒りは治まりようがなかった。


 それからも、開始数分でわざとステージの上に押し出されたり、やる気の無い戦いに観客からのヤジが飛んできたり等、散々な光景である。6組目のアレイドと7組目のトゥイーレルはまったく諦めた様子も無く相手を圧倒し勝利したが、やはり歓声は無かった。



 そんな最悪なテンションの会場内の中、遂に私の番になった。



『はい、えー早かったですが、1回戦も最後の組となりました。最後はヘンリク選手とアイドリー選手です。どぞー』


 相手は短剣二刀流の冒険者だった。短剣二刀流はアリーナの練習でしばらく相手をしていたから戦い方は大体分かる。ただこの人、眼からやる気感じられないし、さっきの1組目のように即棄権されそうなんだよねぇ。


『えーと……もう観客も二人だけですね。紹介も面倒ですから、始めちゃっていいですよー』



 ニヤリと、私は笑みを浮かべた。



 ほう、良いこと聞いたね。一般客はアリーナとレーベルだけってことか。ということは今この場に居るのは私達と相手、係員と後は国王とその周りを守っている近衛兵だけってことだよね。よし、やってしまおう。


「俺は……きk「ちょっと待った」えっ」

「棄権するのは止めないよ。けど、このまま終わるとBブロックが盛り上がらな過ぎてつまらないと思わない? 司会者さんもそう思うよね?」


『えっ……ま、まぁそうですね。歴史上最も観客の無い日ですし』

 戸惑いながらも肯定してくれたセニャル。よしよし、こちらに引き込んでしまおう。


「という訳だからさ、ちょっと私が強烈なデモンストレーションをやろうと思うの、それが終わるまで棄権は待ってくれないかな? 終われば間違いなく、次からは盛り上がれると思うよ?」

『え、えぇーっと……どういたしましょう?』


 困ったようにセニャルが見上げた先には、王が居た。


「……構わぬ。確かにこのまま終わっても興醒めには違いない。やってみよ」

「ありがとうございます」


 これで確約は取った。今この場で何をしても私の行為は許される。これは試合ではなく、演出なのだから。


『レーベル、ちょっと手伝って』

『ぬ? 何する気じゃ?』

『パフォーマンス』

『あー……うむ、承知した』



「それでは始めよう……従魔召喚!!!」



 私はありったけの魔力を込めて召喚を発動する。ステージよりも尚大きい魔法陣が現れた。そこから私が呼び出すのは勿論……







「来い、レッドドラゴンッ!!!」

「グルルルルウォォオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」


 その咆哮は、王都全土に響き割った。王都の人間達は振り向いた方向には、闘技場……今日は武闘会1回戦最終日である。


 一体何が起こった? 人々は今している全てを放り出して、一斉にその場所に向かって走りだした。






 私を持ち上げるようにして頭が出て来たかと思えば、すぐにその巨大な身体が姿を現す。私が戦った時よりも大きいレッドドラゴンになったレーベルは、多めに渡された魔力によって半ばトランスしていた。完璧にドラゴンになりきっている状態だね。私が言わない限り誰も襲わないから良いけど。


 国王は立ち上がり目を開いてこちらを見た。セニャルや係員は腰を抜かしてしまう。ただ一人、観客席に居たアリーナだけは腕を挙げて「やれやれー!!」とウキウキしている。


「ご安心を、このレッドドラゴンは私の従魔です」

「そんなバカな!!?」


 国王の横に控えていた一人の近衛兵が否定の言葉を叫ぶが、よく見ればレッドドラゴンの首には従魔用の首飾りがしっかり掛けられているのだ。その事実に一同茫然である。


 そして続々と王都の人々が闘技場に到着し、観客席からその姿を見てしまった。あっという間に席は埋まり、誰もがそのドラゴンと白いローブの女から目を離せなくなる。眼は虹色に輝き、桃色の粒子放つその私という少女を。


 妖精の顔は愛らしいにも程がある。人の心を持つ私だからこそ、それが分かる。




「私の名はアイドリー! 今日よりこの名は伝説となる!!! これが始まりだ!!!! 咆哮を鳴らせ、レッドドラゴン!!!!」




 私の掛け声と供に、レーベルは空に向かって極大の龍魔法による全力ブレスを放った。ブレスは空を突き抜け、王都に掛かっていた雲を全て吹き飛ばす。


「この世に遍く水よ、我が風の流れに従い決して砕けぬ極氷の華とならんことをッッ!!!!」


 私の妖精魔法を組み合わせた全力の魔法が、放たれたブレスを全て凍らせ、街に降りかかろうとしていた火の粉の隅々にまで行き渡っていった。


『こ、これは……!?』



 闘技場を丸々覆う程の『氷の華』が咲いた。



「今日この日より、私が最強であることを証明してみせる!!! 我が名はアイドリー!!!何者にも縛られない女だッッッ!!! 勇者は私が―――――ぶっ倒す!!」


「「「ウォォォオオオオオオオーーーーっっ!!!!!」」」





『やっばぁぁああぁあああああいやりすぎたぁぁぁぁああああああーーーーッッ!!!』

『お主馬鹿じゃろ』


 妖精魔法多様+お祭り気分=妖精のノリ発動


 の式が出来上がった結果、私は世界の英雄に喧嘩を売っていたよ。最後のセリフさえなければ完璧だったのに……しかし、これで王様の眼は完全に私の方に向いた筈だ。


 けど王様が悪いんだよ。勇者なんて出されたら、無名の者が勝てば何者であろうと認められはしないだろうからね。そんなチートを出してくるなら、私は場を引っ掻き回しまくった挙句、勇者と王国の面子を完全に潰す勢いで戦って新しい伝説として君臨するだけである。



 私は王様に向かって一礼すると、レーベルをアグエラさんの宿屋に送還して現実から戻ってきていない司会のセニャルの肩を揺らした。ヘンリクは何か気絶しているみたいだから勝利宣言して欲しいんだけどな。何度か揺らされて戻ってきたセニャルは、今度は私の顔を至近距離で見て鼻血を出して倒れてしまった。えぇ……


 しょうがないのでそこらへんに居る係員の人にセニャルの持っていた音声拡大魔道具を渡し、2回戦進出の宣言を頂く。だが誰も言葉を発さず、ただ私を見つめるだけだった。え、なに? 何かすれば良いの?


『手、上げてみる~?』

『え? ああ、そういうやつか』

 アリーナの言う通りにすると、切って溢れるような大歓声が上がった。止まると良いなぁ……このビックウェーブ……

今日は隠蔽魔法と妖精魔法全力で宿屋に帰りました。


「実際どうだったんじゃ?喧嘩を売った感想は?」

「最高、超清々しかった」 

「あーやっぱり馬鹿じゃのう主は」

「アイドリー天才さん?」

「紙一重にすらなっとらんわッ!!」

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