第45話 本選第1回戦 ② 勇者
「ぶっごぉっ!!?」
「がっはぁっ! 軽い軽いぃ!!」
『ああっとバチス選手!! 右肩を切断され倒れ伏してしまったぁあああ試合終了!! ラルゴ選手2回戦進出です!!! 凄まじい大剣の一撃でしたね!!』
ここまで1回戦は7組目まで終了した。それまでの4、5、6組目の試合では、4組目に巨大チャクラムを操るチャックが。5組目には水魔法主体で怒涛の波状攻撃を繰り出すモリアロが。そして6組目にはレイピアによる多段攻撃で相手を穴だらけにしたスビアが2回戦へ進出する。
そして、今日最後の試合が始まろうとしていた。アイドリーが結構気になっていた大一番が……
『さてさて皆さん。次は今日最後の試合になります。そしてそれを飾るお二人をご紹介しましょう。まずはブレイク選手の入場です!!』
黒フードを来た人物がステージに上がって来る。予選で使っていた何の変哲も無い剣を持っての入場だが、その戦い振りを知っている為に声援が大きくなる。
『今回初出場のブレイク選手は、出身地不明の一般からの参加者となっておりますが、その類稀なる剣捌きで予選ではアレイド選手と凄まじい応酬を繰り広げてくれました。今回の彼はどこまでその力を私達に魅せてくれるのでしょうか!!』
「珍妙な恰好をしとるのう、あやつ全身が鑑定スキルを妨害する魔導具装備じゃぞ」
「よくわかるねそんなの」
「古龍はデフォでそんなんじゃからな。主達妖精の持っている妖精の眼には無駄じゃが。とにかくあの勇者、何故か正体がバレぬようにしておるな」
何か企んでそうだねぇ……一応警戒しておこうか。この大会中に何かするかもしれないし。
『そして遂にこの人が、我等のヒーローがやってきました!!ご紹介しましょう、ガルアニア闘技場にて連続10回の優勝記録を持つ男ッ!!バンダルバ選手の入場ですッッッ!!!!!!!』
会場にバンダルバの声援コールがステージ上に上がり、来る一人の男に叩きつけられる。
一般的な冒険者の服装。歳は30代といったところか。腰には魔力の宿った剣を差し、茶髪をオールバックにした男だった。ニヒルな笑みを浮かべ、その声援に応えた男バンダルバに、更なる盛り上がりを見せる観客達。
『誰もが知っている我らがヒーロー、もはや語る必要も無い程の圧倒的ポテンシャル!!
この国唯一のSSランク冒険者にしてドラゴンキラーの異名を持つ男!! 彼は今年も出場者を全員蹂躙してしまうのかぁああああ!!!!???』
私の眼に映った男は、確かに事実に裏付けされた実力の持ち主だった。
バンダルバ(28) Lv.543
種族:人間
HP 1万0054/1万0054
MP 1万6035/1万6035
AK 9245
DF 8664
MAK 8291
MDF 1万2340
INT 290
SPD 1万3560
【固有スキル】 不屈
スキル:剣術(SS)四属性魔法(SS)縮地(S)鉄壁(S+)バースト(―)
「強いね。前の人間状態の私だったら負けたかもしれないや」
「うむ、バーストは身体能力を一定時間底上げするスキルじゃし、聖剣さえ使われなければ十分勝てる見込みはあるのう」
「ニンゲンさいきょーさん?」
「どうなんだろ?」
「ステータス通りなら、勇者の次には間違いなく、じゃろうな」
それはフラグじゃない? とも思ったけど、逆に考えればバンダルバがバーストを使って瞬殺してしまえば良いのか。出来れば勇者には退場して欲しいので、頑張ってバンダルバ。
『それでは1回戦8組目、試合開始ですッッ!!!』
「さぁって。お客さんを退屈させちゃいけないからな。簡単に潰れてくれるなよ!!」
「……っ!」
バンダルバが叫んだと同時に、黒フードは後ろを振り向いて剣を構えた。そこにバンダルバの振り被っていた剣が当たり、黒フードはステージ端まで吹っ飛ばされる。剣をステージに突き刺して停止するが、
「そらぁっ!!」
「ちっ……」
もう目の前にはバンダルバが迫っており、剣による刺突の連続攻撃が来た。黒フードはそれを全て捌いていく。猛攻の連撃を繰り出す剣術の精密性と剛力は、確かに大会中最も見応えのある光景を作り出す。
だがブレイクの剣筋も一切ブレずそれに対応している様に、観客から感嘆の声が上がった。
『おっぉおぉおお正直速過ぎてよく分かりませんが、ブレイク選手、バンダルバ選手の攻撃を全て捌いています。予選の時よりも数倍速いですッッ!!』
「この速さに付いて来るか。なら、もっと早くなれるよなぁああ!!」
バンダルバは残像すら残す勢いで剣戟を繰り出し始めた。観客達にはバンダルバが黒フードの周りに何人も現れては消えるように見えていることだろう。そして打ち合う音が会場内を盛り上げていく。
それでも黒フードは以前として無傷でその剣戟に応えていた。その場から一歩も動かずに。その状態に痺れを切らしたバンダルバは、一度攻撃を止めて後ろに下がった。顔にはまだ余裕が見えるが、小さく「何者だこいつ……」と違う意味で呟いていた。
「まったく。あの攻撃に付いてきて息切れ1つ無しかよ。声ぐらいあげてくれると思ってたのによ……」
「……」
「だんまりか。なら声を上げさせてみるか。上がれ!!」
「っ!?」
バンダルバは黒フードの片足部分だけでピンポイントで一気に盛り上げさせ、舞台のパネルごとブレイクを跳ね上げ、バランスを崩させた。そこに間髪入れずに攻撃が加えられる。
「爆裂槍ッッ!!」
カッ!!!!!
音速を超えたスピードで炎の槍が射出され、黒フードに当たって巨大な爆発を引き起こした。ステージの上が全て黒い煙で覆い隠されてしまった。だが爆発の煙を上空に突き抜けた者が居た。
『おぉおおっと、ブレイク選手健在!! あれだけの爆発を受けてまったく怯んでおりませんッ!!! なんて耐久力だぁぁぁあああああ!!!』
「んなことは分かってんだよッッ!! バーストぉぉぉおおおお!!!!」
そこにバンダルバもバーストのスキルを使って追い迫ってきた。剣には高濃度な魔力の刃を纏わせていた。バンダルバのシンプルにして最強の剣技であり、この技で幾度も闘技場の猛者達を地に着けさせてきた技だった。
これで終わる。そう思っていた彼の顔は、果たして疑惑に歪む。
(なんだ……? 何をするつもりだこいつ?)
黒フードは、空中で迫りくるバンダルバに対して、剣ではなく右手を向けていたのだ。二人は闘技場上空、国王が座っている階の高さまで上がっていた。そして、
「……」
黒フードは国王の居る方向を見ていた。
バンダルバも、その光景を見ていた観客も、アイドリー達も国王を見る。国王は静かに2人を見ていたが、その内、1つ頷いたのが見えた。
その瞬間、光が溢れる。
「なッ!?くぅうっ!!!」
バンダルバは光に押され、地面を滑るように着地。空を見上げれば、空中で発行する光がゆっくりと地上に降りて来るのが見えた。
その神々しい姿を見て、レーベルは表情をしかめる。
「聖剣、じゃな……いつみても煩わしい光よ……」
「へぇ……洞窟探検に便利そうだね」
「ねー♪」
「お主ら……」
地上まで降りて来た光が収まると、そこには私がよく知っている国の人の特徴が現れた人間が立っていた。黒髪黒目、白い鎧に身を包み、圧倒的な魔力の放出を遺憾なく発揮する聖剣を携えた人物。
「おい……嘘だろ?」
そう、誰かが呟いた。
観客達は知っていた。彼女が何者なのかを。口々にそれは電波をしていき、全員の心が一つになるには時間は掛からなかった。獣人との戦争を終わらせた存在。魔王を倒した本物の世界の英雄。
「「「勇者だぁぁぁあああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!」」」
『なんということでしょうか!! 謎に包まれていた黒フードブレイクの正体は、魔王倒し、世界を救った大いなる存在、勇者その人でしたぁああああ!! これは予想外を飛び越えて盤上を全てひっくり返しまいましたッ!!ていうか本当に良いのこれッ!? 国王様お許しになられているのでしょうか!?』
国王は黙して語らず。ただ勇者を見つめていた。バンダルバは本物の勇者を前、歯をむき出しにして笑い、剣を構える。
「嬉しいなぁ勇者様……くくっ、まさか武闘会に参加してくれるとはな。長年闘技場の覇者になり続けて来た集大成としては上出来過ぎるぜ……」
「……あんたも、まぁまぁ強かったわ。これで終わりだけどね」
「どう、かなッ!!!」
バースト状態での全力縮地で攻撃を仕掛けたバンダルバ。だが、
「遅いわ、おやすみなさい」
まるでスローモーションの中、通常のスピードで動いているかのような勇者を見るバンダルバの持っていた剣を、勇者は指で折った。そして続けざまに剣を振り、一瞬でバンダルバの両手足を根元から切り捨てる。
「は……はは、マジ……かよ……っ」
一矢報いることすら許されなかったダンバルバは、気を遠のかせながら自分より強い存在を見て驚愕する。あまりに一方的に勝敗が決してしまった試合に、観客達は興奮を隠しきれずにいた。あの、10年連続で優勝していた男を歯牙にも掛けずに倒したのだから、当然とも言える。
これが勇者の力、誰にも負けない人類至宝の力だと。
『決まってしまったぁあああああ!! 勝者は勇者様に決定、2回戦進出です!!!!』
割れんばかりの歓声の中、勇者は国王を見ていた。そこで、国王が遂に立ち上がる。国王は闘技場の全員を黙らせると、勇者についての説明を始める。
「まずは1つ詫びよう。実は勇者殿を予選にて正体を隠させていたのは儂の計らいだ。皆大いに驚いてくれたことだろう。今回こうして勇者殿に出場して貰ったのは、世界を救った勇者の戦う姿を、皆に魅せたかったからじゃ。だが勇者が出るとなると、賭けが成立しなくなるのも事実じゃ。それでは武闘会の意味が無くなる。なので、皆の物に一度金を返し、再度賭ける権利を進呈しようと思う。更に勇者に何人賭けても一律5倍とする。無論それは2回戦から反映されることになる。以上じゃ!!」
返事は歓声で返された。観客は皆喜ぶ。勇者に賭けるだけで賭けたお金が5倍で返って来るのだから。皆即座に動き出し、賭博用の受付窓口に押し寄せ始めてしまった。数分でスッカラカンになった闘技場に、セニャルで苦笑いで司会を続けた。
『えっと、それでは明日の試合にご期待下さい!!』
「これは明後日の倍率が楽しみじゃな主よ」
「皆行っちゃったしねぇ。他の選手も上がりそうだ」
「アイドリーのもー?」
((……上がるのか?))
今夜はチェスでアリーナに挑んでみた。
「やっぱりオープンゲームじゃ勝てないよ……何回やっても蹂躙されるし……」
「こうまで弱点を悉く潰されるとは……あっ」
「チェック♪」
「「うぐぉ~~」」
ミドルゲームで大体駒を取られました。




